日野自動車、認証不正に係る特別調査委員会の調査結果を公表
2022/08/09 コンプライアンス

はじめに
日野自動車株式会社は、2022年3月4日に公表した認証不正問題について、外部有識者で構成される特別調査委員会に調査を委嘱していましたが、8月2日、調査報告書を受領し、今後の対応と併せて関係省庁に報告しています。そこで今回は、日野自動車の特別調査委員会による報告の内容とその後の対応について見ていきましょう。
特別調査委員会の調査により判明した不正行為の全容
日野自動車は、特別調査委員会の調査により、エンジンの認証申請に係る長期にわたる不正の事実が判明したと報告しています。同社は、経営が現場に寄り添うことができておらず、適正なプロセスよりもスケジュールや数値目標が優先されやすい環境と仕組みになってしまったことが背景にあると分析しています。その上で、内向きで保守的な組織風土があり、一人ひとりが当事者意識と一体感をもって仕事に取り組むことができない状態だったと振り返っています。調査委員会によって判明した不正行為は主に以下の3つです。
(1)車両用ディーゼルエンジン (オンロードエンジン)について
排出ガス関連として 平成15年排出ガス規制(新短期規制/E6)以降の幅広い機種において、主に劣化耐久試験に関する不正行為が判明しています。また、燃費関連の不正としては、重量車燃費基準が導入され税制優遇制度の対象となった平成17年排出ガス規制(新長期規制/E7)以降、主に大型エンジンにおいて燃費測定に関する不正行為があったことが判明しています。
具体的には、①劣化耐久試験の不実施、②測定点とは異なる時点での排出ガス測定、③測定結果を書き換える、④後処理装置の一部である第2マフラーの交換などの不正行為が認められたとされています。
(2)産業用ディーゼルエンジン (オフロードエンジン)について
こちらは、平成23年規制(3.5次規制)以降の幅広い機種において、主に劣化耐久試験に関する不正行為が判明しています。
具体的には、①各測定点で排出ガスの測定を多数回実施した上での恣意的な数値選択、②測定点とは異なる時点での排出ガス測定、③測定結果の書き換えなどの不正行為が認められたとされています。
(3)報告に関する不正
2016年に国土交通省から、認証取得時の排出ガス・燃費試験における不適切事案の有無を報告するよう求められた際に、虚偽の報告を行ったことが挙げられています。
技術検証による真のエンジン性能の確認結果
日野自動車では、自社の真のエンジン性能を確認すべく、特別調査委員会の調査と並行して技術検証を行っておりました。その結果、車両用ディーゼルエンジン (オンロードエンジン)と産業用ディーゼルエンジン (オフロードエンジン)において、
・経年変化により排出ガスの規制値超過の可能性
・実際の燃費性能が諸元値に未達
といった性能未達が判明しています。
日野自動車のその後の対応について
日野自動車は特別調査委員会の調査に全面的に協力しつつ、これまでに判明した問題に関しては従来からの取り組みも含めた再発防止策を策定し実施していました。開発・認証領域における体制およびプロセスについては、不正行為の防止や問題のある製品の市場への流出防止について、広範かつ抜本的な対策を進めているとしています。
具体的には、開発・認証領域における体制およびプロセスの改善として、牽制構造(チェック体制)の確立・強化やプロセス管理の強化、規定・標準類の整備などを行うとしています。
また、企業風土・土壌の改善と全社的コンプライアンス強化については、企業風土・土壌改革に向けた取り組みとして価値観とあるべき姿を共有するため、あらゆる企業活動の指針となる企業理念を改定・再編を行い、コンプライアンス委員会の改組、外部登用も含めた人材高度化・拡充、コンプライアンス推進室の設置および技術コンプライアンス責任者/グループの新設など抜本的な対策も行うとしています。
さらに、排出ガス規制値超過の可能性が判明した現行機種については、当該機種は出荷停止しており、今後可及的速やかに市場措置を検討し実施するとしています。
コメント
特別調査委員会の調査結果報告書では、今回の不正の一因として、日野自動車において、「劣化耐久試験に関する法規やルールの改正動向に関して、情報が適切に社内展開されていなかった」点が挙げられています。また、法規やルールに関し、開発の現場に解釈を委ねることの危険性についても指摘しています。さらに、調査結果報告書の中では、特別調査委員会からの法務関連の提言として、
・劣化耐久試験に関する法規やルールの情報収集、影響分析、社内展開という一連のプロセスを十分にシステム化し、その手順やフローについて規定するなどして仕組みを整えること
・法規やルールの解釈については、開発の現場に委ねるのではなく、第三者的立場の部署に最終的な判断をさせること
などが挙げられています。自動車業界の法務担当者はもちろんのこと、他の業界の法務担当者にとっても、今後の糧となる提言となるのではないでしょうか。
【関連リンク】日野自動車株式会社 特別調査委員会 調査報告書の概要
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