東京地裁が「訓練期間」も雇用期間と認定、無期転換ルールと有期雇用について
2022/01/19   労務法務, 労働法全般

契約社員として5年を超えて勤務していたKLMオランダ航空の客室乗務員であった30~40歳代の女性3人が無期雇用への転換を求めていた訴訟で17日、東京地裁は無期雇用への転換を認めていたことがわかりました。訓練契約期間の取り扱いが争われていましたが、訓練契約も労働契約と認められるとのことです。今回は労働契約法の無期転換ルールと有期雇用について見直していきます。

 

事案の概要

 読売新聞によりますと、原告の3人は2014年3月から同社との間で締結した訓練契約に基づき2ヶ月間、オランダにある同社施設で乗務訓練を受け、その後有期労働契約を締結して同年5月から5年間客室乗務員として勤務したとされます。同社に無期雇用への転換を申し込んだところ拒否され、3人は無期雇用の転換などを求め東京地裁に提訴していたとのことです。同社は訓練契約は労働契約ではなく雇用期間も5年を超えていないと主張していたされます。

 

無期転換ルール

 以前にも取り上げたように、平成30年施行の改正労働契約法では有期労働契約が通算5年を超えて更新されると労働者は無期雇用契約への転換を会社に申し込むことができます(18条)。たとえば平成25年4月に最初の雇用契約を締結した場合、その後更新を繰り返し5年を経過した平成30年4月以降、更新された際に労働者は無期転換への申込みを行う権利を取得します。3年契約の場合は1回目の更新で権利を取得することとなります。申込みがなされると使用者はそれを承諾したものとみなされ、現に締結している契約内容の労働条件で無期雇用がなされたものとなります。なお同じ使用者との間で労働契約を結んでいない空白期間が6ヶ月以上ある場合、それ以前の契約期間は通算されないこととなります(同2項)。

 

有期雇用とは

 使用者と労働者との間で締結する期間の定めのある労働契約を有期雇用契約と言いますが、労働基準法14条1項ではこの有期雇用期間の上限を3年としております。ただし高度な専門知識等を有する労働者との間で締結する場合は上限が5年となります。高度な専門知識等を有する労働者の場合は労働条件などにおいて使用者より劣位な立場に置かれることは少なく、不利な条件で長期間の労働契約が締結されるおそれは少ないとの趣旨です。また満60歳以上の労働者と間で締結する場合も同じように5年が上限となります。こちらは60歳以上の労働者の雇用の機会を確保するという趣旨とされます。

 

雇止め法理

 使用者が有期労働契約の更新を拒否した場合は契約期間満了により雇用が終了します。これを雇止めと言いますが、従来最高裁判例により一定の場合には雇止めが無効とされてきております。この雇止め法理は労働契約法改正の折に法定化されました(19条)。それによりますと、(1)過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できる場合、または(2)労働者が更新されるものと期待することに合理的な理由がある場合には、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が認められなければ雇止めは無効とされます。これらの要件は従来最高裁で示された判例をそのまま明文化したものです(最判昭和49年7月22日、最判昭和61年12月4日)。

 

コメント

 本件でKLMオランダ航空は、乗務開始前の2ヶ月間の訓練契約は雇用契約には該当しないとしておりました。そのため無期雇用転換ルールの通算5年間には達していないとの主張です。これに対し東京地裁は、この訓練期間中でも原告3人は時間や場所を拘束され、日当や手当の支払いを受けていたことなどを踏まえると労働契約に該当するとし、無期雇用への転換を認めました。以上のように現在、有期雇用が更新され通算5年を経過した場合、労働者は無期雇用への転換を申請できます。適法に申請がなされた場合は会社側は拒否できないこととなります。現在、6ヶ月以上の空白期間があればリセットされる規定となっておりますが、同法は5年で見直される予定となっており、今後改正される可能性も高いと言えます。また無期転換を回避するための雇止めの場合も、やはり上記の雇止め法理は適用されることとなります。有期雇用労働者を雇用している場合はこれらを踏まえて適切な労務管理ができているかを今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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