防衛省に約70億円納付、違約金について
2018/01/19 契約法務, 民法・商法

はじめに
自衛隊の航空機の整備を請け負っていた東京航空計器(東京都町田市)が水増し請求を行っていたとして、防衛省に違約金含め約70億円を返納していたことがわかりました。違約金額は約38億円とのことです。今回は民法が規定する違約金条項について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、同社は2009年から2016年にかけて航空自衛隊のF4戦闘機E2C早期警戒機などの計器の修理などを請け負っていました。それらのうち約340件の契約で、かかった作業時間を実際より長くするという手法で約26億円を水増しして請求していたとのことです。本来の作業時間と水増しした時間が記録された二重帳簿が作成されており、同様の手法は1980年代から行われていたとされます。防衛省の契約条項によりますと、債務不履行などに加えて不正、不当行為があった場合には契約の解除とともに違約金として契約金額の10%を徴収するとしています。昨年2月からの調査で今回の違約金は約38億円となったとのことです。
損害賠償額の予定
債務不履行に基づく損害賠償額を予め予定しておくことができます(民法420条1項前段)。本来債務不履行が発生した場合、債権者は損害の発生とその具体的な額を立証していく必要があります。しかし予め賠償額を定めておけば、これらを立証することなく請求することができます。債権者にとっては立証の負担が軽減し、簡易迅速に請求することができ、また債務者側から見ても不履行の際に支払わなければならない賠償額がはっきりしているので損失を予想しやすいというメリットがあります。なお「違約金」はこの損害賠償額の予定を定めたものと推定されます(同3項)。また賠償額の予定がなされていても、別途契約解除や履行の請求を行うことはできます(同2項)。
裁判所の拘束と実際の損害
420条1項後段では「裁判所は、その額を増減することができない。」としています。つまり損害賠償額の予定がなされた場合には実際に債務不履行により発生した損害がその予定額よりも多かったり、あるいは少なかった場合でも賠償額を動かすことができず、裁判所を拘束するということです。つまり賠償額の予定条項を入れることによって、実際の損害が予定額よりも多かった場合でも過剰分を取れなくなるということに注意が必要です。
予定額が著しく過剰である場合
賠償額の予定がなされた場合において、その予定額が通常の取引観念から見ても著しく過剰な場合があります。このような賠償額の予定は有効なのでしょうか。特定商取引法では通常得られる利益や通常要する費用など一定の額に法定利率を加算した額を超える分の請求はできないとしています(10条)。同様の規定が消費者契約法などにも存在し、過剰な賠償額の予定から消費者を保護しております。ではそれらの規定が無い場合はどうなのでしょうか。この点について判例は「賠償額を予定した場合においても、…債権者に過失があったときは、特段の事情がない限り、裁判所は、…金額を定めるにつき、これを斟酌すべき」としています(最判平成6年4月21日)。また著しく不合理な額の場合は公序良俗に反し無効であるとも言われております。つまりこのような場合は裁判所も例外的に額を変動させることがあり得るということです。
コメント
本件で防衛省は契約条項として契約金の10%を違約金として定めております。これは特段の事情がない限り賠償額の予定と推定されます。この条項によって裁判所で損害と額を立証しなくても簡易な計算で賠償を得られることになります。なお賠償額の予定に関しては2020年4月1日施行を予定している改正民法では裁判所を拘束する規定が削除されます。施工後は予定がなされても、より柔軟に増減されることになると思われます。それまではやはり増減が制限されることから契約条項に賠償額の予定を盛り込む場合は実際の額が予定額を超える場合に備えて、「実際に生じた損害が違約金額を超える場合には、実際に生じた損害の賠償を請求できる。」といった条項も盛り込んでおく必要があると言えます。賠償額の予定を盛り込む際には、その額が不当に過剰な額になっていないか、それ以上の賠償を放棄する意味に解釈されないかといった点に留意して契約書を作成することが重要と言えるでしょう。
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