ネット通販市場への視点
2017/08/18   IT法務, 民法・商法

はじめに

 現在、ツールが整っているため、インターネット販売を展開する事業者が多くいますし、今後も増えていくと考えられます。
 そこで、いわゆるEC参入へのリスクや問題点をまとめ、ネット通販事業の展開を考える事業者様のお役にたてればと思います。

ネット販売参入場面でのリスク(対事業者視点)

~ネット販売事業に関して~
 ネット通販上の取扱い商品をどうするかによって、独占禁止法上の違反問題が生じえます。すなわち、競業事業者との関係です。競業する事業者はネット通販のなかで、既存の事業者の事業活動に悪影響を与える場合には、違反行為が認定されえます。どんな場合に問題になるのか、以下で検討します。

 ネット通販事業にて問題となりうることは、どんな範囲の事業活動への違反が問われるか、判断が難しいということです。その判断規準となるのが「市場」の同一性です。市場が同一の競業事業者に対して、参入しようとする事業者(新規参入事業者)の事業活動が、迷惑をかけないかどうかが重要となるのです。
 では、いかにして「市場」の同一性を検討するかは、自社の製品・サービスの範囲や地理的範囲、取引段階(川上・川下市場で取引するのかなど)を検討することについて、同一性を判断します。同一性が認められることによって、自社の事業活動によって迷惑を被る可能性のある事業者の範囲が明確になってきます。
 具体的には、ネット通販として「日用生活品の小売り販売」を展開しようとしたとします。すると、ネット通販での市場は、地理的範囲が問題とならないので、同様の「日用生活品の小売り販売」を行っている事業者が競業する事業者として、その同一性が肯定されます。そのうえで、競業する事業者の事業活動へ悪影響が生じないか、問題となります。具体例を検討すると、ネット通販においては在庫が問題視されます。その在庫を捌くため、また新規参入事業者として顧客を獲得するためにも、在庫処分の安売りによって「不当廉売」(独占禁止法19条、2条9項3号、一般指定6項)に該当しうる問題となりえます。

~小売り販売に関して~
 一方、小売市場への参入であれば、出店する地域の情報を仕入れ、地理的範囲からどの距離まで消費者の購買範囲に含まれるのかを分析する作業が入ります。そのうえで、商品や取引段階を検討して「市場」を判断します。そして、市場が画定すると、実際に競業事業者の事業活動いに悪影響が生じないかが判断されます。

事業展開上の注意点(対消費者視点)

 これまでは、ネット通販事業へ参入するうえでのリスクを検討してきました。以下では、事業者としてネット通販事業に起こりうる法的リスクを検討していきたいと思います。

①集客における「不当な勧誘」
→これは、消費者契約法4条以下に規定される(ア)不実告知、(イ)断定的判断の提供、(ウ)不利益事実の不告知です。要するに、具体的な例を挙げれば、(ア)ありもしない効果を謳って商品を販売すること、(イ)不確実な金融商品等を確実な値上がりが見込めるなどと言い顧客へ販売すること、(ウ)近所に近々迷惑施設等が建設予定であるのに、何ら説明しないなど、が考えられます。

 ただ、上記違法な販売が認められたとしても、同条が定める法効果は、当該取引の取消しです。つまり、「不当な勧誘」によって、消費者(購入者)の購買意欲(意思)がゆがめられた結果、瑕疵ある意思表示と扱われるのです。ですから、そう考えれば、「不当な勧誘」に該当しない行為であっても、その実態が消費者の購買意思をゆがめるものであれば、「買います」といわれた意思表示に瑕疵が生じ、取り消される可能性があるわけです。そうならないためにも、事業者としては、ネットという商品の実物確認が困難なものである以上、『商品説明』には瑕疵が生じないような表現に気を配るべきでしょう。

②解約等の規約が明示されていないなど、不当条項を設けること。
→顧客データを入力してもらうことで、会員データの入力を求めることとなるでしょうが、会員登録後に登録解除規定がないことや、商品等の破損について損害賠償責任を負わないとか、瑕疵担保責任の追及期間を法定の1年よりも消費者に不利に設定するなど(民法561条参照)の規定が、これに当たります(なお、瑕疵担保責任については個別法にて禁止条項が存在するのが一般的ですので、個別法で不当条項化されていないか、よく確認されることを推奨します。)。
 確かに、事業者として避けられるリスクを回避するのは当然です。ですが、そのリスク回避は適法な範囲で行われなければなりません。法務部員であれば、違法な契約条項は排除することをコンプライアンスとして意識される必要があるはずです。

③親会社等の自社グループ製品をインターネット販売する行為に関しての問題点
→自社製品とはいえ、販売店舗が存在し、かつインターネット販売サイトも設けるという場合も考えられます。そうした事業者において注意したい点は、親事業社製品の販売価格を固定化することが問題となります。すなわち、「再販売価格の拘束」という不公正な取引方法に該当し、独占禁止法19条に違反するおそれがあります。この行為は、本来的に、商品の価格設定という事業活動上の重要事項を拘束するもので、業務の活動制限と認められます。親会社製品であっても、顧客にとってはネット販売者の商品として購入する以上、その価格拘束に結果的に縛られるいわれはないわけです。親会社の製品とはいえ、法務部員としては違法性について指摘する姿勢も重要です。

⇒③問題に関する参考判例 : 神戸地判平成 14 年5 月 24 日(判例集未掲載)
 ≪事案≫
 インターネットのホームページを見て、電話をかけた被控訴人Bが、闘犬の試合に出場させる事の出来る土佐犬の購入を目的として控訴人方を訪れ、土佐犬嵐号(以下、「嵐号」という。)を購入し、被控訴人A会社が被控訴人Bのために売買代金支払いのための小切手を控訴人宛に振り出したところ、嵐号がフィラリアに罹患しており、買いうけ後1ヶ月もしないうちに死亡したとして、被控訴人Bは、本件契約は錯誤により無効であるとし契約締結費用の損害賠償請求及び事務管理に基づく費用償還請求をし、控訴人A会社が代金として振り出した小切手債務の不存在確認を求めた事件。
 ≪結論≫
 「土佐犬の販売と我が家の愛犬たち」としたホームページ上で,飼育する土佐犬の販売の広告を行い、嵐号を,全国横綱第20代「闘犬嵐」号として紹介し,平成12年12月の大会で試合に勝った実績を掲載していたこと、同ホームページ上には,「すぐに試合に出したい方には,即試合出場可能な様々な実績を持った経験豊富な(全国公認横綱もいます)犬をおすすめします。」という記載があったこと、被控訴人Bは,ホームページを見て控訴人に電話をかけ,控訴人の住む熊本へ赴いて,控訴人が飼育する土佐犬を見せてもらい,実績のある闘犬であるとして嵐号を紹介されたこと、被控訴人が嵐号を引き取るため被控訴人宅へ赴いたところ、勝ちたいという気があるなら嵐号の方がいいなどと説明し、嵐号ならば平成14年の春ころまで,あと3回は大会に出てそれなりの成績を挙げることができる等の説明をしたこと、とう事実から「即時試合出場可能な闘犬であるものと誤信してこれを購入したことが認められるから、被控訴人Bの売買の法律行為に錯誤があったと認めることができ」ると結論付けました。

→このように、ホームページ上での販売については、実物に対して購入者の購買意思に瑕疵(判例のケースは「錯誤」)が生じえます。そのため、不明瞭な記述により契約無効となりました。また、上記参考判例は、売主が嵐号の罹患を知っていたので、①の問題点に挙げた「不実告知」にもあたり得ます。

コメント

 このように、事業の新展開には注意すべき複数の問題が存在します。インターネットにおける事業展開の多方向性が認められる今日、既存の法的リスク等に限られない視点も必要になってきます。そんななかでも、企業の法務部員として自社利益を追求しつつ、法律を遵守する姿勢は崩さないことが必要だと思います。

関連サイト

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