東芝の訴訟が買収で却下の見通し、株主代表訴訟の原告適格について
2023/11/24 訴訟対応, 会社法, メーカー

はじめに
東芝の株主による株主代表訴訟が、日本産業パートナーズ(JIP)による買収で終了する見通しです。株主側はJIPに引き継ぐよう求めているとのことです。今回は株主代表訴訟の原告適格について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、2015年に発覚した東芝の不正会計問題を巡り、同社株主が旧経営陣と監査していた新日本監査法人に対して株主代表訴訟を提起していたとされます。同訴訟はその後東芝が起こしていた損害賠償請求事件と併合され今年3月に東京地裁が5人の被告に対し計約3億円の支払を命じる判決を出していたとのことです。現在東京高裁で控訴審が係属しておりますが、同社はJIPが買収し、先日の臨時株主総会で株式併合がなされ完全子会社化がなされました。これに伴い株主代表訴訟の原告であった同社株主は株主としての地位を失い、訴えが却下される見通しとのことです。
株主代表訴訟とは
会社役員等に会社に対する責任や義務が生じた場合、本来なら会社が責任追及するのが原則です。しかし役員同士の仲間意識などから十分に追求がなされない場合があると言えます。そこで一定の要件の下、株主が会社に代わって責任追求の訴えを提起することが可能となっております(会社法847条)。それが株主代表訴訟です。手続的な要件は、6ヶ月前(非公開会社では無制限)から引き続き株式を有する株主が、まず会社に対して提訴するよう請求します(同1項、5項)。その日から60日以内に会社が訴えを提起しない場合に会社に代わって提訴することができます(同3項)。なお回復することができない損害が生じるおそれがある場合は提訴請求を経ずに提訴できます。また株主が不正な利益を図り、または会社に損害を加えることを目的とする場合は提訴できません(1項ただし書き)。
株主代表訴訟の原告適格
株主代表訴訟は上記のように6ヶ月前から引き続き株式を保有する株主に提訴権が認められております。非公開会社の場合は6ヶ月の制限はありません。ここでの保有株式数は1株でよく単元未満株主でも提訴は可能ですが、定款で単元未満株主は提訴できない旨定めることも可能です(189条2項、847条1項本文)。このように株主代表訴訟は「株主」であることが求められており、訴訟係属中に株式を譲渡するなどして株主でなくなった場合は原則として株主代表訴訟の原告適格を失うこととなります。しかし例外的に、(1)株式交換または株式移転によって株式を失った代わりに完全親会社の株式を取得した場合、または(2)当該会社が合併により消滅する場合で、株主が合併後存続する会社またはその完全親会社の株式を取得した場合は原告適格を失わないとされております(851条1項)。またその後さらに同様に株式交換等が行われた場合も同様とされます(同2項、3項)。これらの場合は株主でなくなっても、間接的に影響を受ける地位を取得するからです。
多重代表訴訟制度
上記の株主代表訴訟に加え、子会社役員に対して親会社の株主による代表訴訟制度が存在します。これが多重代表訴訟制度です(847条の3)。これはこれは平成26年改正によって導入された制度で、親会社が子会社の株式を100%保有しており、かつその子会社が親会社の総資産の20%以上を占める場合に、親会社の株式の1%以上を6ヶ月(非公開会社の場合は無制限)以上継続して保有している株主が提訴請求することができます。多重代表訴訟の場合もやはり請求の日から60日以内に会社が提訴しない場合に株主が提訴できるという点は同様です。当該会社ではなくその親会社の株主に提訴権を認めていることから、株式の保有比率1%以上という通常の株主代表訴訟よりも厳格な要件が設けられており、また子会社に損害が生じている場合でも親会社に損害が生じていない場合は提訴できないという違いがあります。
コメント
本件で東芝は経営再建の一環として日本産業パートナーズにより買収され、完全子会社となった後上場廃止となります。日本産業パートナーズはTOBで東芝株の78.65%を取得しており、先日の臨時株主総会で株主併合を行い、残存株主もスクイーズアウトされます。これに伴い東京高裁で継続中の株主代表訴訟の原告は株主としての地位を失い、原告適格も失う見通しです。今回は株式交換ではないことから日本産業パートナーズの株主となるわけではなく、原則どおり原告適格を失うこととなると言えます。原告側は引き継ぎを求めております。以上のように株主代表訴訟は株主であることが提訴および訴訟追行の要件となっております。しかし一定の例外もあり、また完全親会社の株主も一定の要件のもと提訴が可能となっております。代表訴訟係属中の組織再編の際には訴訟がどうなるのかについても慎重に対応していくことが重要と言えるでしょう。
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