愛知県警が「株主総会特別警戒本部」を設置、総会屋と利益供与について
2018/05/08 総会対応, コンプライアンス, 会社法

はじめに
愛知県警は1日、企業の株主総会が集中する6月を前に「株主総会特別警戒本部」を設置していたことがわかりました。刑事部長をトップとし捜査員140人体制で「総会屋」をとりしまるとのことです。今回は会社法が規制する利益供与と総会屋について見ていきます。
総会屋とは
上場企業の株式を少数取得し、株主総会の議事運営を妨害するために株主権を行使し会社に金品などを要求する者をいわゆる「総会屋」と呼びます。株主総会を平穏に乗り切りたい経営陣の心理につけ込んだ行為と言えます。株主が多い大規模な会社の場合、株主総会も正確に賛否の数を数えずに「賛成多数」や「満場一致」として決議をとることが慣例化しており、そのような総会運営は総会屋にとっても妨害しやすいと言われております。総会屋は半社会勢力の資金源とも言われ、これまでも何度も総会屋排除のために法改正がなされてきました。毎年度ごとの定時株主総会を多くの企業が6月に集中させるのは総会屋対策のためとされております。
会社法の利益供与規制
会社法120条1項によりますと、「株式会社は、何人に対しても、株主の権利…の行使に関し、財産上の利益の供与をしてはならない」としています。まさに上記の総会屋を見据えた規定となっており、この規定に違反して利益の供与を受けた者は会社に対して返還する義務を負います(同3項)。また関与した取締役は供与した額を連帯して会社に支払う義務を負います(同4項)。直接供与した取締役は無過失責任を負いますが、それ以外の関与した取締役は過失が無かったことを証明することによって免除されます(同但書)。なお別途罰則として3年以下の懲役または300万円以下の罰金が課されることがあります(970条1項)。これは利益の供与を受けた者も同様です(同2項)。以下要件を見ていきます。
利益供与の要件
(1)供与の相手
条文上は「何人に対しても」とされており、「株主の権利の行使」に関してなされた利益の供与であるなら誰に対しても成立することになります。つまり供与の相手は株主に限定されておりません。これは実際には株式を取得せずに金品の要求を行ってくる総会屋、すなわち総会屋が株式を取得しないことと引き換えに利益を供与する場合を念頭に置いた規定と言われております。また総会屋以外の第三者に利益を提供する場合も含まれます。
(2)株主の権利行使に関して
利益の供与は「株主の権利の行使に関し」て行われる必要があります。株主の権利は剰余金配当請求権や残余財産分配請求権といった自益権の他に、株主総会での議決権や提案権、質問権、株主代表訴訟提起権などの共益権も含まれます。当然これらの権利を行使することだけでなく、消極的に行使しないことも含まれます。判例では好ましくない株主から自己株式として買い取る行為、すなわち株式買取請求権も含まれるとされております(最判平成18年4月10日)。
(3)財産上の利益
供与する財産上の利益は当該会社かまたはその子会社の計算で行われる必要があります。つまり形式的な名義ではなく実質的に損益がそれらの会社に帰属しているかによって判断されます(東京地裁平成11年9月8日)。そしてその利益の内容は財産上のものに限られます。刑法上の賄賂は人の欲望を満たすあらゆるものが含まれますが、それよりもかなり限定したものと言われております。
コメント
近年総会屋は昔に比べてかなり減少していると言われております。愛知県警の捜査4課でも昨年は摘発例が無かったとされております。一時期は半社会勢力の資金源にもなり、場合によっては企業が傾くほどの影響があった総会屋ですが、相次ぐ法改正により排除が相当進んだと言えます。しかし上記のとおり利益供与は典型的な総会屋に対してだけでなく「株主の権利の行使に関」する限り何人に対しても成立します。たとえば大規模な不祥事があった後の株主総会で追求を控えてもらうために大株主に金品を提供するといった場合も当然該当することになります。取締役のポケットマネーから提供した場合でも、その後交際費などの名目で会社から拠出された場合も同様です。まもなく定時株主総会の時期に突入します。招集運営手続きだけでなく利益供与規制にも注意を払って株主総会を乗り切ることが重要と言えるでしょう。
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