「オワハラ」と法的問題
2015/08/20 法務採用, 労働法全般, その他

1 概要
最近の就職活動では、内定者や内々定者などに対する「オワハラ」と呼ばれる企業の嫌がらせが問題になっています。「オワハラ」とは、「就活終われハラスメント」の略であり、新卒採用の内定を出した学生に対して、企業が他社への就職活動を終わらせようとする行為です。こうした企業による囲い込み行動は、最近では景気回復による就活戦線の売り手市場化や、就活時期が後ろ倒しになり短期決戦になっていることなどから、一段と活発化しています。そこで、「オワハラ」について法的問題点を取り上げます。
2 内定や内々定の法的性質
内定とは、求職者が雇用契約の申し込みを行い、採用企業が求職者に対して内定通知を行い、求職者が内定に承諾した場合に成立する「始期付解約権留保付労働契約」を言います(大日本印刷事件 最高裁二小 昭54.7.20判決)。「始期付」とあるのは、内定の時期から実際に入社し就労するまでは一定の期間があるためその就職時期を明確にするために記載されています。具体的には、新卒で就職する場合は卒業後を、中途採用の場合は採用通知を始期としています。また、「解約権留保付」とは、入社までにやむをえない事由が発生した場合には内定を取り消すことをいい、いわば条件付きの労働契約をさします。
このように労働契約が成立している以上、企業として他社への就職活動をしないよう条件を付けることはでき、脅迫にあたらない限り、違法にはなりません。ただし、内定者がこの条件に反し就職活動を継続したからといって常に内定を取り消せるわけではありません。最高裁の判例で、内定取消ができるのは「内定当時知ることができなかったような事実で、また客観的に合理的で、社会通念上相当な場合に限られる」とされています。
これに対し、内々定とは、企業側からの採用予定通知であり、労働契約には至っていない状態のことを指します。企業側の自主ルールにより出される内々定は労働契約ではないので、内々定がなされても学生側には何ら義務は生じないのが原則です。そのため、内々定を出した企業が、学生らに対してその後の就職活動の禁止を強要する行為は、就活生の自由意思による就職活動を不当に侵害するものとして違法とされる可能性があります。
3 コメント
企業からすれば、人材の確保は企業を発展させるための重要な行為なので、早く人材確保をすべく、オワハラ行為に出ているものと考えられます。しかし、インターネットが普及している現代では、オワハラ行為をされた学生らによってネット上でオワハラ行為をした企業のマイナスイメージが拡散され、次年度から学生に敬遠されることにつながる可能性もあります。また、強要または示唆する言動が、学生の自己決定権や職業選択の自由を侵害したとなれば、企業として法的に大きなリスクを負うことにもなりかねません。そこで、企業としては、他社選考の採用辞退要請の強要をすることなく学生の入社意志の強さを確認するにとどめることを留意しながら採用戦略を考えていくべきではないでしょうか。
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