経済産業省、カルタヘナ法に基づきリコーに行政処分
2022/09/07 コンプライアンス

はじめに
経済産業省は、2022年8月9日、株式会社リコーに対し、遺伝子組み換え生物等の使用等の規制による生物の多様性に関する法律「カルタヘナ法」に基づき、措置命令を発しました。本記事では、今回の行政処分に至った背景や、リコー社の今後の対応等について解説して行きます。
カルタヘナ法とは
カルタヘナ法とは、遺伝子組換え生物等を使用等する際の規制措置を講じることで、生物多様性への悪影響の未然防止等を図ることを目的とした法律です。
遺伝子組換え技術は、人類が抱える様々な課題を解決する可能性を秘めている一方、作出された遺伝子組換え生物等の形質次第では、野生動植物の急激な減少などを引き起こし、生物の多様性に影響を与える可能性が世界規模で危惧されています。
そのため、2000年1月に、遺伝⼦組換え⽣物の国境を超える移動の際の安全な移送・取扱い・利⽤について、⼗分な保護を確保するための措置を規定した「カルタヘナ議定書」が採決され、2003年6月に締結されるに至りました。カルタヘナ法は、同議定書を日本で実施するための法律になります。
行政処分の背景
今回、経済産業省は、カルタヘナ法 第13条1項違反を根拠に、リコー社に対し措置命令を発しています。
カルタヘナ法 第13条1項
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(1)遺伝子組換え作業に先立ち、安全委員会における実験計画の承認を得るべきところ、承認を得ずに組換え作業を開始した遺伝子組換え微生物が17株存在していた。
(2)2020年度の「包括確認申請手続の利用に係る遺伝子組換え生物等の使用実績報告書(遺伝子組換え生物等の第二種使用等の使用実績等を経済産業省へ報告する書類)」にて、本来、報告すべきであった、“2020年以前に製作していた遺伝子組換え微生物4株”について記載漏れがあった。
(3)経済産業大臣による拡散防止措置の確認に関し、包括申請の対象範囲でない遺伝子組換え微生物が6株について、担当者が包括的な確認の範囲に含まれると誤認し、個別で確認を受けなかった。
(4)経済産業大臣による拡散防止措置の確認を受ける前に使用した遺伝子組換え微生物が7株存在した。
※このうち、6株は(3)の誤認した株で、残りの1株についても、独立行政法人製品評価技術基盤機構の技術的な評価を受けていたそうです。
行政処分の内容
上記の法令違反に対し、以下の4つの処分が下されています。
(1)遺伝子組換えを実施する事業所での遺伝子組換え生物等の安全な取扱いについて検討する委員会(以下「安全委員会」という。)における、使用前の承認体制の整備と制度内容についての従業員への周知徹底
(2)包括確認制度により包括確認を受けた全ての遺伝子組換え生物等について使用実績等を漏れなく経済産業省に報告するための社内体制の整備
(3)経済産業大臣による拡散防止措置の確認(カルタヘナ法第13条1項)に係る手続きの、従業員への教育徹底、法令遵守体制の整備
(4)上記(1)~(3)への対策につき、経済産業大臣に書面にて報告すること(措置命令の翌日から60日以内)。また、同報告書の内容を確認・受領するまでの期間、遺伝子組換え生物等の使用等にあたっては、包括申請の対象か否かの別なく、全て個別に経済産業大臣の確認を受けること。
リコー社の再発防止の取り組み
今回の問題を受けて、リコー社は再発防止策として、以下を掲げています。
・原因究明や再発防止策立案のための社内調査委員会(外部専門家含む)の設置
・法令で定められる手続きの適正な遵守のため、上長の決裁を徹底するプロセスの構築
・カルタヘナ法および内規の理解徹底のための定期的な講習の開催(受講対象は、対象部門の社員および社内安全委員会の委員)
・対象部門への安全主任者の設置(特定の作業者に業務集中しないよう監督)
・社内安全委員会による監査機能の強化
過去のカルタヘナ法に基づく行政処分事例
カルタヘナ法に基づく行政処分事例は過去にも何件かあります。例えば、2019年5月には、農林水産省が群馬県蚕糸技術センターに対し、同じくカルタヘナ法第13条1項違反を理由に、同センターのカイコの使用等中止と拡散防止措置を執ることを命じています。この事例でも、事前に承認を受けたものと誤認して、承認を得ることなく使用等していたことが処分の対象となっていました。
また、2016年には、⼤⾂確認を受けた拡散防⽌措置が執られた作業区域外に遺伝⼦組換え⽣物を運搬していたことを理由に、農林水産省が株式会社微⽣物化学研究所に対し、同社の動物⽤医薬品の原料⽣産に⽤いる遺伝⼦組換え⽣物の使⽤中⽌を命じています。
総じて、カルタヘナ法の理解の困難さから行政処分に繋がったケースが少なくないようです。
コメント
今回のリコー社の事例のように、カルタヘナ法では、遺伝子組換え生物を実際に拡散していなくても、製造前の手続きが適正に取られていないことを以て、行政処分の対象となります。それだけ、遺伝子組換え生物の拡散リスクに対する強い危機感を背景とした法律と言えると思います。その一方で、法令理解の難しさ、法令遵守のための運用・管理の複雑さも特徴となっています。
この種の難しい法令に関し、現場理解を深め周知徹底させることは、非常に困難を極めます。こうした領域では、法務コンプライアンス部門がストロングハンドを発揮し、法令遵守に必要な現場での運用・管理の具体的な手法にまで落とし込んだ助言を行うことが必要になりそうです。
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