監査法人交代制見送りへ、会計監査人について
2020/01/16   商事法務, 会社法

はじめに

 金融庁は企業不祥事対策として検討されてきた監査法人の交代制導入を見送る方針であることがわかりました。企業側の負担増に配慮したものとのことです。今回は一定の会社で設置が義務付けられる会計監査人について見ていきます。

事案の概要

 2006年のカネボウの会計不祥事や2016年の東芝の会計不祥事を受けて金融庁では監査法人の交代制導入を検討していました。一つの監査法人が同一の企業の会見監査を継続して担当できる期間に上限を設けるというものです。EUでは既に導入され監査期限の上限は原則10年となっているとのことです。金融庁では国内外の企業や監査法人を対象に聞き取り調査を進めてきましたが、企業側に相当なコストと手間がかかることや、交代によって監査の質が低下するなどの反対意見も根強く、交代制の導入は見送る方針が固められたとされます。

会計監査人とは

 会計監査人とは会社の計算書類などの会計監査を行うことを職務とする会社法上の機関の一つです。公認会計士または監査法人のみが就任することができます(337条1項)。原則として設置は任意でどのような会社でも置くことができますが、大会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社は設置が強制されます(328条1項、327条5項)。また会計監査人を置く場合は必ず監査役(監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社は除く)の設置も強制されます(326条2項、327条3項)。会計監査人はいつでも会社の計算書類などを調査でき、取締役や会計参与、支配人等から会計に関する報告を求めることができます(396条2項、3項)。

会計監査人の選任・解任

 会計監査人は会社の機関の一つですが「役員」ではありません。そのため選任・解任について役員とは異なる部分が存在します。まず選任・解任は他の役員同様に株主総会普通決議によりますが、他の役員と異なり定足数を3分の1未満にすることも可能です(341条)。そして誰を選任するかといった選任議案は通常は取締役等が決定しますが、会計監査人については監査役が決定します(344条)。選任・解任について会計監査人は意見を述べることもできます(345条)。そして任期は1年と短いものの、定時総会で別段の決議がなければ自動的に再任されたものとみなされます(338条2項)。また会計監査人が職務を怠ったりふさわしくない非行があるといった一定の重大事由が生じた場合、監査役全員の同意によって解任できます(340条1項、2項、4項)。

一時会計監査人

 通常取締役などの役員が任期満了または辞任によって退任した場合、それによって法令または定款に定められた人数を欠くことになると、その役員は新たに役員が補充されるまで権利義務役員としてその地位が強制されます(346条1項)。しかし会計監査人については適用されません。そこで会計監査人に欠員が出た場合は監査役が一時会計監査人を選任することとなります(346条4項、5項)。一時会計監査人には任期の定めは無く、新たに株主総会で会計監査人が補充された時点でその地位を失うこととなっております。また一時会計監査人も一定の重大事由が生じた場合は監査役全員の同意によって解任することができます。

コメント

 公認会計士・監査審査会によりますと、日本における会計監査は大手4監査法人が91%のシェアをもっておりどうしても企業の会計監査人は同じところに固定されがちになります。そのため会計不祥事が生じるたびに監査法人交代の必要性が指摘されております。しかし一方で大手4法人が9割を占める中、代わりの会計監査人の確保は容易ではなく、またコスト面での負担も相当なものと予想されます。金融庁も当面は監査法人の交代制導入については慎重にならざるを得なかったものと思われます。以上のように会社の適正な会計を司る会計監査人は会社法上もかなり特殊な扱いとなっております。会計監査人の設置を検討している場合は、その特殊性を把握し、また金融庁の動向にも注目しておくことが重要と言えるでしょう。

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