インコタームズ2010まとめ
2017/04/28 海外法務, 外国法, その他

はじめに
国際化が進んだ現代では国際的な売買も盛んになりました。法務を担当する方の中には国際売買契約を取り交わす機会のある方も少なくないのではないでしょうか。今回は、国際売買での重要な慣行であるインコタームズ2010についてまとめて行きます。
インコタームズ2010とは
インコタームズ(Incoterms)は、国際商工会議所 (International Chamber of Commerce: ICC) が策定した貿易条件です。他国の企業と売買契約を行う際にも、通常は書面によって契約がなされます。そして、この売買契約書作成の際に主要項目として記載されるのがタイプ条項です。タイプ条項には契約書番号、日付、支払条件などがあります。その中でもインコタームズは主として費用負担と危険負担の範囲を定めるものです。なお、所有権の移転時期等については内容に含まれないので注意が必要です。
売買契約書の記載事項についてまとめてみました
インコタームズ2010の内容
インコタームズは危険負担と費用負担の移転時期についての11規則を定めています。移転の時期が早ければ輸入者の負担が大きくなり、遅くなれば輸出者の負担が大きくなります。危険負担と費用負担を考えるに際して、インコタームズは全ての輸送手段に適した規則と船舶輸送にのみ適した規則(コンテナ船は含まれない)に大きく分けられています。また、11規則は売主から買主に商品が届くまでのどの段階で負担義務が移転するかという観点で仕分けされています。危険負担と費用負担の移転時期が同じものとずれているものがあるので区別が必要です。また、保険料の負担についての注意が必要です。
適切なインコタームズの使い方、選び方
全ての輸送手段に関わるもの
EXW:買主の負担が最も大きいのがEXWです。危険・費用負担の移転時期は売主が自社の拠点である工場や倉庫などの敷地内で買主に引き渡した時点です。危険負担と費用負担の移転時期は一致しています。売主が自社の拠点である工場や倉庫などで買主に渡すと、その後の危険と費用はすべて買主が負担することになります。買主は商品を引き取るためのトラックなどの輸送手段を手配する必要があり、積み込み作業の危険も負担しなければなりません。EXWはインコタームズの11規則の中で、買主が輸出国での輸送費用、輸出通関の費用を負担する唯一の規則です。ただし、売主にも買主への助力義務があります。例えば、関係系省庁からの輸出認可取得や、輸出通関を行う際の輸入者への情報提供などです。
EXW(工場渡)の輸出入手続き
輸入者の負担が大きいEXW
FCA:危険・費用ともに、輸出地の指定場所で輸入者が指定した運送人に商品を引き渡したときに負担が移転します。例えば、指定地がコンテナード(CY)の場合は、コンテナをCYのゲートに搬入した時点、指定地が混載貨物専用倉庫(CFS)の場合は、トラックの荷台の上などの輸送手段の上で、商品を運送人に引き渡した時点において負担が移転します。
CPT:危険負担の移転時期についてはFCAと同じですが、費用の負担の移転時期が異なります。危険については、輸出地において売主によって指名された運送人に商品を引き渡した時点で、売主から買主に負担が移転します。ただ、引き渡し義務が完了したあと、買主の所在地などの指定仕向地までの輸送費用については、売主が負担します。
CIP:危険負担の移転時期についてはFCA・CPTと同じです。また、費用負担の点について指定仕向地までの輸送費を売主が負担する点はCPTと同じです。ただし、CIPでは指定仕向地までの保険料についても、売主が負担します。
コンテナ輸送貿易取引条件FCA、CPT、CIPを使用すべき理由
コンテナ運送向きの条件~FCA、CPT、CIP
DAT:輸入国におけるターミナルで、到着した船や飛行機など輸送手段から荷下ろしした商品を引き渡した時点で負担義務が移転します。輸入国のターミナルとは埠頭、港湾地区の倉庫、コンテナヤード、鉄道の駅などです。
DAP:危険・費用負担ともに、輸入港、または輸入国におけるターミナルにおいて、輸入通関前の輸送手段の上で荷降ろしの準備ができた状態で買主に引き渡した時点で負担が買主へ移転します。
DDP:DAPの負担移転時期が輸入通関前なのに対して、DDPは輸入国側の指定仕向地で、輸入通関後に危険と費用負担が移転します。輸入通関手続きに必要な費用や関税、その他の税金、輸送中の商品ダメージなども売主の負担になります。
貿易条件Dグループ(DAT、DAP、DDP)の概要と流れについて
輸出者の負担が大きい~DAT、DAP、DDP~
海上及び内陸水路輸送に適用する規則
FAS:商品を指定船積港の本船の船側に置いた時点で、売主の引き渡し義務が完了し、買主は、その時点から一切の費用及び減失・損傷の危険を負担します。
FOB:FASと異なり船上に置いた時点で、売主の引き渡し義務が完了します。そして、買主はその時点から一切の費用及び減失・損傷の危険を負担します。
CFR:売主の引き渡し場所、危険負担の範囲はFOBと同じです。ただし、売主は指定仕向港までの運送費用を負担します。
CIF:売主の引き渡し場所、危険負担の範囲はFOBやCFRと同じです。また、売主は商品を指定仕向港までの運送費用を負担する点はCFRと同じです。特徴は、売主が商品を指定仕向港までの保険料を負担する点です。
インコタームズのFCAとFOBどちらが実務的?
船舶運送向きの条件~FAS、FOB、CFR、CIF
インコタームズ2010の使い方
●ウィーン売買条約との関係について
ウィーン売買条約では67条、68条で危険負担について規定していますが、内容が具体性に欠けるため、インコタームズほど利用されていません。締約国間の取引ではウィーン売買条約が基本には適用されます(条約1条)。ただし、明示的な排除文言を加えれば、適用の排除が可能です(条約6条)。また、適用を排除しなくても、同条約は「当時者は合意した慣習および当事者間で確立した慣行に拘束される」としています(条約9条1項)。「慣行」にインタームズは含まれると考えられているため、インコタームズによることの明示的文言を契約書に加えておけば、インコタームズをウィーン売買条約に優先させることが可能となります。たとえば ”All trade terms provided in the Contract shall be interpreted in accordance with the latest INCOTERMS of International Chamber of Commerce. と記述していれば、インコタームズが優先します。
ウィーン売買条約の概要(ジェトロ)
●11規則の記載の仕方
インコタームズの記載においては、正確な場所や港を指定しなければなりません。なぜなら危険の移転と費用負担の移転の分岐点になるからです。インコタームズを貿易条件として使用する際には、「FCA Narita Airport」といった形で契約書に記載されます。
インコタームズの使用法
●インコタームズ2000との関係に注意する
インコタームズは法律でも条約でもため、当事者の同意により2010年度版ではなく、インコタームズ2010によることも可能です。ただし、何も記載しなければ慣例上2010年度版と解釈されてしまします。そのため、契約書に記載する場合には、「As per Incoterms 2000」、「in accordance with Incoterms 2000」などと明示しておく必要があります。
インコタームズ2010と2000の違いを把握しよう
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