東芝が3000億円減資、資本金等の減少手続きについて
2018/05/18 商事法務, 会社法

はじめに
東芝は15日、資本金を約3000億円減少させる旨発表しました。同時に資本準備金、その他資本剰余金を取り崩し、繰越欠損金の補填を行うとのことです。今回も定時株主総会の時期に備え資本金、準備金の減少手続きについて見ていきます。
事案の概要
東芝の発表によりますと、東芝は今年6月27日開催予定の定時株主総会で承認決議を得ることを条件に7月31日に資本金、準備金減少により繰越欠損金の補填を行ない財務体質の健全化を図るとしています。現在の東芝の貸借対照表上の繰越利益剰余金は約マイナス9100億円となっております。そこで資本金、準備金を減少させ、その他資本剰余金の振替によりマイナス分を減少させるとのことです。これによる持ち株比率や業績への影響はないとしています。
資本金減少手続き
資本金を減少させるには原則として株主総会による特別決議が必要となります(309条2項9号)。決議内容は①減少する資本金が額、②準備金に組み入れる場合はその旨、③効力発生日となります(447条1項)。例外的に株主総会の特別決議が不要となる場合があり、まず定時株主総会で欠損填補を目的として行う場合は普通決議で足ります(309条2項9号括弧書き)。そしてもう一つが株式の発行と同時に行う場合です。減少する資本金の額が株式発行によって増加する分より小さい場合、つまり資本金の額が実質的に減少していない場合には取締役会決議で足りることになります(447条3項)。そして債権者異議手続きが必要となります(449条)。官報での公告と個別の債権者に催告することになります。官報と日刊新聞または電子公告の2重の公告を行えば個別催告は省略できます(同4項)。この手続きを省略できる場合はありません。
準備金減少手続き
準備金減少の場合は原則として株主総会の普通決議が必要です。これにも例外があり、株式発行と同時に行う場合で上記資本金の場合と同じように最終的に準備金の額が実質的に減少しない場合には取締役会決議で足りることとなります(448条3項)。そしてもう一つは欠損填補の場合です。①監査役と会計監査人を置いている場合、または監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社である場合で、②取締役の任期が1年であり、③定款にその旨規定を置いている場合には取締役会決議で足ることになります(459条)。債権者異議手続きも原則必要となりますが資本金減少と異なり例外的に省略できる場合があります。減少した額の全額を資本金に計上する場合と定時株主総会での減少であり、減少後分配可能な剰余金が生じない場合には不要となります(449条)。
減少後の振替先
資本金減少ではその額の計上先が規定されております。まず減少した額を資本準備金に計上するか否か、しない場合は欠損金があればそちらに充当され、欠損がない場合か残額がある場合はその他資本剰余金に計上されます(会社計算規則50条1項1号)。準備金の場合は資本金に計上するか否か、しない場合は欠損金があればそれに、無い場合か残額がある場合は剰余金に計上されます。この剰余金ですが、減少する準備金が資本準備金ならその他「資本」剰余金に、利益準備金ならその他「利益」剰余金に計上されることになります。なおその他資本剰余金とその他利益剰余金間での振替は原則できません。例外的に一方がマイナスとなっている場合には他方で補填できます。
コメント
本件で東芝はまず3000億円分の資本金と3000億円分の資本準備金を減少させ、その他資本剰余金に計上します。そしてそれを欠損となっている繰越利益剰余金に振替えます。原則的には資本剰余金から利益剰余金には振替えられませんが、一方がマイナスとなっていることから他方で補填ができる場合に当たります。そして定時総会での欠損填補であることから普通決議で足ることになり、また準備金についても定款規定があることから取締役会決議で足りることとなります。債権者異議手続きは6月下旬とのことです。資本金は債権者にとって重要な会社財産確保の基礎であり減少させるには厳格な手続きが必要です。しかし欠損填補や財務体制の立て直し等ではこれらの振替えは重要な意義をもってきます。また繰越欠損金などに補填することによって、場合によっては数億円規模の節税につながることもあります。資本金、準備金、剰余金の関係等を正確に把握し、これらの振替え制度を積極的に利用していくことが重要と言えるでしょう。
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