特定商取引法違反で3人を逮捕、連鎖販売取引(マルチ商法)とは
2019/09/06 コンプライアンス, 特定商取引法

はじめに
兵庫県警は5日、東京都の会社「Brest(ブレスト)」(港区)社長の男(63)ら3人を特定商取引法違反の疑いで逮捕していたことがわかりました。マルチ商法で全国の会員から約161億円を集めていたとのことです。今回は特定商取引法が規制する連鎖販売取引を見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ブレスト社長ら3人は共謀し2013年から3年間にマレーシアの会員制交流サイト(SNS)「エムフェイス」の広告枠への投資を持ちかけ、全国約3万2千人から約161億円を集めていた疑いが持たれております。
口コミやセミナーなどで出資者を募り、出資した人にさらに別の出資者を勧誘させ、出資額や勧誘実績に応じて配当金が得られると説明したいたとされます。その際、代表者の指名や住所などが記載された書類などを交付せず、また契約を解消できる旨を故意に伝えなかったことなどの疑いが出ております。
今年3月には警視庁が同様の手口で投資を募っていた別グループのメンバーを逮捕していたとのことです。
連鎖販売取引とは
個人を販売員として勧誘し、さらにその個人に別の販売員を勧誘させ連鎖的に商品または役務の販売を拡大していく商法を連鎖販売取引と言います。一般にマルチ商法とも呼ばれます。
特定商取引法の連鎖販売取引に該当する場合には一定事項の明示や表示義務などが課され、またいくつかの禁止行為が規定されております。
また違反した場合は業務改善命令(38条)、業務停止命令(39条)、業務禁止命令(39条の2)などの行政処分がなされるほか、罰則として3年以下の懲役、300万円以下の罰金またはこれらの併科となる可能性があります(70条1号)。
連鎖販売取引の要件
特定商取引法33条によりますと、
①物品または役務の販売事業で
②再販売、受託販売、受託販売のあっせん、同種役務の提供、同種役務の提供のあっせんをする者を
③特定利益が得られると勧誘し
④特定負担を伴う取引を行うこと
を連鎖販売取引というとしています。
少々わかりにくい規定ですが、つまり「他の人を誘って入会してもらうと何割の配当がもらえます」などと勧誘し金銭を負担させる取引を言います。この再勧誘の際の配当や紹介料を「特定利益」、入会する際の負担金を「特定負担」と言います。
連鎖販売取引を行う際の規制
(1)氏名等の明示
連鎖販売取引を行う場合には勧誘に先立って消費者に対し、①統括者、勧誘者、一般連鎖販売業者の氏名または名称、②特定負担を伴う取引についての契約の勧誘目的である旨、③商品または役務の種類を明示しなくてはならないとしています(33条の2)。
(2)禁止行為
連鎖販売取引の勧誘の際に契約解除を妨げる目的で商品の品質や性能、特定利益、特定負担、解除条件など重要事項を告げずまた虚偽の内容を告げること、解除を妨げる目的で相手を威迫すること、勧誘目的を告げずに誘引し、公衆の出入りする場所以外で勧誘を行うことが禁止されます(34条)。
また著しく事実に相違する表示や実際のものより著しく優良・有利であると誤認させるような表示による誇大広告も禁止されます(36条)。
(3)書面の交付
また契約の際には①統括者の氏名、住所、電話番号、②商品の種類、性質、品質などに関する事項、③商品名、④価格、⑤特定利益、⑥特定負担の内容、⑦契約解除の条件その他禁止事項などを記載した書面を交付する必要があります(37条)。
コメント
本件でブレスト社の社長ら3人は出資を持ちかけた際、代表者の氏名や住所などが記載されていない書類を交付し、また契約が解除できる旨を故意に伝えなかった疑いが持たれております。これらが事実であった場合には特定商取引法の書面交付義務違反や禁止事項に抵触することとなります。
以上のように連鎖販売取引にはかなり厳格な規制が置かれており罰則も設けられております。なお似たような商法に「ネズミ講」と呼ばれるものがあります。これは連鎖販売取引と違い物品や役務の販売を目的とせず金品の受け渡しのみを目的とし、2人以上の会員を勧誘させるというものです。こちらは連鎖販売取引と異なり無限連鎖講防止法によって無条件で違法となります。
消費者に会員の勧誘を募る商法を行う際には以上の点を踏まえてこれらの法令に抵触しないよう留意することが重要と言えるでしょう。
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