ベトナム人実習生が労働審判申立、不当労働行為と労働審判について
2019/03/06   労務法務, 労働法全般

はじめに

 ベトナム人技能実習生が4日、最低賃金未満で長時間働かされたとして、未払い賃金などの支払を求め京都地裁に労働審判を申し立てたことがわかりました。基本給は6万円であったとのことです。今回は不当労働行為と労働審判について見直します。

事案の概要

 報道などによりますと、京都府福知山市内の縫製加工会社で2017年から働いていたベトナム人技能実習生の女性(39)は基本給6万円、残業時の時給400円で1日約5時間の時間外労働をさせられていたとされます。また会社側はパスポートを取り上げ、貯金を強制して通帳を預かっていたとのことです。労働組合「きょうとユニオン」は4日、会社側が団体交渉を拒否したとして不当労働行為の救済申し立てを行い、また技能実習生の女性も同日京都地裁に未払い賃金分250万円と慰謝料など110万円の支払いを求め提訴しました。

不当労働行為とは

 労働者は憲法上、団結権、団体交渉権、団体行動権といった権利が保障されております(28条)。ストライキや争議権といったものです。そして労働組合法では会社側に不当労働行為を禁止しております(7条)。具体的には以下の通りです。
①組合員であることを理由とする解雇その他の不利益取扱い(1号)
②正当な理由のない団体交渉の拒否(2号)
③労働組合の運営等に対する支配介入と経費援助(3号)
④労働委員会への申し立て等を理由とする不利益取扱い(4号)
これらの行為がなされた場合、労働者は労働委員会に救済申し立てが行えます。不当労働行為が行われてもそれに対する罰則はありませんが、労働委員会からの救済命令が出された場合、それが確定した後、その救済命令に違反した場合は50万円以下の過料(32条)、取消訴訟で救済命令が正当と認められた場合にそれに違反した場合は1年以下の禁錮または100万円以下の罰金となります(28条)。

労働審判とは

 労働紛争が生じた場合、労働者は裁判所に労働審判の申し立てができます(労働審判法5条1項)。労働審判は1人と裁判官と労働関係の専門家2人で構成され当事者を交えて話し合いがなされます。話し合いが功を奏し調停が成立した場合は裁判上の和解と同様の効果を生じます。調停が成立しなかった場合は労働審判がなされ裁判所から解決策が提示されます。異議がなければ確定し調停と同様の効果となります。異議を申し立てた場合は通常の訴訟に移行します(21条、22条)。

労働審判の特徴

 労働審判は通常の訴訟と比較して簡易迅速で柔軟な手続きです。申し立てが行われたら40日以内に最初の期日が開かれ、原則3回で終了します(15条)。申し立てから終了まで平均で2ヶ月半程度と言われております。また訴訟では判決内容も訴えの内容に合わせて、支払いを命じるだけであったり労働者としての地位を確認するだけとなりますが、労働審判ではより柔軟に解決金の支払いを提案するなどといったことができます。しかし証拠調べなどの手続きは訴訟と同じであり、確定した審判もまた判決とほぼ同様の効果を生じます。労働者に利用しやすく、効果も大きい制度と言えます。

コメント

 本件でベトナム人技能実習生を働かせていた縫製加工会社は原告側の主張によれば時給400円で残業を行わせ、また貯金の強制をさせていたとされております。これらが事実であった場合は最低賃金法や労働基準法違反となります。40日以内に労働審判の第一回期日が指定されますので、それまでにこれらの事実に関して反論を準備することになります。また同時に労働委員会での救済申立への対応も強いられることとなります。以上のように近年労働関係の紛争については簡易迅速で労働者に利用しやすい手続きが用意されております。また人手不足が叫ばれる昨今、外国人労働者が増加しておりますが、労働関連法は外国人にも同様に適用されます。そのため今後同様の外国人労働者による労働審判申し立て等が増加していくことが予想されます。今一度労働関係法令とその救済手続きについて確認しておくことが重要と言えるでしょう。

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