住宅リフォーム会社がキャンセル料を取りやめへ、消費者契約法の規制について
2022/04/26 契約法務, 消費者契約法

はじめに
火災保険を利用した住宅修繕契約のキャンセル料が不当に高いとして、適格消費者団体が住宅リフォーム会社「ジェネシスジャパン」(八王子市)にキャンセル料規定を廃止するよう求めていた訴訟で25日、同社が請求の認諾を行っていたことがわかりました。キャンセル料は保険金の35%であったとのことです。今回は消費者契約法の解約料規制について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ジェネシスジャパンでは「火災保険の達人」というウェブサイトで、屋根や外壁などの修理にも火災保険を適用して、実質負担ゼロで実施すると勧誘していたとされます。しかし契約後に修理をキャンセルした場合、保険料の35%を徴収するとの条項を定めていたとのことです。これに対しNPO法人「消費者機構日本」はこのキャンセル料が消費者契約法に違反して不当に高いとし、キャンセル料規定を廃止するよう求め提訴しておりました。ジェネシスジャパン側は25日、原告側の請求を全面的に認める、認諾を行ったとのことです。
消費者契約法による規制
消費者契約法9条1号によりますと、消費者契約の解除にともなう損害賠償額の予定や違約金条項を定めている場合、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い「事業者に生ずべき平均的な損害の額」を超える部分については無効とするとされます。消費者契約とは、消費者と事業者との間で締結される契約を言い、消費者とは事業として契約の当事者となっていない個人を言うとされます(2条1号~3号)。そして消費者契約の解除とは、約定解除権や法定解除権の行使を言うとされます。適格消費者団体は事業者が同条に違反する消費者契約を不特定多数の消費者との間で締結するおそれがある場合には差止請求を行うことができるとされております(12条3項)。
平均的な損害の額
上記のように事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える解約料や違約金は、その超過部分について無効となります。それでは「平均的な損害の額」とは具体的にどのような額を言うのでしょうか。一般的には2通りの考え方があるとされ、1つは民法416条に規定される「通常生ずべき損害」と同義であるとし、2つ目は特商法や割賦販売法の損害賠償の制限と同様に考えるというものです。前者の考え方では、民法の債務不履行による損害賠償の範囲と同じように考えることから履行利益や逸失利益も含まれるとされております。逆に後者の考え方では原状回復の範囲に限定されると考えられております。前者の考え方ではより事業者の利益保護に傾くこととなり、後者では消費者保護に重きをおくこととなると言えます。
平均的な損害の額に関する裁判例
旅館の宿泊契約を解除した際の取消料について不当利得返還請求がなされた事例で、延べ209人の合計宿泊料138万2535円のうち、その87%にあたる120万2805円については旅館側の被った損害であるとして逸失利益を認めた例があります(東京地裁平成23年11月17日)。また挙式披露宴実施契約のキャンセル料が高額すぎるとして適格消費者団体による差止訴訟が提起された事例で、サービス料を含む見積額に粗利率を乗じた額が「得べかりし利益」であるとして逸失利益が認められております(京都地裁平成26年8月7日)。一方逸失利益が否定された例として、ドレスレンタル契約を締結し申込金の振込がなされた翌日に契約が解除されたという事例があります。裁判所は契約締結から解除までの1日で事業者側が何らかの費用を負担することや、それにより他の顧客を募集できなかったことにより利益を逸失するということは考えられないとしました(東京地裁平成24年4月23日)。
コメント
本件では火災保険を利用した屋根や外壁の修理契約を締結した後にキャンセルした場合、キャンセル料として保険金の35%を徴収するとの条項が設けられておりました。適格消費者団体による提訴を受けて会社側は全面的に認め、同条項を撤廃する意向としております。仮に判決に及んでいたとしても「平均的な損害の額」を超えると認定される可能性はあると思われます。以上のように消費者契約法では平均的な損害の額を超える解約料や違約金は超過部分につき無効とされます。裁判例では一般的に逸失利益も含まれる扱いがなされていると考えられますが、事例によっては考慮要素も様々であり不確定な部分も多いと言えます。今後法改正によって明確化したり、証明責任を事業者側に転換すべきとの動きも出ております。今一度自社での契約条項を見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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