無断写真利用の適法性、モノのパブリシティ権問題について
2019/05/22   著作権法, 商標法

はじめに

 著作権や商標権が侵害された場合には著作権法、商標法によって差止や損害賠償請求をすることができます。また個人の写真を無断で使用された場合は肖像権侵害となりえます。では建物の写真や商品の名前を無断で掲載された場合はどうなるのでしょうか。今回はモノのパブリシティ権について見ていきます。

モノのパブリシティ問題とは

 広告やホームページ上に街の風景やビル、寺社などといった建物の写真を掲載することは一般的に行われております。また有名な製品の商品名や著名人の氏名・名称などを掲載することもあります。このような場合に建物の外観や商品名、氏名、名称が法的保護の対象になるのかという問題を一般にモノのパブリシティ問題と言います。たとえば建物の写真を無断で広告などに掲載し、その建物所有者がクレームないし賠償を求めてきた場合などが典型例と言えます。著作権法や商標法といった法律が存在しない部分であるため問題となります。

モノのパブリシティ問題に関する考え方

 学説上、モノのパブリシティ権を肯定する説としては、そのモノの所有権にパブリシティ権も付随ないし内包されているとする考え方と、所有者自体が所有権とは別に有するとする考え方が存在します。しかし著作権や商標権と違い根拠となる法律が存在しないことからモノのパブリシティ権自体を否定する説が多数派と言えます。この点につき判例、裁判例は分かれておりますが基本的には否定的と言えます。

モノのパブリシティに関する判例等

(1)ピンクレディー事件
 雑誌にピンクレディーの楽曲を使用したエクササイズ法とともにピンクレディーのステージ写真を掲載し、著名人のパブリシティ権侵害が問題となった事例で最高裁は、個人は人格権に由来する肖像権をみだりに利用されない権利を有し、その顧客吸引力であるパブリシティ権も人格権に由来する権利に含まれるとし、他人が専らその顧客吸引力の利用を目的としていり場合には違法なパブリシティ権侵害となるとしました(最判平成24年2月2日)。著名人の容貌に関するパブリシティ権を人格権の一種として認めたと言えます。

(2)ガス気球広告事件
 広告用のガス気球を無断で撮影し、宣伝用のポスターに使用していた事例で東京地裁は、他人の所有物をいかなる手段・方法であっても無断で使用収益することは許されないとして不法行為の成立を認めました(東京地裁昭和52年3月17日)。これはモノのパブリシティ権の根拠を所有権に求めた例と言えます。

(3)ギャロップレーサー事件
 実在の競走馬が多数登場する競馬ゲーム「ギャロップレーサー」を販売したとして、競走馬の所有者が販売の差止と不法行為による損害賠償を求めた事例で最高裁は、所有権はその物の有体物としての排他的支配権にとどまり、名称等に支配権は及ばないとして所有権を根拠とするパブリシティ権を否定しました。また名称等に顧客誘引力等の経済的価値があったとしても、書作権法や商標法など法令の根拠がない場合は排他的使用権等を認めることはできないとしました(最高裁小法廷平成16年2月13日)。

コメント

 建物や機械、動物や人物などの写真を広告に使用したり、またホームページ等に掲載することは一般的に多く行われております。その際にそれらの所有者等から無断で使用したとしてクレームが入ったり、場合によっては損害賠償を求められ訴訟沙汰になるといった例も存在します。IT化が進み、個人のブログや動画などが重要な広告媒体となる昨今、このような問題も増加傾向にあると言えます。著作物や商標以外の建物の外観や車などの製品の外観、名称といったモノの権利については上記判例のように基本的には否定され、それらの写真を使用しても法的に違法となることはないと考えられます。著名人の写真などについては専ら経済的に利用する目的の場合には違法となりえます。広告やホームページなどで多数の写真などを使用している場合には、これらの判例等を参考に問題が発生しないよう留意していくことが重要と言えるでしょう。

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