消費者庁がビッグモーターを調査、公益通報者保護制度について
2023/07/28   コンプライアンス, 公益通報者保護法

はじめに

 消費者庁が保険金不正請求などで揺れる中古車販売大手ビッグモーターを調査していることがわかりました。内部告発をもみ消した疑いがあるとのことです。今回は公益通報者保護制度について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、2021年秋ごろの損保会社業界団体への内部告発をきっかけに東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険、損害保険ジャパンなどが調査を実施しビッグモーターの水増し請求が発覚、同社への調査を求め同社は特別調査委員会を設置したとされます。同調査委員会の調査報告書では顧客の車の破損していないヘッドライトカバーを割ったり、ドライバーで車体をひっかく、靴下をいれたゴルフボールで車体を叩き雹害の傷を拡大させるなど故意に車体を破損させ、保険金を水増し請求していたとのことです。また同調査報告書では不正の内部告発をもみ消したとの指摘がなされており消費者庁は公益通報者保護法違反の有無の調査を開始しました。

 

内部通報制度とは

 国民生活の安全・安心を脅かすような企業不祥事は内部の労働者等からの通報から発覚することが少なくないとされております。そこでこのような内部通報を正当な行為として保護し、事業者による解雇などの不利益取扱を防止して内部通報を促すため公益通報者保護法は内部通報制度を規定しております。同制度では保護の対象となる「公益通報者」と「通報対象事実」、そして通報先を定義し、また一定の規模の事業者には内部通報に適切に対応するための体制整備義務が課されております。これにより社内の違法行為を早期に発見することができ、重大な不祥事となって刑事・民事また行政事件となることを防ぐ効果が期待できます。以下要件などを具体的に見ていきます。

 

内部通報制度の各要件

 内部通報制度で保護の対象となる「公益通報者」とは、労働者、派遣労働者、請負契約などの業務委託従事者、役員となっております(公益通報者保護法2条1項、2項)。労働者、派遣労働者、請負などの従事者に関しては、退職後1年以内の者も含まれます。そして「通報対象事実」とは、公益通報者保護法別表8号の法律を定める政令で指定されている法律に違反する犯罪、過料対象行為、またはそれらにつながる恐れがある行為とされます。対象となる法律は独禁法や労働法、建築基準法、銀行法、貸金業法、消費者契約法など約460のあらゆる法令が指定されております。通報窓口としては(1)会社が定めた社内・社外窓口、(2)処分・勧告等の権限を有する行政機関、(3)その他通報することが被害発生や拡大の防止に必要と認められる者とされております。(3)については(1)(2)の窓口に通報すれば解雇その他不利益取扱をうけると信じるに足る相当理由がある場合、証拠隠滅や偽造変造のおそれがあると信じるに足る相当理由がある場合、使用者から正当な理由なく通報を断念するよう要求されている場合、通報して20日経過しても調査通知がなされない場合、個人の生命・身体への危害が発生または急迫の危険があると信じるに足る正当理由がある場合となっております。

 

事業者の義務と禁止事項

 使用者は労働者が公益通報を行ったことを理由として解雇することが禁止されます(3条)。また派遣労働者である場合は、派遣先事業者による派遣元事業者との労働者派遣契約の解除も禁止されます(同4条)。それ以外にも事業者による労働者や派遣労働者、役員に対する不利益取扱が禁止されております(5条)。さらに2022年6月施行の改正法では常時使用する労働者の数が300人を超える事業者は内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備義務が課されました(11条)。必要な体制の整備とは、通報窓口の設置、適切な社内調査、是正措置、通報を理由とした不利益取扱いの禁止、通報者に関する情報漏洩の防止、内部通報規定の整備・運用などとされております。内閣府の指針では、通報窓口は企業グループ全体ではなく、会社ごとに設置することが望ましいとされております。

 

コメント

 以上のように消費者庁は現在、ビッグモーター社の内部通報制度の運用状況などを調査しているとされております。上記の公益通報の体制整備などの義務に違反している場合、消費者庁による助言や指導、勧告、公表などの行政処分がなされる場合があります(15条、16条)。ビッグモーター社は今回の保険金不正請求事件により道路運送車両法違反の疑いで国交省から、保険業法違反の疑いなどで金融庁から、公益通報者保護法違反の疑いで消費者庁から、そして店舗前の街路樹が枯れた件に関して各自治体と警察から調査を受けております。いずれもコンプライアンス意識の低さとガバナンスの欠如から生じたものと考えられます。各種法令の遵守だけでなく、社内での不祥事を適切に通報できる体制が構築できているか、今一度確認し周知していくことが重要と言えるでしょう。

 

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