マタハラ、退職が無効となる場合って…?

1、はじめに

以前、「マタハラ指針への対応」として、当ニュースでもマタハラ問題について取り扱ってきましたが、今月2日に、東京地裁立川支部の判決において、妊娠をした女性に対して会社が行った退職を、無効とする判断が初めて出されました。
東京マタハラ訴訟「妊娠中に合意なき退職は無効」(毎日新聞)
そこで、具体的に、どうした経緯で退職手続きを行うと無効となってしまうのか、について見ていきたいと思います。

2、マタハラについて

まず、マタハラの概要を再確認しますが、マタハラとは、マタニティハラスメントの略で、働く女性が妊娠・出産・育児をきっかけに職場で精神的・肉体的な嫌がらせを受けたり、妊娠・出産・育児などを理由とした解雇や雇い止め、自主退職の強要で不利益を被ったりするなどの不当な扱いをいいます。
そして、法的には、平成28年3月に男女雇用機会均等法11条の2、育児介護休業法25条が新設・改正されて、事業主が「適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」を講じなければならないことが明示されました(厚生労働省HPより)。
例えば、下記の本件のような事件との関連であれば、相談窓口を設けて、相談に応じる適切な体制を整備することなどです。

3、これまでの事件について

平成26年10月23日に最高裁が判断した事件には、医療介護事業等を行う生協で、副主任として働く理学療法士である女性が、妊娠中の軽易な業務への転換に際して副主任を降格させられ、育児休業の終了後も副主任に任ぜられなかったという事案がありました。
この事件において、担当裁判官は、復帰後の地位の説明がなかった点などを挙げ、降格を女性が承諾したことについて自由意思に基づいていたとの客観的な理由があったとは言えないとし、降格を不当とした上、賠償請求を認める判断をしました。

このように、妊娠した女性社員の「降格」処分は不当とした事件はありましたが、本事件では「退職」を無効とする判断を出した事件となります。以下、その事案と判断を紹介いたします。

4、本事件について

判決文によると、女性は建築測量会社に勤務していましたが、15年1月に妊娠したため、上司と相談したのち、「工事現場での勤務は困難」であるとして関連の派遣会社で働くことになり登録をしました。しかし、女性が長時間通勤で体調を崩したため、自宅近くの職場への変更を希望しましたところ、会社側は無視し、6月の派遣登録をした時点ですでに「退職扱いになっている」と伝えたようです(毎日新聞HPより)。

そして、荒木精一裁判官は、判決理由において、以下の判断基準を示しました。
 「妊娠中の退職の合意があったか否かについては、特に当該労働者につき自由な意思に基づいてこれを合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかを慎重に判断する」というものです。

つまり、退職が無効となる判断の決め手は、「妊娠中の退職の合意の有無」となるようです。実際本事件でも、同裁判官は、会社に残るか、退職して派遣登録するか、を検討する情報が十分に女性に提示されていないことに着目し、「自由な意思に基づく選択があったとは言い難い」とした上で、退職を無効とし、未払い賃金と慰謝料など約250万円の支払いも命じました。

5、総括

マタハラが生じてしまう一番の原因は、職場の方々の妊娠・出産をする女性に対する理解の不足、と言われております。そのため、職場の社員の方々に妊娠・出産をする女性社員に配慮をするよう意識改革をしていくことが最も大切なことになります。

その上で、女性社員が妊娠した場合については、任されていた職務が行えなず何らかの「異動」又は「退職」の必要性が生じる場合も、本事件の工場現場での労働のように生じてしまうことはあると思います。
その場合、法務担当者としては、異動又は退職の「合意に至っていること」を証明できるようにしておくことが大切かと思います。そのため、人事や労務の担当者に対して、「➀女性社員へ、十分に異動・退職の検討材料となる情報を提供することと、②実際にどのような情報提供を行ったのかを記録していくこと」を行なっていく旨、伝えることが必要になってくると思われます。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約1年8ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
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[著者情報] fujii1

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2005年東京大学法学部第一類卒業
2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)
2015年バージニア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2016年Max Planck Institute for Innovation and Competitionにある
ミュンヘン知的財産法センター修了(LL.M.)、同年Noerr法律事務所ミュンヘンオフィス勤務
2017年米国ニューヨーク州弁護士登録

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野呂悠登
TMI総合法律事務所 弁護士

東北大学法学部卒業、東京大学法科大学院修了

平成27年改正個人情報保護法の全面施行前後に、
個人情報保護委員会事務局において、
法令関係とデータの利活用関係を担当

近時の著書等には『個人情報管理ハンドブック[第4版]』(商事法務、2018)、
「AIによる個人情報の取扱いの留意点」(Business Law Journal、2018年6月号)、
「ビッグデータ・個人情報の利活用と先端ビジネス」(Business Law Journal、2018年8月号付録〔LAWYERS GUIDE〕)等がある。

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レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
最近、AI関連技術の発展等により、AIの活用に対する期待が高まっており、ビジネスにおいて実際にAIの活用を始める企業が増えてきています。

AIを活用する場合、従来人間の脳が行っていた知的な作業をコンピュータに行ってもらうことになるため、従来想定されなかった様々な法的問題点が生じることが想定されます。
特に、機械学習を用いたAIを用いる際には、従来とは異なる方法で大量の情報を集積し又は処理を行うため、個人情報保護法やプライバシー権との関係が問題となりやすいと考えられています。

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小島国際法律事務所
パートナー 日本及びカリフォルニア州弁護士

東京大学法学部卒
1999年弁護士登録(第二東京弁護士会)
カリフォルニア大学デービス校ロースクール修士課程卒(LL.M.)
国内外の販売店契約に関する取扱い案件多数
著作に「販売店契約の実務」(中央経済社・共著・編集担当)

主催
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