消費者庁がアムウェイに取引停止命令/連鎖販売取引とは
2022/10/19 コンプライアンス, 行政対応, 特定商取引法

はじめに
違法な連鎖販売を行ったとして消費者庁は14日、「日本アムウェイ」に6ヶ月間の取引停止命令を出していたことがわかりました。期間は2023年4月13日までとのことです。今回は特定商取引法で規制されている連鎖販売取引について見ていきます。
事案の概要
消費者庁の発表などによりますと、被害者の女性はマッチングアプリで知り合った男性から食事に誘われた際、知り合いのサークルに参加してほしいなどと言われ近くの建物に移動し、その場にいた女性から後日フェイスマッサージを受けることとなったとされます。マッサージを受けた後、その時使った化粧品を執拗に勧められ、その時点で初めて日本アムウェイの冊子をみせられたとのことです。またSNSで知り合った者から「女子会をしよう」などと誘われ、食事が済んだ頃にアムウェイのハンドクリームなどを勧められ、同社のイベント動画を見せられた例もあるとされます。消費者庁は同社に取引停止命令と再発防止やコンプライアンス体制の構築などを指示しました。
【処分の内容】
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連鎖販売取引とは
連鎖販売取引とは、個人を販売員として勧誘し、更にその個人に次の販売員を勧誘させ、販売組織を連鎖的に拡大していく取引を言います。いわゆるマルチ商法のことです。上位の参加者が下位の参加者から金品を受け取り、会員が無限に増殖していく、いわゆるネズミ講と類似しておりますが、ネズミ講は無限連鎖講防止法によって禁止されているのに対し、マルチ商法は禁止はされておらず、一定の規制がなされているという点が異なります。規制の対象となる連鎖販売取引は、(1)物品の販売事業であって、(2)再販売、受託販売、販売あっせんをする者を、(3)特定利益が得られると勧誘し、(4)特定負担を伴う取引とされます(特定商取引法33条)。他の人を勧誘して売ると何%割引を受けられる、他の人を入会させると何円のリベートを受けられるといって勧誘する場合が該当し、これらの利益を「特定利益」と言います。取引の際に何らかの負担を伴う場合、その負担を「特定負担」と言い、入会金、保証金、商品代金など名目は問いません。
連鎖販売取引規制
連鎖販売取引については行政規制として事業者に一定の義務が課されております。まず連鎖販売取引の統括者、勧誘者、事業者の氏名・名称、勧誘目的、商品役務の種類を勧誘に先立って相手に明示することが必要です(33条の2)。そして勧誘の際に契約を解除することを妨げる目的で虚偽や威迫、目的を告げずに公衆の出入りする場所以外に連れ込んで勧誘することが禁止されます(34条)。その他にも、広告の際には一定の取引の内容を表示する義務(35条)や、誇大広告の禁止(36条)、未承諾者への電子メール広告の禁止(36条の3)、そして契約締結の際の書面の交付義務(37条)などが盛り込まれております。違反した場合には、業務改善の指示(38条1項~3項)、取引停止命令(39条1項~3項)、役員等の業務禁止命令(39条の2)、また100万円以下の罰金などが定められております(72条1項1号、6号等)。
連鎖販売取引の民事ルール
上記行政規制の他に、民事上でのルールも定められております。まず連鎖販売取引を消費者が契約した場合、上記書面を受け取った日から数えて20日以内であればクーリングオフをすることができます(40条)。事業者側が虚偽や威迫によってクーリングオフを妨げた場合はこの期間経過後もクーリングオフが可能です。連鎖販売契約を締結して入会した消費者は、入会後1年以内、品物の引き渡しを受けてから90日以内、商品を再販売していない、自らの責任で商品を滅失・毀損していない場合は中途解約や返品ができます(40条の2)。またそれとは別に、業者が勧誘の際に事実と違うことを告げそれを事実と誤認した場合、または故意に事実を告げなかった場合にその事実が無いと誤認していた場合も契約を取り消すことができます(40条の3)。そして適格消費者団体は違法な連鎖販売取引を行っている業者に対して差止請求をすることが可能です(58条の21)。
コメント
本件で日本アムウェイは連鎖販売取引の勧誘であることや、事業者の名称等を明示することなくSNSやマッチングアプリで知り合った者を公衆の出入りしない場所で化粧品などを執拗に勧誘し、消費者が拒絶の意思を明示的または黙示的に表示しているにもかかわらず強い口調で勧誘を続けたとされております。これらはいずれも特定商取引法に違反する行為とされ、6ヶ月の取引停止命令が出されました。以上のようにいわゆるマルチ商法自体は禁止はされておりませんが、氏名等や勧誘目的の明示、迷惑勧誘の禁止などが罰則付で規定されております。そして近年最も多い処分理由がこの明示義務違反です。通常勧誘目的を最初に示した場合、ほとんどの人は拒否するものと考えられ、そのためこれらを明示しない、または目的を隠して巧妙に誘い出すといった手口が目立っております。今一度自社のマーケティング方法に問題はないか見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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