市議が音信不通で報酬支払えず、弁済供託について
2018/08/07   民法・商法

はじめに

一時失職し、知事の裁決で復職した熊本市議の北口氏(60)が音信不通となっており、失職中の議員報酬が支払えずに遅延損害金が発生し続けていることがわかりました。市議会運営委員会は損害金含め法務局に供託する予定とのことです。今回は債権者に弁済できない場合の供託について見ていきます。

事案の概要

報道などによりますと、熊本市議の北口氏は一時失職し、熊本県知事の裁決で復職していました。失職中の議員報酬は409万円で市議会運営委員会は支払いのために同氏に対し電話メッセージ3回、電子メール1回、配達証明郵便2回使用し連絡を試みたところ3日の時点で連絡はとれず、以前振込に使用していた口座も解約されているとのことです。失職中の報酬には民法の法定利率5%の遅延損害金が発生し、3日の時点で約3万3千円の損害金が発生しているとされます。運営委員会は法務局に供託する方針です。

弁済供託とは

債務者は弁済期に債務を弁済しないと遅延損害金が発生することになります(民法412条1項)。しかし様々な理由で弁済ができない場合もあります。そういったときに取れる手段として供託という手続きが存在します。これを行うことにより債務者は債務を免れ、遅滞責任等も負わずにすむことになります(494条)。供託には執行供託、保証供託、保管供託等いくつか種類がありますが今回は弁済供託について見ていきます。

供託原因

(1)受領拒否
弁済供託ができる場合の一つとして受領拒否があります。金額等で折り合いがついていないといった理由で債権者が受け取ってくれない場合のことです。たとえば借地の賃借料を所有者が値上げしたが、賃借人が納得していな場合が挙げられます。この場合もともとの賃料を弁済し、拒否された場合に供託することができます。重要なのはあくまで「債務の本旨に従った」弁済の提供が必要ということです。ゆえに一部弁済や債務額に足りない場合は認めらません。

(2)受領不能
受領不能とは債権者側の事情で弁済を受け取ることができない場合を言います。たとえば持参債務で債権者が不在、取立債務で債権者が履行地に来られない、債権者が行方不明、債権者が死亡し相続人がいない、債権者が制限行為能力者で法定代理人がいないといった例が挙げられます。取立債務で受け取りを促したにもかかわらず取りに来ない場合は受領不能ではなく受領拒否になります。債権者不在はたとえ一時的なものでも供託することが可能です(大判昭和9年7月17日)。

(3)債権者不確知
債権者不確知とは債務者の過失なくして債権者が誰であるかわからない場合を言います。典型的には債権者が死亡し相続人が不明である場合や、債権が二重譲渡された場合などが挙げられます。なお譲渡通知の到達が先後不明の場合、判例上は「同時到達」とみなされ、どちらか一方に弁済すれば免責されるとされていますが(最判昭和55年1月11日)、供託実務上は先後不明も不確知として供託を認めています。

(4)不受領意思明確
不受領意思明確とは債権者があらかじめ弁済受領を拒絶し、その意思が強固で明確な場合を言います。これは受領拒否の一種ではありますが弁済の提供を必要とせずに供託することができる場合です。この不受領意思は明示的なものでなくてはならず、黙示的なものでは不可能とされています。明確に「絶対受け取らない」と言っている場合や、そもそも契約の存在自体を争っている場合、賃借物の明け渡し訴訟が提起されている場合などは「明確」と言えます。

コメント

本件では債権者である市議に対し、電話やメール、配達証明郵便等で連絡を試みるも応答がなく口座も解約されているとのことです。これは履行不能に該当するものと考えられ、履行不能を理由とする弁済供託が可能と思われます。供託をした場合、その時点で市側は債務が免れ、市議は法務局に供託金還付請求を行うことになります。以上のように供託制度は何らかの理由で債権者に弁済の提供ができない場合に債務者を債務から解放するための制度です。利息制限法が適用されない売買契約や請負契約等で債権額が大きい場合は遅延損害金も相当な額にのぼることがあります。供託できる場合やその要件はそれぞれ異なりますので、どのような場合に供託ができるかを正確に把握し、速やかに供託を行えるよう備えておくことが重要と言えるでしょう。

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