今注目の「指図権」に隠れたリスクとは

はじめに

現在、東芝が子会社である東芝メモリを売却する手続を進めている中、産業革新機構と日本政策投資銀行が東芝メモリの議決権を間接的に行使できる「指図権」を得る予定であることが発表された。そこで、注目された「指図権」とはどのようなものなのか。

事案の概要

東芝は子会社である東芝メモリの全株式を売却する予定であることを発表した。その売却先として米投資ファンドである米べインキャピタルを中心とする日米韓企業連合(後にパンゲアと命名)が有力となった。一方、他の売却先として東芝の合弁企業でもある米ウエスタンデジタル(以下「WD」)とも交渉していた。しかし、売却先として日米韓企業連合が有力となった際、WDは他社への売却を食い止めるために、合弁会社の持分について、双方の合意なく売却することはできないとする合弁契約をもとに国際仲裁裁判所に売却差止訴訟を提起した。WDの主張が仲裁裁判所に認められた場合、東芝メモリの売却が無効になるリスクが生じる。東芝メモリに将来的に出資検討を表明している産業革新機構からは戸惑いの声があがり、産業革新機構と日本政策投資銀行は東芝メモリに投資する企業連合から離脱した。しかし、パンゲアの設立に際し、日本企業の参加をさせるために両社の出資を確保するべく経産省が編み出した苦肉の策として指図権を付与することを提案し、東芝は出資までのつなぎとして議決権を行使できる「指図権」を付与する予定であることを表明した。

指図権とは

指図権とは信託法には規定はないが、信託契約により委託者又は受益者に付与することができる権利である。その内容は、信託契約により財産の権利者から依頼を受け、具体的な管理方法や処分の判断を財産の管理者あるいは経営者に対して指図するというものである。一般的に指図権は財産管理を委託された投資銀行が直接投資判断をするのではなく、より投資の専門知識が豊富な投資会社などに付与される形で活用されてきた。ただ重要なのは、指図権というのはあくまでも指図できるだけで最終的な責任は指図を受けた財産管理者側にあるという点である。財産管理者は指図権者の指図に従わなければならないということではないのである。

仮に東芝が指図に従わなければ

これまでに使われてきた指図権では指図権者の指図に従わなければならないということでないのであれば、指図権を付与されてもリスクはないようにも思える。しかし、東芝の事案のように株主総会の議決権について指図権を付与する契約を結んだ場合に指図権者の指図に従わなければ問題が生じるという考えもあるようである。
東芝メモリの事案では東芝が有する東芝メモリの議決権の行使について産業開発機構と日本政策投資銀行に指図権を付与することを予定している。この場合、産業開発機構と日本政策投資銀行が議決権行使について指図できることになるのであるが、仮に東芝がこの指図に従わなかった場合、どのような問題が生じるであろうか。
この点、株主総会の決議は有効に成立するものの、決議の不存在、無効、取消しの対象にはなり得ると考える専門家もいる。つまり、(1)株主総会の決議の方法が著しく不公正なとき、(2)株主総会の決議について手続的な不適切な度合いが著しく、決議が存在するとは認められないような場合、(3)株主総会の決議が法令に違反する場合、のいずれか又は双方に当てはまる可能性があるということである(会社法830条~834条)。

コメント

信託法自体は昔からある法律であり、一般的な指図権も昔から使用されてきた。しかし、東芝メモリのような大規模な企業買収において使用されたという事例は直近では見当たらない。指図権者の指図に従わないと株主総会の決議の不存在、無効、取消し等、問題が生じる可能性はあるが、指図権の付与によって出資者を出資までつなぎとめておけるという効果が見込まれる点は企業買収の過程において大きなメリットとなる。
指図権を付与する側の企業としては、企業買収の際の出資者を確保することができるというメリットの一方、指図権に従えないような状況が生じた場合には指図権に従わないことが株主総会決議の不存在等の可能性があるというリスクを負うということを指図権付与契約の当初から頭に入れておく必要がある。また、指図権を付与される側の企業としては、議決権の行使に指図ができるというメリットの一方、表向きには指図権を付与されることが将来の出資を約束するような側面を持ってしまうことから、単純に議決権の行使に指図できるだけであると思ってはいけない。
東芝の事案で大きな問題が起こらなければこれからの企業買収におけるモデルケースとなっていくかもしれないことから動向に注目しておきたい。

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[著者情報] Yoshiaki Ueda

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