東京高裁が一部支払命令、退職金の法的性質について
2019/03/12 労務法務, 労働法全般

はじめに
東京メトロ子会社の元契約社員4人が、同じ業務を行っていた正社員と賃金等で差があったのは不当であるとして退職金などの支給を求めていた訴訟の控訴審で2月20日、東京高裁は退職金の一部支払を命じていました。同様の訴訟で退職金の格差を違法と認めたのは初とのことです。今回は退職金の法的性質について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、東京メトロの子会社「メトロコマース」の契約社員として駅の売店で販売員をしていた女性4人が、同じ業務を行っていた正社員と比べ、各種手当てや退職金が支給されないのは不合理であるとして約5000万円の支払いを求め提訴しておりました。争点となっていたのは基本給と賞与の格差、住宅手当、永年勤続褒章、早出残業手当、退職金とのことです。一審東京地裁は早出残業手当については不合理な格差を認め、それ以外では棄却しました。正社員と契約社員では職務内容と人事異動の範囲が異なることが理由としています。
労働契約法の規制について
正規と非正規の待遇格差問題についてはこれまでも何度も取り上げてきましたが、ここでも簡単に触れておきます。労働契約法20条では、有期契約社員と無期契約社員との間で労働条件に差がある場合、職務内容や配置変更、その他の事情を考慮して不合理な格差があってはならないとしています。不合理な格差に当たるかについて判例は各手当や待遇の一つ一つについて、その趣旨や目的から正社員と非正規での労働態様の違いを詳細に精査し検討しております(最判平成30年6月1日ハマキョウレックス事件等)。
退職金の法的性質について
一般的に多くの企業では従業員の退職時に退職金が支払われます。その捉え方については企業ごとに異なる場合があります。長年勤続してきたことへの恩恵や餞別と考えられている場合やこれまでの会社への貢献の再評価とされている場合があります。それでは法的にはどのように評価されるのでしょうか。裁判例では一種の賃金の後払い的性質を有するものとされております(東京地裁昭和59年5月15日)。しかし労働の対償としての賃金ではなく、任意的なものであることから支給要件や基準などは原則として当事者が自由に決定できるものと言われております。ただし退職金制度を導入する際には就業規則で規定する必要があるとされます(労基法89条3号の2)。
退職金に関する事例
退職金を巡る問題としては、懲戒解雇時に不支給とできるのか、競業避止義務違反がある場合に不支給とできるのか、退職従業員側から支払い請求ができるのかといったことが挙げられます。まず退職金を不支給とできる場合について裁判例は、単に懲戒解雇事由があるというだけでは足りず、労働者のこれまでの功績を失わしめる程度の重大な背信性が必要としています(大阪地裁平成8年12月25日)。そして同業他社への就職といった競業避止義務違反についても顕著な背信性がある場合に限るとしました(名古屋高裁平成2年8月31日)。また退職金の支給が当会社の慣行となっている場合は雇用契約の一部となっているとして退職従業員側から請求することを認めたものもあります(東京地裁昭和51年12月22日)。
コメント
本件で東京高裁は、非正規従業員について退職金制度を設けないこと自体は人事政策上、一概に不合理とは言えないとしつつ、定年まで10年前後勤務してきた原告従業員について一切支給しないのは不合理であるとして正社員の4分の1の支給を命じました。退職金は長年の勤続への褒賞であり、また上記のように賃金の後払い的な性質もあることから非正規であることを理由に当てはまらないというものではないと評価されたものと考えられます。近年労働契約法20条の待遇格差問題について企業側が敗訴する事例が相次いでおります。これまでは主に各種手当てについてでしたが、今回ついに退職金についての判断でた形となります。働き方改革で同一労働同一賃金が叫ばれており、今後もこのような判決が出ることが予想されます。非正規従業員を雇用している場合はその待遇について、今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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