社外取締役導入について考える前に~改正会社法成立を受けて

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はじめに

上場企業等に社外取締役の設置を義務付ける改正会社法は先月4日、参議院本会議で可決され、成立しました。

社外取締役、大企業に義務付け 改正会社法が成立(時事通信)

今回の改正は、企業経営の監督・監視によって企業の更なるガバナンス向上を目指したものです。
上場会社に2名以上の独立社外取締役の選任を求めたコーポレートガバナンス・コードが適用(※注1)され、2019年8月1日時点で97.7%の東証上場会社に社外取締役が導入されている(「東証上場会社コーポレートガバナンス白書2019(以下、CG白書)」80頁)ことを踏まえると、既に上場済の企業にとって法改正による影響は少ないといえます。

しかし、これから上場を目指す企業にとっては、社外取締役の設置義務付けは組織体制の変更を迫られるものであります。
そこで本記事では、社外取締役を導入する際に検討しておくべき項目をまとめました。

※注1:コーポレートガバナンス・コード自体はあくまで法令とは異なり法的拘束力があるわけではなく、いわゆる「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施しない場合にはその理由を説明する)の手法を採用している(コーポレートガバナンス・コード28頁)ことに留意してください。

※参照
コーポレートガバナンス・コード(東京証券取引所)(PDF)

東京証券取引所「東証上場会社コーポレートガバナンス白書2019」(PDF)

1 社外取締役選任の条件

(1)会社法上の社外取締役の要件
 会社法2条15号

 ①≪現在において≫
 i) 自社または子会社の代表取締役・業務執行取締役・執行役・支配人その他使用人(以下、「業務執行取締役等」)でないこと
 ii)親会社等(親会社または持株会社の支配者)の取締役・執行役・支配人その他使用人でないこと
 iii)兄弟会社の業務執行取締役等でないこと
 iv)自社の取締役、執行役、支配人その他使用人の近親者(配偶者及び2親等以内の親族)でないこと

 ②≪過去において≫
 i)過去10年間、自社または子会社の業務執行役員等であったことがないこと。
 ii)過去10年間に自社または子会社の取締役・会計参与・監査役になったことがある場合には、その取締役・会計参与・監査役への就任の前10年間に業務執行者等でないこと。

 

(2)東京証券取引所有価証券上場規程が求める条件―役員の独立性
東京証券取引所有価証券上場規程436条の2は、上場しようとする企業(=「上場内国株券の発行者」)に対し、独立役員を1名以上確保しなければならないとしています。さらにコーポレートガバナンス・コードによれば、独立社外取締役を2名以上選任すべき(原則4-8)としています。
独立役員とは、一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役又は社外監査役のことをいいます。
東京証券取引所は、一般株主と利益相反の生じるおそれがあると判断する場合の判断要素(独立性基準)を詳細に規定しています。

※独立性基準について詳細
東京証券取引所「独立役員の確保に係る実務上の留意事項」(PDF)

2 社外取締役を導入する上で検討すべき事項

経済産業省は、2018年に策定した「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(以下、CGS ガイドライン)」において、企業が社外取締役を活用するために検討すべき場面につき、大きく分けて、

(1) 社外取締役の要否等や、求める社外取締役像を検討する場面
(2) 社外取締役を探し、就任を依頼する場面
(3) 社外取締役が就任し、企業で活躍してもらう場面
(4) 社外取締役を評価し、選解任を検討する場面

の4つが挙げられるとした上で、具体的に9つのステップに分けて検討する事が出来るとしました。
そこで以下の本記事では、CGSガイドラインを引用しつつ、適宜注目すべきトピックを紹介していきたいと思います。

経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(PDF)

(1) 社外取締役の要否等や、求める社外取締役像を検討する場面

ステップ1 自社の取締役会の在り方を検討する。
◎社外取締役の要否・役割・人数等を検討する前に、まずは自社の取締役会の在り方や目指すべき方向性を検討すべきである。

ステップ2 社外取締役に期待する役割・機能を明確にする。
◎社外取締役に期待する役割・機能、あるいは逆に期待しない役割・機能を、選任する前に社内で明確にしておくことを検討すべきである。
期待する役割・機能の例
・経営戦略・計画の策定への関与
・指名、報酬決定プロセスへの関与
・利益相反の監督
・株主やその他のステークホルダーの意見の反映
・業務執行の意思決定への関与
・内部通報の窓口や報告先となること

期待しない役割・機能の例
・個別の業務執行の細部にわたる指導
・経営戦略の原案の作成
・企業の担当者レベルで行われる不正の端緒を自ら探索して発見すること

【メモ】
・内部通報制度における社外取締役の役割
内部通報制度とは、企業等が従業員等からの法令違反、規則違反や不正行為などの通報を受付け、調査・対応するための制度のことをいいます。
内部通報制度の構築にあたっては、消費者庁が民間事業者向けにガイドラインを示しています。
消費者庁のガイドラインによれば、推奨される内部通報制度の在り方として、経営幹部から独立した通報ルートを構築すべきであるとしています。
また、コーポレートガバナンス・コードにおいても企業に内部通報制度の適切な整備を求めており(原則2-5)、その一環として社外取締役と監査役の共同体といったような経営陣から独立した通報窓口を設置すべき(補充原則2-5①)としています。
もっとも、デロイトトーマツのアンケート調査によれば、内部通報制度を設けている企業のうち通報対応の意思決定機関に社外取締役、社外監査役を含む割合は3割程度と低い水準に留まっています。
その理由として、デロイトトーマツは、内部通報窓口が不正の告発手段というよりも労務問題や人間関係の不満相談窓口となりがちな現状があることを指摘しています。
又、デロイトトーマツは、通報受信数と不正の告発件数との間に強い相関は認められないとして、内部通報制度の効率化を図るために内部通報窓口とは別に不満相談窓口の設置を提案しています。

※参照
消費者庁「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する 民間事業者向けガイドライン 」(PDF)
デロイトトーマツ「ニュースリリース 内部通報制度の整備状況に関する調査2018年版を公表」

ステップ3 役割・機能に合致する資質・背景を検討する。
◎社外取締役の役割・機能に応じて、社外取締役に求める資質・背景やそのバランスを検討すべきである。また、社外取締役のうち 1 名は、経営経験を有する社外取締役を選任することを検討すべきである。

【メモ】
ステップ2で検討した社外取締役に期待する役割・機能を果たす為に具体的にどのような資質が必要となるかを検討する必要があります。
CGSガイドライン68頁によれば、社外取締役は、期待される役割・機能や求められる資質・背景に応じて、大きく以下の3つのタイプに分けることが出来るとしています。

① 経営経験型
現職の会社経営陣や退職した会社経営経験者
② 専門知識型
法曹、会計士、学者、行政経験者等
③ 属性着目型
性別(女性)、国籍(外国人)、その他(年齢、民族、信仰等)

 

(2) 社外取締役を探し、就任を依頼する場面

ステップ4 求める資質・背景を有する社外取締役候補者を探す。
ステップ5 社外取締役候補者の適格性をチェックする。

【メモ】
現在我が国においては、社外取締役の候補者の質・量が十分に確保されておらず、社外取締役の候補者として人気のある一部の人材が複数の会社の社外取締役を兼任している状況であることが指摘されています(※注2)。
※参照
デロイトトーマツ「これからの社外取締役の選任・処遇の在り方(1)」

CGSガイドライン70頁は、社外取締役候補者のリストアップにつき、社長や他の社外取締役等からの紹介によることは「範囲が限定的になる懸念や、属人的な関係に左右される懸念」があるとし、「社外取締役候補者に関する情報を広く得るために、社外取締役の紹介を行う人材紹介会社や業界団体等を利用することも一つの選択肢」とし、「現状においては社外取締役の人材の供給面に制約がある中で、企業には、いかに適任者を見つけるかという工夫が求められる」としています。
既存の社外取締役紹介サービスとしては例えば以下のようなものがあります。
IR Japan
社外取締役名鑑
キャリアウォーズ

 

(※注2)諸外国では、あまり多くの企業の取締役を兼任することは精力分散防止の観点から一般的に好ましくないものとされています。英・仏・独の商法及びコーポレートガバナンス・コードでは一定数以上の企業の取締役兼任を禁止しており、議決権行使助言世界大手のグラス・ルイスは一定数以上の取締役を兼任する者の取締役選任議案につき、原則として反対助言をするとしています。
※参考
PwC Japan「取締役の兼任に関するヨーロッパ諸国の状況 コーポレートガバナンス強化支援チーム‐コラム 」

グラス・ルイス「2018 PROXY PAPER™ GUIDELINES AN OVERVIEW OF THE GLASS LEWIS APPROACH TO PROXY ADVICE」(PDF)

ステップ6 社外取締役の就任条件(報酬等)について検討する。
◎就任を依頼するに際して、社外取締役の就任条件について検討すべきである。特に、社外取締役の報酬について、インセンティブ付与の観点から、固定報酬に加えて、インセンティブ報酬(ストックオプション)を付与することも考えられる。
◎また、その他の就任条件として、会社役員賠償責任保険(D&O保険)や会社補償の適切な活用も検討対象となる。

【メモ】
・社外取締役の平均報酬
朝日新聞の記事によれば、東京証券取引所第一部上場企業における社外取締役一人当たりの平均年収は663万円であるとのこと。もっとも、上記記事によれば東証一部上場企業の間でも社外取締役一人当たりの年収額にはかなりバラつきが見られ、800万円以上の企業が3割を占める一方で、200万円未満の企業も5%あるようです。
※参照
朝日新聞デジタル「社外取締役、報酬は年平均663万円 兼務で高額報酬も」

・ストックオプション
ストックオプションとは、株式会社の従業員や取締役が、自社株をあらかじめ定められた価格で取得できる権利のことをいいます。
公開会社における新株予約権の募集事項の決定は、原則として、取締役会決議を要します(会社法240条1項)。また、新株予約権について金銭の払込みを要しないことが特に有利な条件に該当する場合や払込金額が取得者に特に有利な金額の場合、すなわち有利発行の場合は、有利発行が必要な理由を株主総会において説明するとともに、株主総会の特別決議を要します(会社法240条1項、309条2項)。
尚、ストックオプションも職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益であることから、報酬規制(会社法361条)の対象となります。

・D&O保険
社外取締役が企業の業務の追行に関し損害賠償責任を問われるような万一の場合に備えて、会社役員賠償責任保険(D&O保険)に加入させる企業が増えています。
D&O保険とは、会社役員が、役員としての業務の遂行に起因して損害賠償請求がなされたことによって被る損害に対して、役員に対して保険期間中の総支払限度額(保険金の最高限度額)の範囲内で支払われる保険です。
※参照
東京海上日動D&Oマネジメントパッケージ

三井住友海上会社役員賠償責任保険(D&O保険)標準契約プラン

・会社補償
会社補償とは、企業の役員が業務上の賠償責任を負った際に、弁護士費用や賠償金を企業が補償する契約のことをいいます。現行会社法では特に規定がないものの、実務ではすでに民法上の委任の規定(民法650条3項)を根拠とした形で補償が行われていました。今回の会社法改正案においては会社補償を明文化し、一定の手続上の統制下におこうとする動きが出ています。
※詳しくは、弊社記事『会社法改正案第430条の2「補償契約」について』を参照のこと

・責任限定契約
また、D&O保険や会社補償だけではなく、責任限定契約(会社法427条)の締結により、社外取締役等が損害賠償責任を事前に限定する方法も考えられます。責任限定契約を締結する為には予め定款変更をする必要があります。
定款変更の際には株式総会の特別決議が必要です(会社法466条1項、309条2項11号)。加えて、自社が監査役設置会社又は委員会設置会社である場合、定款変更の議案を株主総会に提出するには、予め監査役や監査委員の同意が必要です(会社法427条3項、425条3項)。

 

(3) 社外取締役が就任し、企業で活躍してもらう場面

ステップ7 就任した社外取締役が実効的に活動できるようサポートする。
◎社外取締役が、その期待される役割を果たすことができるよう、サポート体制の構築等の環境整備を行うことを検討すべきである。
◎経営会議など執行側の議論の状況を社外取締役がどの程度把握すべきかについて、取締役会の在り方や、社外取締役に何を期待するかに応じて検討すべきである。
◎取締役会とは別に、独立社外者のみで意見交換できる場を設定することを検討すべきである。
◎社外取締役が経営陣との対話や株主等のステークホルダーとの対話を円滑に行うために、筆頭独立社外取締役を選定することを検討すべきである。

【メモ】
 実際に社外取締役のサポートに取り組んでいる企業の例として、製薬大手のエーザイの活動を紹介しておきます。
※参考
コーポレートガバナンス(エーザイ)

 

(4) 社外取締役を評価し、選解任を検討する場面

ステップ8 社外取締役が、期待した役割を果たしているか、評価する。
◎社外取締役の質の向上の観点から社外取締役が期待する役割を果たしているかについて、各社において評価することを検討すべきである。
 ◎社外取締役の活躍の状況に関する対外的な情報発信の充実を検討すべきである。

ステップ9 評価結果を踏まえて、再任・解任等を検討する。
◎社外取締役の評価を踏まえて、社外取締役の再任・解任等について検討すべきである。
◎就任期間が長期に及ぶ社外取締役の再任の判断において、就任期間の長さによる利点と弊害の有無等を考慮した上でその適否を判断することを検討すべきである。
◎社外取締役の再任・解任等を検討する際に、社外者中心の指名委員会を活用することを検討すべきである。
◎社外取締役の再任基準(必ずしも定量的な基準に限らず、再任の適否を検討する上で重要な考慮要素や評価の視点といった定性的な基準も想定される)を設けておくことを検討すべきである。

【メモ】
コーポレートガバナンス・コードは、社外取締役を含む取締役会全体としての実効性に関する分析・評価の実施などによって取締役会の機能向上を図るべき(原則4-11)であるとし、分析評価結果の概要を開示すべき(補充原則4-11③)としています。
社外取締役を含む取締役会の業務評価につき、あるべきプロセスを総論的に示した例として、以下を紹介します。
デロイトトーマツ「取締役会の実効性評価支援(自己評価、外部評価)」

KPMGコンサルティング「コーポレートガバナンス・コードが求める『取締役会評価』とは」

コメント

上記の社外取締役導入の際に検討すべき事項として紹介した内容は、中には人事戦略の一環としてみられるものもあり、法務担当としてはあまり馴染みのない内容であったかもしれません。しかし、社外取締役の導入の検討を含むコーポレートガバナンスの問題は人事、法務、IR、財務といった複数の部門にまたがるものであり、それ故にコーポレートガバナンス専門組織の設置が提唱されている昨今において、社外取締役の導入を検討する企業の法務担当者にとって決して無関係だとはいえないものと考えます。
※参考
マーサー・ジャパン「複数の部門にまたがる問題にどう対応する?コーポレート・ガバナンスの主管組織を考える (1)」

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1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。
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