携帯電話市場についての公正取引委員会の平成30年度調査について
2019/08/05   コンプライアンス, 独占禁止法

1.はじめに

公正取引員会から6月28日、「携帯電話市場における競争政策上の課題について」との報告書が発表されました。報告書は独禁法、景表法違反のおそれを指摘しており、これを受けて大手通信会社各社はサービスの見直しを迫られることになりそうです。
このようにサービスリリース後に法的な問題を指摘されることは法務担当者としては避けたいところではないでしょうか。
そこで今一度、報告書内で問題視されている事項について確認し、法務に生かせる点はないか見てみましょう。

参照:(平成30年6月28日)携帯電話市場における競争政策上の課題について(平成30年度調査)

2.報告書の概要

報告書では競争政策上の課題として、
(1)通信端末のセット販売、(2)期間拘束・自動更新付契約(いわゆる「2年縛り」)、(3)将来的な端末の下取りや同じプログラムへの加入等を前提としたプログラム(いわゆる「4年縛り」)、(4)SIMロック、(5)中古端末の流通を問題としています。

(1)通信端末のセット販売
セット販売とは、通信契約とセットで同一事業者から携帯端末を購入する販売方法で、しばしば端末料金の一部を通信料金から値引きするサービスが含まれます。
報告書はセット販売に伴う値引きサービス等自体は価格競争の表れとして望ましいものとしています。

しかしセット販売方法で通信料金を大きく値引くことの可能なMNO3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクなど 自社で携帯電話等に用いられる通信回線網を設置している事業者 )はMVNO(自社で回線網を持たず、MNOの回線網を間借りしてサービスを提供する事業者)と比べ競争上有利な地位を獲得する点を指摘しています。

その上で、MNO各社の販売する端末のシェアが約9割であること、前記販売方法がMNO各社によって採られていることから、MVNOの活動を困難にさせる場合は私的独占(独占禁止法(以下略記)第2条5項)として問題となることを指摘しています。

報告書の指摘する私的独占とはいわゆる「排除型私的独占」(事業者が単独または他の事業者と共同して競争相手を市場から排除したり、新規参入者を妨害して市場を独占しようとする行為)と考えられますが、「MNO相互の意思の連絡が無く、MNO各社の個別の判断に基づくものであったとしても、それぞれの行為が独占禁止法上問題となるおそれがある」と指摘した事は注目に値するでしょう。

参照:排除型私的独占について

参照:MNOの概要

(2)期間拘束・自動更新付き契約(いわゆる「2年縛り」)
平成28年度調査においても契約解除料を必要最小限度にすべきこと、解除料を不当に高くした場合は独禁法上問題となる等の指摘がありました。しかし今回の報告書では、加えてMNO各社のサービスを取り上げ、他のプランがあっても2年縛りをほとんどの消費者が選ぶ現状を指摘した上で、「2年縛りのないプランの料金が2年縛りを正当化するためだけに名目上設定されたもので、実体のある価格と認められず、全体としてみて利用者を2年間拘束すること以外に合理的な目的はないと判断される場合に、他の事業者の事業活動を困難にさせるときには、独占禁止法上問題となるおそれがある(私的独占、取引妨害等)」とサービスの実態に踏み込んだ指摘をしています。

参考:私的独占(独禁法2条5項)、取引妨害(独禁法2条9項6号ヘ)

(3)将来的な端末の下取りや同じプログラムへの加入等を前提としたプログラム(いわゆる「4年縛り」)
4年縛りとは、端末を4年の割賦払いとし、一定期間経過後旧端末を下取りに出すこと、新端末についても同プログラム に加入すること等を条件に旧端末の分割払い分の残債を免除する料金プログラムです。  

しかし残債務の免除を受けるには4年縛り契約を更新し続けなければならないこと、解約に負担を伴うことから、消費者に契約変更を断念させ、消費者の選択権を事実上奪い、他の事業者の事業活動を困難にさせるときは独占禁止法上問題となるおそれがある旨指摘されています(私的独占、取引妨害等)。

また、4年縛りは契約更新と引き換えに旧端末の残債務を免除するもので、結局新端末については債務を負担する状況が続く契約です。端末を半額で購入できるとの消費者側の印象でプログラムのメリット・デメリットを理解せず契約してしまうおそれがあり、その表示や説明の内容・方法によっては、消費者を有利誤認させ不当に誘引するものとして、景品表示法上問題となるおそれも指摘されています。

参考:私的独占(独禁法2条5項)、取引妨害(独禁法2条9項6号ヘ)、有利誤認(景品表示法5条2号)

(4)SIMロック
SIMロックとは、MNOが販売するに端末について、対応するSIMカードが差し込まれていなければ通信役務に利用できないよう機能を制限する仕組みを指します。

報告書ではSIMロックは店舗における盗難防止等というMNO側の理由により設定されており、解除に手数料を取ることに合理的な説明がつかない旨述べています。そのうえで、SIMロックを解除する手続きが必要であること、SIMロックの解除に手数料がかかること及び中古端末についてSIMロックの解除ができないことが消費者にとって通信会社を乗り換える際の妨げとなり、他の事業者の事業活動を困難にさせる場合には、独占禁止法上問題となるおそれがあるとしています(私的独占、取引妨害等)。

参考: 私的独占(独禁法2条5項)、取引妨害(独禁法2条9項6号ヘ)

(5)中古端末の流通
報告書では中古端末が端末市場シェアの5%に満たず流通数が増加していない点を指摘したうえで、MNOが下取りした端末について、その販売先の事業者に対して国内市場への販売を制限ないし事実上制限することはMVNOが端末を入手困難になるとして独禁法上問題となる旨指摘しています(拘束条件付取引、取引妨害等)。

また国内で中古端末を販売する特定の事業者に対して販売しない又は著しく不利な条件で販売するといった行為等についても独占禁止法上問題となり得る旨指摘しています(取引拒絶、差別取扱い等)。

参考:拘束条件付取引(独禁法2条9項6号ニ、一般指定12項)、取引妨害(一般指定14項)、取引拒絶(独禁法2条9項1号イ)、差別取扱い(一般指定4項)

3.コメント

以上、公正取引委員会が平成30年度報告書で指摘した問題を概観しました。

これら問題を指摘されたサービスはいずれもMNO各社が顧客の維持・獲得のためになされてきたものですが、競合各社との関係において独禁法上の問題、消費者との関係では景表法の問題となるようです。携帯電話市場のような継続的契約市場においては、契約更新を狙っていずれもスイッチングコストを増大させて消費者を囲い込む一方、代わりに端末の残債務免除や自社サービス内での通信料金の優遇をすること等消費者のメリットを付与することで囲い込みに合理性を持たせ、独禁法上問題となることを回避する意図があったと考えられます。

しかし公正取引委員会はサービスの実態に踏み込んで判断しており、今後スイッチングコストを増大させることによる顧客囲い込みという手段は採りづらくなることが予想されます。

携帯電話市場に限らず競合する市場においては、各社が消費者を囲い込むためのサービス展開をすることが常です。その際には良質なサービスを提供することによる自由競争ではなく、競争相手を市場から排除したり、消費者の選択肢を奪ったり誤認させたりする効果はないか、サービスの実態を見て法務担当者は注意することが求められるでしょう。

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