『たった1回、1時間の遅刻なのに』 日本郵便と非正規社員、減給処分について和解
2013/04/10 労務法務, 労働法全般, その他

事案の概要
「たった1回、1時間の遅刻なのに、時給を100円下げられた」として、郵便事業会社(当時)の女性非正規社員が懲戒処分の無効確認などを同社に求めた訴訟が提起されていたが、人事評価方式の一部見直しと、解決金15万円を支払うことを内容とする和解が成立した。
同社近畿支社(当時)は平成22年から、勤務態度に基づく「基礎評価」と業務の習熟度の「スキル評価」を連動させる基準を導入。「基礎評価」は「無断欠勤・遅刻」など10項目あり、全項目で「常にできている」と認められなければ、「スキル評価」の中の「ほかの非正規社員に指示・指導できる」の項目が習熟度「なし」となり、時給を減額していた。和解に基づき、近畿支社は基礎評価とスキル評価を連動させる運用を廃止した。
コメント
本件では、懲戒処分の妥当性についてトラブルが生じた。減給を含めた懲戒処分をするにあたって、法的観点からその妥当性を精査することが必要であることが浮き彫りになった事例といえるだろう。
懲戒処分をする前に-チェックしておきたい6つのこと
手続・内容両面からの検討が必要である。
①問題行為は記録を残す
処分決定の前に、行為内容、行為の日時等の記録、被害者がいる場合には被害者からの申告内容等を全て文書で証拠として残しておくべきである。後でトラブルになった場合に必要。
②就業規則での定めが必要(労基法89条)
そもそも就業規則がない事項については懲戒処分はできない。整備した場合でも、過去の行為に遡って処分することはできない(山口観光事件 最判平8.9.26)。就業規則に記載してある場合でも、掲示等による周知が必要(フジ興産事件 最判平15.10.10)。
③本人に弁明の機会を与える
処分の前に事情聴取と弁明の機会を与えるなど、手続きの適正を確保する(東京高判平成16.6.16 千代田学園事件)。さらにそれを記録したり、問題行為の経緯を本人にまとめさせた「顛末書」を提出させるとなおよい。事件に別の原因が隠されている可能性を考慮し、無用なトラブルを避けるためである。
④平等・妥当な処分(労働契約法15条)
本件はこの点に疑問を感じた社員が提訴。2つの視点が重要。
1つ目は、実質的に企業秩序を乱すおそれのないような行為であれば、そもそも懲戒事由に該当しない(最判昭52.12.13 目黒電報電話局事件)、という点である。企業側に厳しめに就業規則を読み、ごく軽微な就業規則違反であれば、そもそも懲戒処分の理由が存在しないと実務上考えられている。
2つ目は、懲戒処分が重すぎるといえないか、という点である。重すぎるかどうかを判断する主な視点として、a.当該非違行為との比較、b.その企業における前例との比較、c.他の同種の従業員の例との比較の3点が挙げられる(最判平成18.10.6 ネスレ日本事件)。
⑤懲戒の内容、理由を書面で交付
対象者へ処分を申し伝える際には、トラブルを避けるため文書にして手渡すことが重要。
⑥二重処分の禁止
同じ処分案件に対し、例えば一旦譴責処分を行ない、後日降格させるような二重処分は、⑤との関連で妥当性を疑われる。懲戒が処罰的な側面があることから、刑事法的な考慮が働いているといわれている。
(以上、下記サイトを参考)
条文
■労働基準法89条
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
…
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
■労働契約法15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
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