常磐興産の2回目のTOBが成立、株式公開買付けとは
2024/12/17 商事法務, 総会対応, 戦略法務, 会社法, エンターテイメント

はじめに
福島県いわき市の「スパリゾートハワイアンズ」を運営する「常磐興産」を対象とした2回目のTOBが成立していたことがわかりました。24年度内には米企業の完全子会社となる見通しとのことです。今回は完全子会社化の手段である株式公開買付けについて見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、スパリゾートハワイアンズを運営する常磐興産を巡っては、アメリカの投資ファンド「フォートレス・インベストメント・グループ」が買収を計画しており、9月に行われた1回目のTOBで常磐興産株の約7割を取得したとされます。実際の買付者は株式等の資産保有を目的として設立された「Ontario合同会社」とされており、今月10日まで行われた2回目のTOBでフォートレスの目標を上回る88.14%の株式を取得したとのことです。常磐興産は1月にも株主総会を開催し、スクイーズアウトを経て、25年3月末までに上場廃止となる見通しとされます。
株式公開買付けとは
株式公開買付け(TOB)とは、Takeover
Bidの略で、株式の買付価格や期間、買付数などを公告し、取引所外で株主から株式を買い付ける手続を言います。会社の子会社化やM&Aなど、会社の経営権の取得を主な目的として利用されることが多いと言えます。株式会社の株主は、その保有する株式の持株比率に応じてできることが違ってきます。1%(または300株)の保有で株主総会での議案等の提案を、3%で会計帳簿閲覧や株主総会招集を、議決権の過半数で株主総会での普通決議を、3分の2以上で特別決議を成立させることが可能となります。このように会社の支配権獲得を目指す上でTOBは有効と言えます。買付を行う者を「公開買付者」、対象となる会社を「対象者」と呼び、一般的に市場価格の3割程度のプレミアを乗せた価格で買い付けられます。TOBのメリットとしては株価変動の影響を受けづらく、買収の見通しが立てやすいこと、また株主にとっても市場取引よりも高値で売れるといった点が挙げられます。一方で市場取引による買付よりもコストがかかるといったデメリットも指摘されます。
株式公開買付けの手続の流れ
株式公開買付けのおおまかな手続の流れとしては、(1)公開買付公告、(2)内閣総理大臣への公開買付届出書提出、(3)対象会社の意見表明報告書提出、(4)対質問回答報告書の提出、(5)公開買付報告書の提出、(6)株主による売却申し込み、(7)TOB終了となります。公開買付公告では、買付者の名称、住所、TOBを行う旨、価格、買付数、買付期間、対象会社、買付け後の保有割合等の事項を公告します。同時に公開買付届出書を内閣総理大臣に提出し、対象会社は10日以内に意見表明報告書を内閣総理大臣に提出します。公告後に買付者は公開買付期間を設けます。この期間は20~60営業日とされております。公開買付に申し込もうと考える株主は、公告されている証券会社等に売却を申し込みます。公開買付期間内に目標の買付数に達していればTOBが成立しますが、逆に達しなかった場合はTOB不成立となります。買付者は買付期間最終日の翌日にTOBの結果について公告し、公開買付報告書を内閣総理大臣に提出し、その写しを対象会社と証券取引所に送付することとなります。
義務的公開買付
株式を取得する際に、一定の場合にはTOBによることが義務付けられる場合があります。それが義務的公開買付です。証券取引所外で短期間に大量の株式が買い付けられた場合、既存の株主に不利益を与える場合があるからです。そのため一定の大規模買付の場合はTOBによることが義務付けられます。具体的には証券取引所外で買付け後に買付者が保有する株式の割合が発行済株式の5%を超える場合にTOBが必要です(金商法27条の2第1項1号)。5%以上保有すると、会社の経営や株価への影響が強くなることからとされます。ただし、60日以内に10人以下の株主から買い取った場合は適用外となります。そして次に買付け後の保有割合が3分1を超える場合もTOBが必要となります。こちらは取引所での取引か否かは問いません。こちらの場合は、取引所外で60日以内に10人以内の株主から買い付ける場合に適用される点で注意が必要です。
コメント
本件で米投資ファンド「フォートレス・インベストメント・グループ」による常磐興産株のTOBが2回行われ、最終的に88.14%の株式を取得したとされます。常磐興産の発表では、TOBにより90%以上取得できた場合は特別支配株主による売り渡し請求によって、90%に達しなかった場合は株式併合によってスクイーズアウトするとされており、1月下旬の臨時株主総会の決議を経て完全子会社化する見通しとなっております。以上のように上場会社を完全子会社化し、上場廃止とする際にTOBが利用されることが多いと言えます。それにより90%以上取得できた場合は簡易な特別支配株主による売り渡し請求が、90%に達しない場合は株式併合によることが一般的です。以前は全部取得条項付種類株式に変更して取得するという手法も利用されておりました。近年事業再編に伴い、資本のスリム化や上場廃止による緊密で迅速な経営体制に移行する会社が増加しております。どのような手続が必要かを確認し準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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