ダイキンに賠償命令、製造物責任法の立証責任について
2018/09/21   コンプライアンス, 製造物責任法

はじめに

 エアコンの室外機の欠陥により火災が発生したとして、教会の牧師らが「ダイキン工業」(大阪市北区)に対し損害賠償を求めていた訴訟で19日、東京地裁は約490万円の支払いを命じていたことがわかりました。今回は製造物責任法(PL法)による責任発生の要件とその立証について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、2012年10月、千葉県松戸市の教会の2階から出火し約73平方メートルが焼損しました。出火場所は2階のベランダでエアコンの室外機からのものと考えられ、教会側はエアコンの製造元であるダイキン工業に対し製造物責任法に基づいて損害賠償を求め提訴していたとされます。ダイキン工業側は放火やたばこによる失火の可能性も主張していたとのことです。

製造物責任法に基づく責任

 従来製造物による損害の賠償請求は民法709条に基づいて行われました。しかし消費者側が製造者の過失を立証することは困難であり、消費者保護の観点から過失の立証を要しない製造物責任法が制定されました。それによる責任発生の要件は①被告が製造物の製造業者であること、②被告が製造物を引き渡したこと、③製造物に欠陥があったこと、④損害が生じたこと、⑤因果関係、となっております(3条)。「製造物」とは製造または加工された動産を言い、「引渡し」とは一般に出荷または流通に置くことを言います。

「欠陥」の立証

 製造物責任による訴訟で最も重要なのは「欠陥」立証です。「欠陥」とは「当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他…の事情を考慮して…通常有すべき安全性を欠いていること」を言うとされます(2条2項)。欠陥の存在は原告である消費者側が立証する責任を負いますが、ここであまり厳格な立証を求めると過失の立証を免除した意味がなくなることから、欠陥の特定は社会通念上理解できる程度でよく、どの部位、どの部品に欠陥があったかまでは特定不要と言われております。また通常の用法に従って使用していたにもかかわらず、通常では起こりえない現象によって事故が発生した場合、そのような現象の発生自体が安全性を欠いているとの主張で一応足りるとも言われております。

製造業者側の抗弁

 製造業者側の抗弁としては開発危険の抗弁と部品・原材料製造業者の抗弁があります。開発危険の抗弁とは製造物を引き渡した時点での最高水準の科学・技術に関する知見をもってしても欠陥を認識できなかったというものです(4条1号)。部品・原材料製造業者の抗弁とは、部品や原材料が他の製造物に使用されている場合に、もっぱらその製造物の製造業者の設計や指示に従ったことによって欠陥が生じ、過失がない場合に免責されるというものです(同2号)。

コメント

 本件で東京地裁は2階に侵入することは困難であり、また喫煙者もいないことから放火やタバコによる失火の可能性は極めて低いとして被告側の主張を退けました。その上で出火元のベランダには室外機以外に発火源が無いとして火災は室外機の欠陥によるものと推認できるとしました。本件は室外機の欠陥以外に原因が考えにくいという点から欠陥が認定された例と言えます。以上のように「欠陥」の立証は消費者側が負いますが、その程度や方法は事例によって様々でかなり緩やかな場合もあります。また「通常の用法」に従っていたかも問題となりやすい論点と言えます。製造物の製造業者はどのような使い方をすればどのような事故が発生するかなどを予め想定しておき、訴訟になった際の抗弁を準備しておくことが重要と言えるでしょう。

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