ダイドーリミテッドの中山取締役が辞任、役員の就任・退任について
2024/07/11 商事法務, 総会対応, 会社法

はじめに
「ニューヨーカー」などのブランドを手掛けるアパレルメーカー「ダイドーリミテッド」は10日、取締役の中山俊彦氏が辞任したと発表しました。一身上の都合とのことです。今回は会社役員の就任と退任について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、ダイドーリミテッドの取締役、中山俊彦氏が一身上の都合で辞任していたことがわかりました。中山氏はブルックスブラザーズジャパンの元最高財務責任者(CFO)で、ダイドーリミテッドのアクティビストであるストラテジックキャピタルの株主提案によって取締役に就任した取締役のうちの1人とされます。アパレル事業が長期にわたって不振を続けていることなどを問題視してストラテジックが今年の6月の株主総会で提案した候補6人のうちの一人とのことです。なおダイドーリミテッドの定款によりますと、同社は取締役会設置会社で取締役の人数は8名以内となっております。なお選任・解任決議の定足数は3分の1に、解任の決議については議決権の3分の2の賛成を要するとしております。
役員の就任
これまでも取り上げてきましたが、会社と取締役などの役員は委任の関係にあります。そして役員の選任と解任は株主総会の決議によって行われます(会社法329条1項、339条)。取締役などの役員等は普通決議によって選任します(309条1項)。通常、普通決議の定足数は定款によって排除することが可能ですが、役員の選解任に関しては定足数を3分の1までしか減らすことができません(341条)。解任するときも普通決議ですが、取締役を解任する場合は特別決議を要します(309条2項7号)。累積投票で選任された取締役も同様に特別決議が必要です(342条6項、309条2項7号)。先に述べたように役員と会社は委任関係ですので、株主総会で選任しただけでは就任したことにはならず、本人の就任承諾が必要です。株主総会の席上でその場で承諾する場合が多いですが、後日承諾する例も存在します。
権利義務承継役員
取締役などの役員等は株主総会で選任・解任されますが、自らの意思で辞任することも可能です。しかしその時会社法や定款で定められた員数ぎりぎりであった場合、辞任することは可能なのでしょうか。会社法346条1項では、任期満了、または辞任によって役員が退任し、それによって必要な員数が満たなくなった場合、新たに選任された役員が就任するまでは、「なお役員としての権利義務を有する」としております。つまり引き続き役員の地位が存続するということです。例えば4月20日に辞任届を会社に提出し、その後6月25日の定時総会で後任が選任された場合は、その時にようやく退任することができます。なお登記の際の退任日は6月25日ではなく本来の辞任の日である4月20日となります。なお、この権利義務承継役員の地位は法律によって強制的に付与された地位ですので、株主総会等で解任することはできません。またこの規定は会計監査人には適用されません。
役員の登記
役員の就任や退任があった場合には2週間以内に登記をする必要があります(915条1項)。株主総会で選任された場合には、株主総会議事録や株主リスト、役員の就任承諾書、本人確認証明書などの添付が必要となってきます。本人確認証明書とは、就任承諾書に記載した氏名や住所を証明するもので住民票の写しなどが該当します(商業登記規則61条7項)。なお就任の際に印鑑証明書を添付する必要がある取締役は本人確認証明書は不要です。印鑑証明書は代表取締役が就任する際に、就任承諾書および選任議事録に記名押印した取締役が提出する必要があります(同4項、5項)。注意が必要なのは、取締役会非設置会社の場合は取締役として就任する時点でそれが必要ということです。
コメント
本件でダイドーリミテッドは定款に取締役の数を8名以内としており、実際に8名の取締役が就任しております。これが「取締役を8名置く」となっていた場合は取締役が辞任しても権利義務承継取締役となり、後任を選任しなければ退任できない状態となります。しかし本件では3人以上いればよく、8名を下回っても問題ないことから、中山氏は辞任した当日に退任することが可能です。なお会計監査人の場合は員数が欠けた場合は監査役が一時会計監査人を選任する必要が出てきます。以上のように会社法では会社役員の人数や選定に複雑な規定を置いております。役員の人数がギリギリの場合は不測の事態が生じた場合に急遽後任を探す必要が出てきます。これらを踏まえて準備を整えておくことが重要と言えるでしょう。
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