過労死で新基準が初適用、過労死ラインについて
2021/12/24   労務法務, 労働法全般

はじめに

 居酒屋チェーン「庄や」で勤務中に脳内出血し、後遺症が残った元調理師の男性(62)に、労基署が一度は退けた労災認定を行っていたことがわかりました。残業時間は過労死ライン未満であったとのことです。今回は過労死ラインについて見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、元調理師の男性は2016年1月、千葉県柏市の店舗で勤務中に脳内出血で救急搬送され、左半身麻痺の後遺症を負ったとされます。同年3月に労基署に労災申請したが認められず、19年6月に決定取り消しを求め提訴していたとのことです。その後厚労省による認定基準改定を踏まえ柏労基署は過労死ライン未満であった男性の労災を一転認定したとされます。男性の直近2ヶ月間の残業時間は月平均約75時間であったとのことです。

 

過労死と過労死ライン

 過労死等とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡、業務における心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡、死亡に至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患・精神障害を言うとされております(過労死等防止対策推進法2条)。そして過労死ラインとは、発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって1ヶ月当たりの時間外労働が80時間を超えること、発症前1ヶ月間に1ヶ月当たりの時間外労働が100時間を超えることとされております。原則としてこれらに当てはまる場合は疾患と業務との関連性が強いと判断されることとなります。また使用者に対する損害賠償訴訟でも根拠となってくると言えます。

 

過労死認定基準の見直し

 厚生労働省は今年7月、有識者検討会を設置して現在の過労死認定基準の見直しについて報告書をまとめております。それによりますと、過労死ラインはそのままに、過労死ラインを超えなくても労災と認める場合があることを示し、労働時間以外の負荷要因も新たに追加されております。労働時間以外の負荷要因は従来から勤務時間の不規則性、心理的負荷を伴う業務、作業環境などがありましたが、それに加え新たに「休日のない連続勤務」「勤務間インターバルが短い勤務」「身体的負荷を伴う業務」「事業場外における移動を伴う業務」の4つが追加されております。これにより硬直的な過労死ラインによる認定から、労働時間が長くなくてもそれ以外の要因による負荷の度合いによって認定される可能性が出てきたと言えます。

 

時間外労働の上限規制

 これまでも取り上げてきましたが、現在労働基準法では時間外労働に上限が規定されており、それを超えた場合には罰則も規定されております。労基法では1日8時間、週40時間が法定労働時間とされ、それを超える部分が時間外労働となります(32条)。時間外労働には労使協定と労基署への届け出が必要とされ(36条)、その場合でも時間外労働の上限は月45時間、年360時間とされております。臨時的な特別事情があり、特別条項の合意がある場合には更に拡張することができますが、その場合でも、年720時間、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満、時間外労働と休日労働が複数月平均で全て月当たり80時間以内、月45時間を超えることができるのは年6ヶ月までとなっております(同条5項カッコ書き)。これに違反した場合には使用者に6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります(119条)。

 

コメント

 本件で庄やの千葉県柏市の店舗で勤務していた男性の直近2ヶ月の時間外労働の月平均が約75時間と過労死ラインを下回るものでした。しかし今年7月の厚労省による過労死認定基準の見直しにより過労死ラインを超えていなくても働き方や職場環境など様々な要因から負荷を評価していく運用となったため、改めて評価し直し労災認定されたとされます。これによりこれまで過労死ライン未満で救済されていなかった事例でも救済の可能性が広がったと言えます。以上のように近年では時間外労働への法規制も強化され、労災認定の運用も見直されつつあります。労災が認められる範囲が拡大したと同時に訴訟による損害賠償が命じられる可能性も拡大したと考えられます。今一度自社の労務・勤怠管理状況を見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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