PCB廃棄物・ポリ塩化ビフェニル廃棄物の処理の実務的な留意点(2019年改正法対応)
2020/07/28   コンプライアンス, 行政対応, 住宅・不動産, 建設

今回は牛島総合法律事務所の猿倉健司弁護士に企業が保管しているPCB廃棄物の対応及び実務上の留意点についての記事を執筆していただきました。


PCB(ポリ塩化ビフェニル。以下「PCB」といいます)は、生物の体内に蓄積されやすく、人の健康を損なうおそれがある有害物質です。PCB廃棄物を保管している事業者等は、行政に対して保管状況等を届出なければならないうえ、一定期間内に処分することが法律上義務付けられています(2016年改正法において、高濃度PCB廃棄物についても処理期限が明確にされています。)。
以下では、企業が保管しているPCB廃棄物について、法令・条例で求められる対応及び実務上の留意点を簡単に解説します。

詳細については、牛島総合法律事務所ニューズレター・猿倉健司『PCB廃棄物・ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理の実務上の留意点』をご参照ください。

なお、断りのない限り、以下で使用する「法」、「令」、「規則」の記載は、それぞれポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(以下「PCB特別措置法」といいます)、同施行令または同施行規則を意味します。

 

 

 

1.PCB特別措置法における規制

事業活動に伴ってPCB廃棄物(ポリ塩化ビフェニル廃棄物)を保管している事業者には、PCB特別措置法の規制が適用されます。

(1)規制対象となるPCB廃棄物

 PCB廃棄物は、高濃度PCB廃棄物と低濃度PCB廃棄物に分類されますが、後述のとおり、両者で処分期限や処分可能な処分場が異なります。
 2019年の改正法においては、これまで高濃度PCB廃棄物(廃棄物に含まれるPCBを含む部分が重量を占める割合で0.5%を超えるもの)として分類されていたもののうち、可燃性の廃棄物で、PCBを含む部分が重量を占める割合で0.5%を超え10%以内のものが、新たに低濃度PCB廃棄物に分類されることになりました。

(2)PCB廃棄物の処理義務と処理期限

 その事業活動に伴って高濃度PCB廃棄物を保管する事業者(PCB保管事業者)は、PCB廃棄物の種類や保管場所が所在する区域ごとに、処分期間内に、自らまたは業者に委託して適切に処分する必要があります(法10条、14条)。
① 高濃度PCB廃棄物の処理期限
 高濃度PCB廃棄物の処理期限については、以下のとおり、地域ごとに決められています(処理期限2018年3月末~2023年3月末まで1)。
 ここで注意すべきは、高濃度PCB廃棄物については、中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)の処理場で処理をする必要があるということです。JESCOに処理を委託する場合にはあらかじめ登録を行う必要がありますが、処理施設の数が極めて限定されているため、委託してから実際に処理が行われるまでにかなりの期間を要することが予想されます。
② 低濃度PCB廃棄物の処理期限
 低濃度PCB廃棄物については、処理期限が2027年3月31日までとされています(令7条)。低濃度PCB廃棄物の処分場については、JESCOの処理場に限られず、民間の処理事業者(無害化処理認定施設、都道府県知事等許可施設)で処理できます。
③ PCB廃棄物の処理義務違反に対する措置
 PCB特別措置法で規定されている処理義務を履行しない事業者に対しては、行政により、指導・助言(法11条)や改善命令(法12条、33条1号)がなされる場合があるほか、行政による代執行(法13条)等の措置がなされる可能性があります(改善命令に違反した者は、3年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはこれを併科)。

(3)PCB廃棄物に対するその他の規制

(4)地方自治体等の行政の権限

 PCB廃棄物の処理義務や保管義務を負わせていることに関して、行政には報告徴収(法24条、35条2号)及び立入検査(法25条1項、35条3号)等の権限が与えられています。
 なお、PCB保管事業者らの代表者や従業員等が、その事業に関して違反行為をした場合には、当該違反者の他、会社に対しても同様に罰金刑が科されることがあります(法36条)。

 

2.廃棄物処理法における規制

 PCB特別措置法は廃棄物処理法の特別法であり、PCB特別措置法に規定のない事項については廃棄物処理法の規定が適用されることになります。

(1)規制の対象

 廃棄物処理法では、特別管理産業廃棄物管理責任者を設置し、事業に伴って排出されたPCB廃棄物(特別管理産業廃棄物)を適切に保管することが求められ、また、処理の際にも政令で定められた基準に従い適切な処理を行うことが求められます。

(2)管理責任者の設置、廃棄物の適切な保管、及び適切な処理の実施

廃棄物処理法では、特別管理産業廃棄物管理責任者を設置し、事業に伴って排出されたPCB廃棄物(特別管理産業廃棄物)を適切に保管することが求められ、また、処理の際にも政令で定められた基準に従い適切な処理を行うことが求められます。

 

3.その他の法令における規制

 PCB特別措置法や廃棄物処理法とは別に、PCBは土壌汚染対策法の対象物質(第三種特定有害物質)としてあげられています(土壌汚染対策法2条1項、同法施行令1条24号、同法施行規則4条3項2号ロ)。
 また、PCBの一種であるコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)は、ダイオキシン類と同様の毒性を示すものでダイオキシン類似化合物と呼ばれますが、ダイオキシン類対策特別措置法では、「ダイオキシン類」として規制対象とされています。
 そのため、土壌中のPCBについてはこれらの規制を受けるかどうかについても注意が必要となります。

 

4.条例による規制

 上記とは別に、対象地の所在する地方自治体において、条例により法令とは異なる基準や規制内容等を定めているケースが見受けられます。そのため、法令のみならず条例や指針・ガイドラインについても確認することが必要となります。

 

5.PCB廃棄物を処理する際の実務上の留意点

(1)PCB廃棄物の保管の委託・保管場所の変更

 PCB廃棄物の保管のみを第三者に委託することは、譲渡及び譲受の行為(法17条)に該当し禁止されると解されていますので注意が必要です。これに対し、PCB廃棄物の保管事業者自らが管理する他の倉庫にこれらを移動して保管することは可能であるとされています2
 この点に関し、原則として保管場所の変更はできないとされていますが、高濃度PCB廃棄物の種類に応じて決められた同一の区域内で保管場所を変更する場合等には、特例として変更することが認められることあります。

(2)PCB廃棄物が所在する不動産の譲渡

 PCB廃棄物が所在する不動産を譲渡する場合には、当該PCB廃棄物については譲渡の対象から外す必要がありますので、注意が必要です。
 これらの場合の取り扱いについては弁護士等の専門家に確認の上で慎重な対応が必要となります。

1環境省・経済産業省『ポリ塩化ビフェニル(PCB)使用製品及びPCB廃棄物の期限内処理に向けて』(2016.10)
2環境省・経済産業省『ポリ塩化ビフェニル(PCB)使用製品及びPCB廃棄物の期限内処理に向けて』(2016.10)


本校は、2020年6月時点までに入手した情報に基づいて執筆したものであり、また具体的な案件についての法的助言を行うものではないことに留意してください。また、意見にわたる部分は、執筆担当者ら個人の見解を示すにとどまり、当事務所の見解ではありません。

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