機能しない食品偽装の内部告発制度。5年間で「改善指示」に結びついたものはゼロ。
2012/01/22 消費者取引関連法務, 民法・商法, その他

機能しない食品偽装の内部告発制度。5年間で「改善指示」に結びついたものはゼロ。
2006年に開始された公益通報制度。制度開始から5年間で、食品の適正表示を規定したJAS法違反を疑う通報が国や都道府県に計63件寄せられているものの、違反事業者名が公表される「改善指示」に結びついたものは1件もないことが分かった。通報のあった63件中41件は事業者名が公表されない「指導」、他の22件は「措置せず」を含め指導より軽い措置にとどまったとみられている。
これを受けて、消費者庁は、来年度以降、公益通報制度の改善に向けた実態調査を本格化するとしている。
※公益通報制度
労働者が、その雇われ先等の法令違反の事実を行政機関やマスコミ等に対して通報する制度。通報対象となるのは、刑法・食品衛生法・金融商品取引法・JAS法その他の法令違反である。公益通報を行ったことにより、通報者が解雇や契約解除などの不利益な取り扱いを受けないよう、通報者を保護する制度も設けられている。一方で、同法の規定への違反に対しては、特に罰則は設けられていない。
※JAS法
JAS法では、生鮮食品の原産地表示を義務づけているが、雪印食品の食肉偽装事件以来、違反業者につき、迅速な業者名の公表や罰則強化が図られている。現状、JAS法違反に対して行政機関がとる措置としては、違反事業者名を公表する「改善指示」や、これより軽微な措置としての「指導」などがある。
雪印食品食肉偽装事件
農林水産省から、日本国内産牛肉にBSE(狂牛病)にかかったものがあることが発表され、それを受けて、国産牛肉買い取り事業が開始。
この買い取り事業に対し、雪印食品は、外国産の牛肉を国内産と偽って国内産牛肉のパッケージに詰め込み、農林水産省に対し、買い取り費用を不正請求した。
ところが、雪印食品が自社の社員に虚偽の在庫証明書を作らせるなど加担させていることを知った、雪印食品の取引先である「西宮冷蔵(倉庫会社)」の水谷社長は、この事実を2002年1月22日に毎日新聞などに通報し、事件は白日の下にさらされることとなった。
その後、雪印食品側は、補助金詐欺に問われ、その社会的信用も大きく失墜。製品不買運動なども起こり、最終的に2005年8月に会社解散となった。
雑感
雪印食品食肉偽装事件の際に、社員を守りたい一心で意を決して内部告発を行った水谷社長だが、その後は会社が一時休業に追い込まれるなど、苦境を過ごしている。内部告発を行った会社として取引先からの信用を失い、取引先がどんどん離れていった結果、告発から10カ月後、従業員を解雇。JR大阪駅前の陸橋でカンパを募り、1年以上かかり、なんとか営業再開にこぎつけたようだ。
この事件を受けて、公益通報を行った者を保護する公益通報者保護法が制定されたが、依然として、公益通報をためらわせる現状は変わっていない。公益通報者保護法は、公益通報を行ったことを理由とする、通報者の解雇や契約解除などを禁止しているが、現実は「仕事がない」など、他の理由をつけて通報者を解雇したり、取引先から外すケースは後を絶たないようだ。残念なことに、業界全体として、目先のもうけを優先する考え、「ばれなきゃいい」という考えが染みついているという。
このように、依然として通報すること自体に大きなリスクを背負う公益通報制度であるが、それが、「通報したところで結局なんの効果のないものである」との認識が広まった場合、同制度の利用が減少の一途をたどることは想像に難くない。
下請法においては、違反企業には勧告と同時に社名が公表されることとなっているが、JAS法違反についても、「指導」というワンクッションをあえて置かずにいきなり社名を公表する仕組み作りを考える時期に来ているのではないだろうか。内部からでないと見破れない不正が厳然と存在する以上、この公益通報制度を形骸化させてはならない。
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