裁判外紛争解決手続とその種類について
2019/01/16   訴訟対応, 民事訴訟法

はじめに

 原発事故の損害賠償を巡り住民側が申し立てた和解の仲介で、国の原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)が示した和解案を東電側が拒否している旨、朝日新聞が報じております。住民側は東電側による和解拒否を理不尽だとしています。今回は裁判以外の紛争解決手続(ADR)について見ていきます。

裁判以外の紛争解決方法

 企業同士や企業と顧客などの間で紛争が生じた場合、通常はまず互いに話し合って解決を模索します。しかしそれで合意の糸口が見いだせない場合は法的な手段によることとなります。その際一般的に想定されるのは民事訴訟だと考えられますが、それ以外にも民事調停や各種ADRといった手段も存在します。裁判所を通した手段でも、民事訴訟以外に支払督促や少額訴訟など、より簡易で迅速なものも用意されております。以下ADRを中心に見ていきます。

裁判外紛争解決手続

(1)民事調停
 裁判所が主宰するADRとして民事調停があります。民事調停は裁判官1人と弁護士など民間から選ばれた調停員1人を関与させて紛争当事者どうしが話し合います(民事調停法5条~7条)。訴訟と違い、あくまで話し合いであることから、柔軟で穏当な解決方法と言えます。また費用も安く、非公開で行われるので企業秘密やプライバシーなども守ることができます。話し合いがまとまれば調停成立となりますが、折り合いがつかない場合は「調停に代わる決定」が出されるか調停不成立となります。調停に代わる決定とは裁判所が当事者双方の一切の事情を考慮して解決に必要な決定を出します(17条)。2週間以内に異議申立がなければ調停成立となります(18条1項、5項)。

(2)公的機関によるADR
 裁判所以外でも行政機関や独立行政法人といった公的機関によるADRが存在します。代表的な例としては各労働委員会による「労働争議のあっせん」や「不当労働行為の救済申立」が挙げられます。これも公的ADRの一種です。またそれ以外でも国民生活センターや消費生活センター、公害等調整委員会、建設工事紛争審査会、原子力損害賠償紛争解決センターなどが特定の分野における紛争の仲裁を行っております。

(3)民間機関によるADR
 2007年4月に施行された「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」により、民間機関は法務大事の認証を受けることができるようになりました(5条)。この認証を受けないとADR業務を行えないというものではありませんが、認証を受けることによって法が定めた一定の基準をクリアしている団体とみなされ利用者も安心して利用できるようになります。認証基準の例として、専門的知識のある人材を確保していることや弁護士等の助言が受けられること、手続、資料の保管、費用の算定などが定められていること、プライバシー保護の体制が整っていることなどが挙げられます(6条)。認証を受けている団体としては日本弁護士連合会、消費者団体、交通事故紛争処理センター、全国銀行協会、日本貸金業協会などがあります。

コメント

 本件で住民側が利用していたのが原子力損害紛争解決センターです。これは原発事故を受け、文科省の原子力損害賠償紛争審査会に設置された公的ADR機関と言えます。ADRである以上、強制的な紛争解決力はありませんが、訴訟に踏み切る前に専門家を交えた話し合いを行うことが可能です。以上のように民事紛争の解決方法は訴訟以外にもいくつか用意されております。長い付き合いのある取引先企業と紛争が生じた場合、訴訟に踏み切れば解決の見込みは高いものの、その強硬的な性質から関係は悪化する場合もあると言えます。お互いに解決の意思がある場合はまず民事調停や各分野の機関によるADRを選択し、穏当な解決を目指してみることが重要と言えるでしょう。

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