「司法取引」初適用事件で判決、日本版司法取引について
2024/10/09 危機管理, 訴訟対応, 刑事法

はじめに
日本版「司法取引」が警察捜査事件で初めて適用された融資詐欺事件で先月24日、神戸地裁が懲役1年6ヶ月、執行猶予4年の判決を言い渡していたことがわかりました。司法取引により起訴にこぎつけたとのことです。今回は日本版司法取引について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、昨年11月、兵庫県警は会社の決算報報告書などを粉飾して銀行から融資金およそ4000万円を詐取したとして、宝塚市の自動車販売会社の元社長や税理士法人の職員らを逮捕していたとされます。この事件では、税理士法人の元職員で元税理士の男が2020年10月~21年1月、同社が融資を受けやすくするために、虚偽の決算報告書や残高試算表を作成したとのことです。逮捕された税理士法人の元職員と検察との間で司法取引が成立し、その捜査強力によって今回の起訴につながったとされ、司法取引に応じた元職員は起訴猶予となっております。
日本版司法取引とは
司法取引とは一般的に、犯罪の被疑者等が捜査機関に捜査協力をする代わりに、刑事処分で有利な取り扱いを受けるといった取引を言います。組織的犯罪や経済事犯では取り調べ中心の捜査方法では事案の解明が困難とされてきており、内部の人間の協力が極めて重要となってきております。そこで2018年6月に日本版司法取引制度である、協議・合意制度が導入されました。これにより詐欺罪や背任罪、贈収賄罪、文書偽造罪などの特定の犯罪で、被疑者と捜査機関が司法取引を行うことが可能となり、多くの犯罪解明に期待されております。一方で被疑者が不当に圧力を受けるリスクや司法の公平性が損なわれる懸念も指摘されており、慎重な運用が求められます。以下具体的に要件を見ていきます。
対象となる犯罪
日本版司法取引の対象となる犯罪である「特定犯罪」とは、死刑または無期拘禁刑に当たるものを除く一定の財産犯や薬物・銃器犯等とされております(刑事訴訟法350条の2第2項)。具体的には、強制執行妨害罪、文書偽造罪、有価証券偽造罪、支払用カード電磁的記録に関する罪、贈収賄罪、詐欺罪、恐喝罪、横領罪、組織的強制執行妨害罪、組織的詐欺・恐喝罪、犯罪収益隠匿罪、財政経済関係犯罪、覚醒剤取締法、大麻取締法等違反、銃刀法違反などが対象となります。財政経済関係犯罪とは、租税法や独禁法、会社法や出資法、著作権法等の経済犯罪を広く含むと言われております。またこれらの犯罪に関する司法妨害である、犯人蔵匿、証拠隠滅、証人等威迫、証人等買収なども対象となっております。
手続きの流れ
刑事訴訟法350条の2第1項によりますと、検察官は特定犯罪にかかる被疑者または被告人について、得られる証拠の重要性、関係する犯罪の軽重および情状、犯罪の関連性の程度その他の事情を考慮して、必要と認めるときは被疑者または被告人と取引を合意することができるとされます。具体的には検察または被疑者・被告人のいずれかが取引を申し入れ、相手方が承諾をすれば協議がなられ合意内容書面が作成されます。この合意には弁護人の同意も必要です(同条の3第1項)。この取引により被疑者・被告人は検察または警察の取り調べに際して真実を供述する、証人尋問で真実を供述する、証拠提出その他必要な協力をすることとなります(同条の2第1項イ~ハ)。これに対し検察側は不起訴、公訴取消、軽い求刑での起訴、略式命令請求などを行うこととなります。なおいずれかが合意に反した場合は合意からの離脱となり、司法取引は無かったこととなります(同条の10第1項)。
コメント
本件で神戸地裁は、税理士法人に所属していた元税理士である被告の虚偽の決算報告署や残高試算表の作成なしには本件融資詐欺は困難であったとしてきし、懲役1年6ヶ月、執行猶予4年の判決を言い渡しました。本件では税理士法人の職員(不起訴)の司法取引による捜査協力によって起訴にこぎつけたとされ、司法取引の重要性が確認された事例と言えます。組織的な犯罪や企業内犯罪、被害者無き犯罪など、通常の捜査では事案の解明が困難な犯罪の解決つなげるため、日本でもこのような制度が導入されました。また独禁法や景表法などでもこれに似た制度としてリーニエンシー制度が導入されております。粉飾決算や独禁法違反行為は身内や共犯者から捜査当局に発覚する場合が多くなってきております。これらを社内で周知し、違反行為が行われないよう啓発していくことが重要と言えるでしょう。
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