東洋埠頭が同社川崎支店での火災を巡り出光などと係争
2022/06/04 危機管理, 民法・商法

はじめに
2022年5月24日、東洋埠頭は川崎市川崎区にあった同社川崎支店で2019年に発生した火事をめぐって、延焼施設の事業者と所有者から損害賠償請求訴訟が提起されたことを文書で公表しました。火災は同社の支店のみならず周辺まで広がり、近隣施設に延焼したため、発電事業を行っている別企業にまで影響が出たことが、今回の訴訟の原因となっています。本記事では、火災事件の経緯と訴訟内容について詳しく見ていきましょう。
火災発生の経緯
東洋埠頭は、倉庫業・港湾運送業・自動車運送業等を展開する会社ですが、2019年4月16日、同社の川崎支店で火災が起こり、近隣の施設にも延焼する事件が起こりました。火災は川崎支店内のベルトコンベアで発生し、人的被害はありませんでした。川崎支店は床面積9661平方メートルの普通倉庫であり、2万2080平方メートルの青果物倉庫、収容力17万4500トンの穀物サイロを有するなど、大規模なバルク貨物を取り扱い可能な機能を備えており、多彩な荷役機械も保有していました。海陸一貫ターミナルとして運営されており、川崎市川崎区の中でも有数の巨大な倉庫でした。今回の火災では、木くずなどでできた大量の発電用燃料(木質ペレット・ヤシの種殻)がくすぶり続けた結果、鎮火が難航し、川崎市消防局が鎮火完了を発表したのは10日後の4月26日午後になってからでした。
火災による具体的な被害
この火災により、延焼した施設で発電事業を行なっていた京浜バイオマスパワーと、発電施設所有者の出光興産が、2022年3月28日付で東洋埠頭を相手に損害賠償請求訴訟を提起していました。請求金額はバイオマスパワー分で37億9423万8105円、出光興産分が2億6486万7975円となっています。
火災による損害賠償訴訟の過去の判例
失火責任法では、「民法709条の規定は失火の場合にはこれを適用せず。ただし失火者に重大なる過失ありたるときはこの限りにあらず。」という規定があります。これにより、失火者に重過失がなければ、不法行為に基づく、民法上の損害賠償請求をすることはできません。「重過失」とは、最高裁昭和32年7月9日判決によると、「わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い注意欠如の状態」のことを指しています。一方で、下級審判決では自らの過失で火災を生じさせた場合、基本的に重過失が認められており、業務上の注意義務違反がある場合には、その違反により重過失と判断する傾向があります。火災による損害賠償訴訟の判例を見てみると、東京地裁昭和56年5月19日判決では、ガスコンロで揚げものの調理をしている最中に調理人が調理室を出て料理の下準備をしているときに、ガスコンロの火が油に引火して火災となった事案では、損害賠償が認められています。また、東京地裁平成27年1月15日判決では、家族で営む鋳物製造工場から出火して周辺に被害を与えたことにより近隣住民らが損害賠償請求した事案について、居室で休み、高温の鋳型について特段の監視を行っていなかったことが認められ、同じく、原告の損害賠償請求が認められています。
コメント
東洋埠頭は今回の控訴を受けて、事実関係の認識などに相違があるため、訴状の内容を精査したうえで適切に対処することを文書で述べています。また、訴訟の推移によっては、同社のの経営成績に影響を及ぼす可能性はあるものの、現時点ではその影響額は不明としています。文書の最後で同社は、今後開示すべき事項が発生した場合は速やかに報告をすることを述べています。今後の係争では、同社から発生した火災について、過失が認められるかがポイントとなりそうです。
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