東京地裁が訴え却下、取消訴訟の原告適格について
2019/09/03 行政対応

はじめに
両備グループが岡山市内で新しく認可されたバス路線の認可取り消しを国に求めていた訴訟で先月30日、東京地裁は訴えを却下していたことがわかりました。両備グループ側には原告適格が認められなかったとのことです。今回は行政処分の取消訴訟に関する原告適格について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、岡山市内で循環バス「めぐりん」を運営する八晃運輸が昨年4月に岡山駅前と西大寺地区を結ぶルートを新設し国が認可したとされます。これに対し同地域で路線バスを運営する両備グループは黒字路線に低価格で参入されると地方の赤字路線を維持できなくなるとして国に対し認可の取り消しを求め東京地裁に提訴していました。既存の競合会社に原告適格が認められるかが主な争点となっております。
行政処分取消訴訟の要件
国や自治体などの行政庁による許可や不許可、認可などの行政処分についてその取り消しを求める訴訟を取消訴訟と言います。事業の認可申請に対して不許可処分がなされた場合や営業停止処分を受けた場合などに利用する制度と言えます。この取消訴訟を行うための要件としましては、①処分性、②原告適格、③訴えの利益が挙げられます。処分性とは公権力として直接国民の権利に影響を及ぼすものでなくてはならないとされ(最判昭和39年10月29日)、国と民間との私法上の契約や単なる通達、告示などは原則該当しません。訴えの利益とは処分を取り消すことによって原告に客観的に回復可能な権利利益があることを言います。たとえば建築確認の取り消しを求めても、既に建物が完成してしまっていればもはや回復可能な利益はないとされております(最判昭和59年10月26日)。
第三者の原告適格
原告適格とは取消訴訟を提起することができる資格を言い、処分の取り消しを求めるにつき「法律上の利益」を有する者に認められます(行政事件訴訟法9条1項)。処分を受けた本人や申請をしたのに不許可処分を受けた者は当然に認められることとなります。問題となるのは第三者に原告適格が認められるかという点です。行政事件訴訟法9条2項では処分の根拠となっている法令、関係法令についてその文言や趣旨、目的などを総合的に判断して第三者の原告適格を判断するとしています。
判例の基準
第三者における「法律上の利益を有する者」について判例は、「処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者」とし、行政法規がその利益を「一般的公益に吸収解消」させようとしているのか、それとも「個々人の個別的利益」として保護しようとしているのかで判断するとしています(最判平成17年12月7日小田急訴訟)。そしてこれまでの判例で原告適格が認められた例としては既存の公衆浴場業者の営業上の利益や騒音被害を受ける飛行場の周辺住民、原子力発電所の周辺住民、林地開発の周辺住民などが挙げられます。逆に認められなかった例としてはジュースの表示認定についての一般消費者、電車運賃認可の利用客、既存の質屋営業者の営業利益などが挙げられます。
コメント
本件で東京地裁は既存の運送事業者の利益を保護する規定などは見当たらないとして、競合他社の認可の取り消しを求める原告適格は認められないとし訴えを却下しました。認可の根拠となる道路運送法などの関係法令では競合他社の営業利益を「個々人の個別的利益」として保護しようとする規定などが見られなかったものと考えられます。以上のように国などによる許認可はその対象だけでなく第三者も取り消しを求めることができる場合があります。しかしその要件は上記のように非常に複雑で判断が難しいものと言えます。また仮に原告適格などの訴訟要件を満たしたとしてもそれは入り口を超えたに過ぎず、さらに処分が違法であると判断されなければ取り消されることはありません。行政処分により不利益を受けている場合にはこれらの点を踏まえて専門の法律家に相談しつつ対応することが重要と言えるでしょう。
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