小5のサッカー少年に1500万円の賠償判決
2011/07/15   訴訟対応, 民事訴訟法, その他

小5のサッカー少年に1500万円の賠償判決

大阪地裁は6月27日、愛媛県今治市で2004年2月、小学校の校庭でサッカーボールを蹴って遊んでいた当時小学校5年の少年とその両親に対し、計約1500万円の支払いを命じた。
少年が蹴ったボールが校庭を飛び出し、これを避けようとした80歳代のオートバイの男性が転倒、この時の怪我が原因で死亡したことを受けてのものである。裁判所は、「蹴り方次第でボールが道路に飛び出すことを予見できた」として少年の過失を認定している。

事件の経過

1.80歳代男性が死亡に至るまで
少年は校庭に設置されたサッカーゴールに向けてフリーキックの練習をしていた際、ボールが校門扉を越え、道路に転がり出た。その時、校門前を通りかかったオートバイの男性がこれを避けようと転び、足の骨折などで入院。男性は入院生活中に認知症の症状が出るようになり、翌年7月、食べ物が誤って気管に入り、これが原因で肺炎を患い87歳で死亡した。

2.訴訟の経過
男性の遺族は、少年及びその両親に対し、計約5000万円の損害賠償を求めて出訴した。一方で、少年側は、「校庭でのボール遊びは自然なものであり、この程度の遊びは許されるのだから少年に過失はない」とし、なおかつ、「事故と男性の死亡に因果関係が認められない」などと主張した。
裁判所は「蹴り方によっては道路に出ることを予測できた」として少年の過失を認定しつつ、「少年は未成年で法的な責任への認識はなく、両親に賠償責任がある」と判断した。
また、因果関係については「入院などで生活が一変したことが認知症に繋がった」と認定。その一方で、男性が患っていた脳の持病の影響も考慮して、請求額約5000万円から減額して、賠償額は約1500万円と算出した。

雑感

サッカーに限らず、誰しもボールを使って校庭で遊んだ記憶はあるのではないだろうか。今まで無邪気に行っていたその何気ない遊びが、今後は、「有責・違法な行為」と認定されるおそれがあるというのである。

「過失」が認定される上では、予見可能性(結果の発生を予想できたか)と期待可能性(結果の発生を回避することが期待できたか)が重要な判断要素となる。たしかに、小学生とは言え、自分が蹴ったボールがゴールの上を通過する可能性があること、学校の外に飛び出たボールが何らかの事故を引き起こすおそれがあることはいずれも十分予想できることと考えられる。

また、そのような事態が起こらないよう、注意深くボールを蹴ることも期待できなくもないのではなかろうか。いくら、無邪気に思いっきりボールを蹴ることが小学生として当たり前の行為とは言え、それを理由として何らの注意を払わずにボールを蹴ることが許されるわけではないであろう。
例えば、小さい子供がふざけて走り回るのが当たり前なことであったとしても、ふざけて走り回った子供がお年寄りにぶつかって怪我をさせた場合には、やはり過失が認められるはずである。小学生に過失を認めた同判決は妥当と考えられる。

また、因果関係という面でも、近時の因果関係を広く認める潮流に沿ったものであり、個人的にはそれほど違和感は感じない。

結局、この裁判で感じる違和感は、小学校側が全く責任を問われてないという部分に尽きるのではないだろうか。校庭でボールを蹴ることを許容した小学校側は、蹴ったボールが学校外に飛び出ることを想定して、相応の設備を設ける義務があったはずである。

男性の遺族側は、裁判のテクニックとして、小学校側の責任はあえて問わずに、早期決着が期待できる小学生側の責任のみを問うたわけだが、子供を守り育てる機関である小学校が、逆に責任を小学生に押し付けて逃げおおせるのは甚だ違和感がある。
別の訴訟という形になるであろうが、同様の事故の再発防止のためにも、小学校側の責任についてハッキリとさせる必要があるであろう。

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