「まだ住めたのに」―東日本大震災の被災住宅無断解体に賠償命令も……。
2013/12/10 訴訟対応, 民事訴訟法, その他

事案の概要
判決によると,原告男性は,東日本大震災があった平成23年3月11日当時,岩手県釜石市に2階建て住宅を所有していた(当時女性が居住)。その住宅が震災により発生した津波により屋根まで冠水した。それでも,修理すれば使用できる状態だったため,同年5月初旬より修理を開始していた。ところが,9月に市により解体されたとされる。
釜石市は復興事業として,震災により被災した建物や基礎を解体する事業を行ってきた(事業自体は平成25年3月末で終了)。解体に当たっては申し出が必要であるが,市に解体撤去を求めない場合,黄色か緑色の旗を掲げておく必要があったという。
男性は,平成23年5月頃,市に「建物を残すので,がれきを撤去して欲しい」と市に依頼し,ブルーシートをかけていたという。一方,市によると,解体するかの問い合わせを行った際,男性の妻が「娘の家なので娘に確認してください」といったため,男性の娘に確認したところ,娘は自分の家と勘違いし,解体を許可したという。そのため,男性と市の意向がすれ違い,市の側が解体してしまった。
震災から2年9ヶ月が経過し,現状では同様の訴訟も複数存在するという。この問題は,被災に関する問題が一定程度落ち着いてから顕在化してきたとのことである。仙台市では同様の事案が多数存在するとのことで,提訴や調停,震災ADR等の法的手続きがとられている模様だ。宮城県内では同様の訴訟が11月時点で4件存在し,うち1件で市が2000万円を賠償金として支払うことで和解が成立した。この事案では,町長ら5人が減給となった模様である。
本件の事案では,原告男性が主張した建物の価額は1500万円であったのに対し,裁判所は震災前の建物の価値を35万円と認定した。また,住宅が解体されなかった場合に受け取ることが可能であったとされる都市計画に伴う損失補償は認められなかった。
東日本大震災関連では,住宅ローンを組んで建築して間もない住居や,住宅ローンが完済されていない住居も被災していることは言うまでもない。これらの住宅の所有者は,建物が被災したとはいえ,ローンの支払を免れることはできない。そのため,自己破産申立等を余儀なくされるケースも存在している。
震災からの復興上必要な事業であったとはいえ,これからも同種訴訟が増加が見込まれる。
コメント
東日本大震災から約3年が経過し,復興事業も不完全ながら進行している。原発関連問題も未だ解決の糸口が見出せていないばかりか,汚染水問題など,問題は次々に生ずるばかりである。
また,津波等の被害を契機に,自治体が区画整備等を計画し,立ち退きを余儀なくされている人々も現れ始めたという。復興のための事業とはいえ,住民の意思を無視した復興事業は真の復興事業とはかけ離れているように思われる。
これまで環境省は「東北地方太平洋沖地震による損壊家屋等の撤去等に関する指針」を示し,人の捜索・救出のみならず,被災者の遺体の捜索・搬出,防疫・防火対策等,復興支援事業に乗り出してきた。被災住宅の解体・撤去も同指針にのっとり進められた事業である。もっとも,同指針上も,敷地内で未倒壊の建物の解体・撤去は所有者の同意が必要であるとし,慎重な判断を要求している。
本件では,復興事業に伴う損失補償すら認められなかった事案である。もし,住宅が解体されていなければ,損失補償が受けられたはずである。そう考えると,原告男性の娘の了承があるとはいえ,原告男性自身が解体しないよう要求した事実がある以上は,市側の対応が十分であったといえるかは極めて疑わしい。
一見すれば「今更何を……」という意見があるかもしれない。しかし,本件のような事案は震災の物理的被害が落ち着いた今だからこそ生ずる問題ということができる。行政の側は,「震災からの復興」の真の目的は何なのかを見失うことなく復興事業に取り組まなければならない。物理的復興のみに着目するのではなく,真の復興とは何であるか,行政側の熟慮が要求されよう。
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