博報堂元嘱託社員が勝訴、雇い止め法理について

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はじめに

 大手広告代理店「博報堂」の嘱託社員だった女性が無期転換前に雇い止めされたとして地位確認などを求めていた訴訟で17日、福岡地裁は雇用の継続を命じました。未払い賃金と年2回の賞与の支払いも含まれております。今回は雇止め法理と無期転換ルールを見直していきます。

事案の概要

 報道などによりますと、原告の女性は1988年に新卒採用で博報堂九州支社に嘱託社員として入社し、1年契約で29回更新を続け、2018年3月末まで経理を担当してきたとのことです。同社は2017年12月に次回以降の雇用契約は更新しない旨伝えたとされます。改正労働契約法の無期転換ルールによる転換権が得られる2018年4月を前に雇い止めされた形となります。女性は社員としての地位確認と未払い賃金分の支払いを求め福岡地裁に提訴しておりました。

雇い止め法理とは

 従来判例では長期間、有期労働者を雇用してきており、期間の定めのない契約と実質的に異ならない場合には雇い止めが信義則上許されない場合があるとされてきました(最判昭和49年7月22日等)。これを一般に雇止め法理と言います。それ以来長らく多くの裁判例でこの考え方が適用されてきましたが、平成24年労働契約法改正により明文化されました。以下具体的に要件を見ていきます。

雇い止め法理の要件

 労働契約法19条によりますと、①過去反復して労働契約が更新され、無期労働者と社会通念上同視できる場合、または②労働者が労働契約更新を期待するについて合理的な理由がある場合には、更新拒絶が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は従前の内容で労働契約を更新したものとみなされます。具体的な年数などは示されておりませんが実質的に無期雇用社員と同等の期間雇用されている場合やこれまでの雇用の態様などからこれからも更新されるであろうと期待することが合理的と認められる場合には無期雇用社員を解雇する場合と同様であるということです。使用者側から一方的に今後の更新回数や上限を伝えてもそれによって更新を期待する合理的理由が無くなるものではないとされております。

無期転換ルールについて

 労働契約法18条では、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合には、労働者の申し込みにより無期労働契約に転換されるとしています。具体的には平成25年(2013年)4月1日以降に締結または更新された労働契約から適用対象となり、5年後の2018年4月1日から無期転換の申し込みができるようになります。なおこの5年という期間は実際に契約期間が5年を経過していなくても、たとえば契約期間を3年として有期労働契約を締結している場合、1度更新すれば通算契約期間は6年となることから4年目で無期転換権が発生することとなります。

コメント

 本件で博報堂側は、「人件費の削減が必要で、女性のコミュニケーション能力にも問題があった」と主張しておりました。しかし福岡地裁は原告女性が長期間にわたって勤続していた点を踏まえ、雇い止めには不十分な理由とし従業員としての地位を認めました。1988年の入社以来、29回に渡って更新され続けていたことから無期社員と同視でき、無期転換権発生直前に雇い止めをしたことが客観的に合理性が無いと判断されたものと考えられます。以上のように長年雇用し続けてる有期契約社員は事実上無期社員と変わらない扱いを受けることとなります。雇い止めをする場合には社会通念上合理的と認められるような理由が必要となります。無期転換を目前に慌てて雇い止めをすることは得策ではないと言えます。今一度自社従業員の労務状況と雇用方針を見直しておくことが重要と言えるでしょう。

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[著者情報] mhayashi

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2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。
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