MBOの価格に関する判例まとめ

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1、はじめに

会社を非上場にする場合や、経営陣が株主を気にせず自由な経営をするための手段として、会社において、MBO(マネジメント・バイアウト)が行われることがあります。しかし、MBOにおいて、取得される株式の価格がいくらにするかは、経営陣と株主の間で合意できないこともあります。そこで、MBOの価格はいくらが妥当なのかについて、さらに、MBOに失敗した場合の経営陣の責任について考える素材としてMBOに関する判例をまとめました。

2、MBO(マネジメント・バイアウト)とは

MBOとは、

「企業の経営陣が投資ファンドや金融機関から資金調達を行い、既存の株主から株式を買取って自社の事業部門を取得し、経営権を取得すること」

(FUND BOOK )

通常の株式公開買い付け(TOB)と異なり、会社の取締役等が行うMBOでは、会社を非公開化にする場合があります。このような場合には、株主の利益が害されるおそれがあるため、買い付け価格の妥当性が問題となることがあります。
参照:「株式会社法 第4版」(江頭憲治郎著、有斐閣) 

3、東京高裁決平成20年9月12日

<事案>
R社(被告会社に吸収合併される)はMBOの一貫として、A社(MBOのために設立された会社)に自社株式を1株23万円で株式公開買付けさせた。A社が取得できなかった残り株式については、全部取得条項を付して、R社が取得しようとした。しかし、R社の株主であった原告らは、 R社による全部取得条項付種類株式の取得を求める種類株主総会決議に反対した。そこで、原告株主らは裁判所に対して全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定を申し立てた事案。
<争点>裁判所による株式価格の決定
<判断内容>
価格の決定については、諸般の事情を考慮した裁判所の合理的な裁量に委ねたものと解するのが相当である。そして、株式取得日に近接した一定の期間の市場株価を基本として、その平均値を株式の客観的価値とみるのが相当とした。本件では、公開買い付けの前に被告会社が業績の下方に誘導するような意図は否定できない。そうだとすると、買い付け時の株価を基準とすることはできず、業績の下方修正前の株価も考慮すべきである。そこで、公開買付け発表前の6ヶ月の平均を基準とする。また、そこに20%のプレミアムも加えるべきである。そうだとすると、6ヶ月の平均が1株28万円であり、そこにプレミアムを加え、1株33万6966円が相当であるとした。
※プレミアムとは、株式のMBOの実施後に増大が期待される価値のこと。
※本件は最高裁に上訴されるも、原審の決定を支持して棄却されました。
参照:弁護士法人 苗村法律事務所

4、札幌地裁平成22年4月28日 平成21年(ヒ)第27号

<事案>
相手方は、株式及び新株予約権を発行し、それを全てS社に割り当てた。S社が相手方の筆頭株主となった。その後、S社は相手方を完全子会社化するために1株4000円で公開買付けを行った。そして、相手方は、普通株式に取得条項を付し、全部取得条項付株式を取得しようとしたところ、株主であった申立人らが保有していた全部取得条項付普通株式の取得の価格決定を求めた事案。
<争点>
裁判所による株式価格の決定
<判断内容> 
当該株式の取得日における公正な価格につき、裁判所は、合理的な裁量の範囲内で、取得日における当該株式の客観的価値に加えて、強制的取得により失われる今後の株価上昇に対する期待を評価した価額をも考慮して、定めることができる。 そして、相手方株式の評価に当たっては、異常な価格形成がされた場合など、市場株価がその企業の客観的価値を反映していないと認められる特別の事情のない限り、上場廃止日に近接した適当な一定期間の市場株価を基本として、その平均値をもって本件株式の客観的価値とみるのが相当である。また、非上場企業でも、本件のように上場廃止から    16日しか離れていない場合は、上場廃止日から近接した一定期間の株価の平均値を客観的価値とみる。また、市場株価がその企業の客観的価値を反映していないと認められる特別の事情として、 本件は実質的ばMBOと見る証拠はなく、不当な価格操作もない。そして、買い付け提案後はその価格の影響を受けるので、その前の1ヶ月間の株価を客観的価値とみる。相手方株式の客観的価値は、2347円又は2409円であった。そして、1株当たり4000円という本件公開買付けの価格は、平成21年3月10日の直近1か月間の終値単純平均2409円に66.0%のプレミアムを付した価格になる。これは、一般的なプレミアムよりも大きいものである。そのため、1株4000円は妥当である。

5、東京高裁平成22年10月27日 平成21年(ラ)第1856号

<事案>
相手方会社がMBOを実施して会社を非公開化するため、投資会社に相手方会社の株式公開買付けをさせた。その後、相手方会社の発行済みの全ての普通株式に全部取得条項を付して、当該株式の全部取得と引き換えに相手方の別個の株式を交付した。しかし、本件公開買付けに応募しなかった株主には1株に満たない端数を交付し、端数合計数に相当する株式を売却して得られる金銭(売却価格は、本件公開買付価格である1株6万円)を交付するものとした。 これに対して、相手方の株主がこれに反対して、会社法172条1項に基づき、本件株式の各取得価格の決定を申し立てた事案である。
<争点>
裁判所による株式価格の決定
<判断内容>
MBOの関係者に利益相反関係が全くないとはいえずMBOの構造上「強圧性」が全くないと評価することができない場合には、右株式取得決議に反対する株主の株式価格決定の申立てに係る取得価格は、取得日の客観的価値に20%のプレミアムを加算した額とするのが相当である。本件では、会社経営者によるMBOであることも考慮すると、構造上「強圧性」がある。その上で新聞の記事からプレミアムの基準を抽出し、適用する。また、株式価額算定の基準は買取発表の影響が及ばない時期の市場時価を用いる。そうだとすると、株価は1株6万1360円が相当である。 

6、東京高裁平成25年4月17日判決 

<事案>
被告会社(上記3事件と同じ会社)に吸収合併されたR社(上記3事件と同じ会社)の株式を所有していた原告らが、被告会社による本件株式公開買付け及びR社による本件MBOの実施により、その所有するR社株式を低廉な価格で手放すことを余儀なくされ、適正な価格との差額分の損害を被ったと主張して損害賠償を求めた事案。
<争点>会社・経営陣に対する、MBOで生じた損害賠償請求
<判断内容>
株式会社の取締役は、善管注意義務及び忠実義務の一環として、株主の共同利益に配慮する義務を負っている。そして、義務違反の有無は、法令はもちろん取締役の役割や利益相反関係などの要素を総合考慮する。本件に法令違反はなく、経営の再構築目的がある。取締役には交渉に関与するなど利益相反関係がないとは言い難いが、直ちに善管注意義務・忠実義務違反はない。また、一応の利益相反による弊害の防止措置はあったので、株主の共同利益に反するとまでは言えない。
よって、本件においては、被告らに上記義務違反があったとは認められない。

7、経済産業省の指針 

経済産業省がMBOを含めた公正なM&Aのあり方に関する指針を公表しているので、参考にしてみてください。(特に、株式買収対価については、11頁~13頁を参照)
公正なM&Aのあり方に関する指針 

8、終わりに

まず、3の判例(東京高裁決平成20年9月12日)はMBOの価格決定の中でも有名な判例です。特にプレミアム20%を述べたことが、その後の判例にも影響を与えているようです。また、6の判例(東京高裁平成25年4月17日判決)におけるMBOによって損害が株主に生じた場合、損害賠償請求される可能性があるということが示されました。さらに、4の判例(札幌地裁平成22年4月28日 平成21年(ヒ)第27号)はMBOに当たらないと判断された事例ではあるものの、全部取得条項株式の価格の決定の際には参考になると思います。そして、5の判例(東京高裁平成22年10月27日 平成21年(ラ)第1856号)は経営者からのMBOが強圧性があるとされ、それが価格決定に影響を及ぼすことを示唆しています。MBOは、ここ数年で減少傾向にあると思われます。
しかし、自社がいざMBOを行うとなった場合、の株式の価格決定については、株主にも十分な配慮をしなければならないということを、覚えておいていただければ幸いです。 

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[著者情報] kyoshida

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1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。
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