改正民法成立、新制度の定型約款とは?

はじめに

先月26日、120年ぶりの民法の改正案が国会で成立し、今月2日には官報に掲載・公布されました。民法改正の内容は多岐に渡りますが、今回は定型約款について取り上げようと思います。

定型約款とは何か?

●定型取引、定型約款とはどんなものか?
定型約款とは何なのかを把握しておく必要があります。改正民法548条の2以下の規定は定型約款にのみ適用されます。以下、改正民法については条分数のみ示します。
●条文
548条の2第1項では、定型約款について、「定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)」、定型取引について、「定型取引(ある特定のものが不特定多数者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)」、定型取引合意について「定型取引を・・・・を行うことを合意(次条において「定型取引合意」という。)」と定めています。
●当てはまるための要件
具体的取引が定型取引にあたるためには①不特定多数者を相手にする取引であること②内容が画一的であることが合理的であること、が必要です。さらに、定型取引で約款が定型約款にあたるためには、③契約内容とすることを目的として一方当事者により準備された条項の総体であること、が必要となります。③については、通常の契約では、双方が話しあって合意に達します。しかし、定型約款では事業者が一方的に内容を用意する点で異なります。
●例えば
定型約款の例として、ホテルのチェックイン時の宿泊約款、列車に乗る場合の契約条項、保険約款、WEBサービスの利用規約、預金規定等が挙げられます。

施行はいつか?

施行日は「一部の規定を除き、公布の日から起算して3年を超えない範囲内おいて政令で定める日」です。3年間は周知期間とされ、今月2日に公布されたため、2020年6月2日までには施行されることになります。周知期間とは、いきなり法律を社会に適用しても、内容の理解に時間がかかるため、国民に法律の内容を知ってもらう期間を設ける趣旨です。施行までにしっかりと改正民法に対する準備を整えて起きましょう。

定型約款の明記までの経緯

●今までは?
事業者が一方的に契約内容を条項化した約款については、裁判例によって契約書としての効力が認められてきましたが、明確な法律はありませんでした。法律がないため、約款が契約内容なのかについて争いが生じたり、内容を読まないまま同意することで後々の争いが生じたりしやすい状態でした。そこで、改正民法では、利用規約などのいわゆる定型約款についてのルールを定めました。
●改正民法では
改正民法では548条の2以下に定型約款についての定めが設けられました。定型約款に該当し、民法のルールを守れば、合意が擬制されます。つまり、約款は契約には含まれない、読んでいなかった、理解していなかったといった理由により、争いが生じることがなくなります。

合意の擬制

●定型約款により合意のみなしを得るには
大枠として定型約款にあたる場合、現実の合意がなくても、合意があったものとして扱えるのが、定型約款のメリットです。しかし、この定型約款のメリットを活かすためには、手順を踏む必要があります。
●条文
548条の2第1項は「次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項においても合意したものとみなす。」としています。
そして、①「定型約款を契約内容とする旨の合意をしたとき」(1号)、②「定型約款を準備した者(以下「定型約款順者」という。)があらかじめその定型約款を契約内容とする旨を相手方に表示していたとき。」(2号)と定めています。そのため、①②のいづれかにあたる場合には、実際の合意がなくても合意があったものして扱われます。
①契約内容とする旨の合意
例えばウェブサービスの利用規約について、「利用規約に同意した場合には、双方の契約内容となります」という文言を利用規約に記載するといった方法が考えられます。
②定型約款を契約内容とする旨のあらかじめの提示
定型約款を契約内容とするには、約款がどのような内容であるかを提示する必要があります。例えば、電子メールにURLを明記して送信する方法が考えられます。

表示義務

●条文
548条の3第1項は、「定型取引を行い、または行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していた時は、この限りでない。」と定めています。また、548条の3第2項は、「定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。」としています。
●表示義務を怠ったら?
定型約款について約款の内容表示義務を怠れば、合意の擬制は否定されます(548条3第2項)。
●表示の方法
内容の表示は、請求があった場合に遅滞なく相当な方法で行わねばなりません(548条の3第1項)。ただし、あらかじめ書面交付又は電磁的記録の提供を行えば改めて内容を表示する必要はありません(同条但書)。そのため、後の請求を見越して、事前に書面交付、記録提供を行っておくのも一つの手です。
●表示方法の具体例
請求があったときのために、定型約款の用紙、ファイルにアクセスし、提供出来るようにしておきましょう

内容への歯止め

●概要
約款全体が定型約款に該当し(548条の2第1項柱書)、合意の擬制のために必要な手続(同条各号)をとっても、定型約款を構成する各条項の内容についてのルールに反していれば、定型約款として合意の擬制は得られません。
●548条の2第2項
548条の2第2項は、「前項の規定にかかわらず、同条項の規定のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。」としています。
●利益を一方的に害する条項とは
利益を一方的に害する条項として①不当条項②不意打ち条項があるとされれます。①不当条項とは、例えば不当に高い違約金やキャンセル料を定めた条項、不当な免責・賠償金額を定めた条項等をいいます。②不意打ち条項とは、例えば、定型取引とは全く関係ない商品のセット販売をさせる条項、定型取引の商品には予測できない保守管理が付いている条項等を指します。

約款の変更

定型約款もサービス内容の変化等、時の経過や事情の変更により内容を変更する必要性に迫られることがあります。そのため、民法548条の4は定型約款の変更に関するルールを定めています。
●合意によらない一方的変更が可能
定型約款は、要件さえみたせば「個別に相手方と合意することなく契約内容を変更することができる」(548条の4第1項柱書)とされています。
●どのような場合に合意なしに変更できるのか(要件)
・1号による変更
「変更が、相手方の一般の利益に適合するとき」(1号)は合意なしに定型約款を変更することが可能とされています。
・2号による変更
①契約目的に反しないこと(1項2号)②変更の必要性、変更内容の相当性(1項2号)③約款を変更することがある旨の定めがある(1項2号)場合には2号による変更が可能です。
①について
1号による変更は、契約目的と整合的なものである必要があります。例えば、安価な宿泊サービスの提供を目的とした約款について、より安価な宿泊を提供すべく、宿泊設備の減少を行う旨の約款は、契約目的に整合的な変更といえます。
②について
ユーザーが予期しないような大幅な変更は無効になってしまう可能性があります。
③について
具体的な条項として、合意無く変更することがある旨を定めておく必要があります。
●周知手続(2項、3項)
定型約款を変更するときは、効力の発生時期、変更する旨、内容、効力発生時期をインターネットその他適切な方法により周知させる必要があります(2項)。また、2号により変更する場合には、変更の効力発生時期までに周知手続をとる必要があります(3項)。

民法改正による約款の新ルールの重要性(近江法律事務所)
120年ぶりに改正民法成立!利用規約や約款についてのルールが明確になりました(グローウィル国際法律事務所)
民法の一部を改正する法律

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約2年1ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
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[著者情報] ishizaki

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■野村 亮輔
弁護士(東京弁護士会)/株式会社レトリバ非常勤監査役

東京大学法学部卒
労働法/景品表示法を中心とした企業法務を広く取り扱う他、人事労務担当者との勉強会を8年以上主宰。
著書に「景品表示法の理論と実務」(中央経済社)、執筆記事に「基本用語と講習例でわかる!LGBT基礎知識」(月刊ビジネス法務・2017年3月号)等がある。
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■登島 和弘
サイネオス・ヘルス合同会社
アジア太平洋地域法務責任者

中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、日本AT&T㈱(米系)契約課長、松下冷機株式会社法務室主事、
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2005年東京大学法学部第一類卒業
2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)
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2016年Max Planck Institute for Innovation and Competitionにある
ミュンヘン知的財産法センター修了(LL.M.)、同年Noerr法律事務所ミュンヘンオフィス勤務
2017年米国ニューヨーク州弁護士登録

日本における知的財産法、営業秘密保護、個人情報保護法のほか、
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外資系法務本部長、駒澤大学法科大学院、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師
元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒

編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

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