アマゾンへの情報開示命令判決に見る発信者情報開示手続き

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はじめに

通信販売大手アマゾンの書籍レビュー欄に匿名で中傷コメントが書き込まれていたとして、東京都内のNPO法人が発信者情報の開示を求めていた訴訟で、3月25日、東京地裁はアマゾンに対して、書き込みをしたユーザーのIPアドレス、氏名、住所等の開示を命じる判決を下しました。今回は匿名で中傷コメントや名誉毀損コメントがなされた場合の発信者情報開示について見ていきます。

事件の概要

2013年夏ころからアマゾンに掲載されている書籍のレヴュー欄にユーザーが匿名で誹謗中傷する内容のコメントを書き込んでいました。これに対して書籍の著者が所属する東京のNPO法人が名誉毀損に当たるとして、アマゾンに対しユーザーのアカウント情報の開示を求める訴えを起こしていました。

発信者情報開示請求

アマゾン等のインターネット通販サイトには掲載されている商品にたいしてユーザーがそのレヴューを投稿できる欄が設けられています。このようなレヴュー欄には匿名でコメントを書き込めることから、商品の評価と言えないような誹謗中傷が書き込まれ、商品の売上や著者、権利者の名誉が侵害されたり、風評被害を被ることも多々あると言えます。こういった場合に訴訟を提起して賠償や侵害行為の差止を求めるにしても、匿名故に加害者をまず特定する必要があります。そこで特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)による発信者情報の開示請求を行うことになります。
(1)請求要件
プロバイダ責任制限法4条1項1号2号によりますと、①侵害情報の流通によって権利が侵害されたことが明らかであること②発信者情報が損害賠償請求のために必要であるか、またはその他発信者情報の開示を受ける正当な理由があること、の両要件を満たした場合に情報開示請求が認められております。レヴュー欄や掲示板等への書き込みによって名誉毀損やプライバシー侵害、著作権、商標権侵害等の被害を受けている場合が当たります。

(2)請求相手
4条1項柱書では発信者情報開示請求の相手方は「特定電気通信役務提供者」となっております。特定電気通信役務提供者とは特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいうと定義されています(2条3号)。つまり、サイトの運営者や経由プロバイダが該当することになります。

(3)請求方法
開示請求の方法としては、まずサイトの運営者やプロバイダ等に直接請求することが考えられます。しかしこの場合には開示請求を受けた業者は書き込みをした発信者に開示するかどうか意見を聴かなければならず(4条2項)、通常、発信者が同意しないかぎり開示されることはないと言えるでしょう。そこで裁判上の請求が必要になります。まず、4条の開示請求権を被保全権利としてサイトの運営者等に対し、IPアドレス等の開示仮処分命令申立を行うことになります。裁判所から開示仮処分命令が出た場合、保全執行することになりますが、その間にIPアドレスが消去されたりログが流れてしまわないようにさらに発信者情報の消去禁止仮処分命令の申立をします。そして開示されたIPアドレスからプロバイダを特定して、プロバイダに発信者の氏名住所の開示請求を行うことになります。氏名や住所といった個人情報はIPアドレス等と異なり、開示は仮処分ではく本訴提起が必要になります。

コメント

インターネット上で加害者を特定するには、上記のとおり通常は、書き込みがなされたサイト運営者に対してIPアドレス等の開示を求めます。その上でIPアドレスからプロバイダを特定して、今度はプロバイダに対して氏名住所の開示を求めるということになります。つまり、二段階の開示請求を経る必要があります。一方、本件アマゾンに対する開示命令はIPアドレス等のみならず氏名や住所も開示するよう命じられました。従来までの二段階開示を踏まずに直接氏名住所の開示がなされたということになります。アマゾンはインターネット通販事業者であることから、レヴューを書き込んだユーザーの氏名住所等の情報を相当の正確性をもって保持しているという事情が考慮され、このような事業者に対しては直接氏名住所の開示を命じるのがより直接的であると判断されたと言えるでしょう。これにより、インターネット上の権利侵害に対して法的措置がある程度取りやすくなったと思われます。一方で安易に個人情報が開示され自由な表現が侵害されるのではとの危惧の声も上がっております。また、海外サーバーやインターネットカフェを経由した場合は発信者の特定は今なお困難と言え、まだまだインターネット上の権利侵害の救済は多くの問題を残していると言えるでしょう。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約3年10ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
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[著者情報] mhayashi

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