セコムに債務不履行認定、債務の本旨に従った履行とは

法務担当者が“法務”を語る新しいWEBメディアはコチラ

はじめに

窃盗犯が店舗に侵入した際にセキュリティシステムの作動が間に合わなかったとして、中古ブランド品店の経営者が警備会社大手セコムと保険会社に対し賠償を求めた訴訟で東京地裁はセコムの債務不履行を認める判決を言い渡していたことがわかりました。今回は債務不履行責任の要件について見ていきます。

事件の概要

日経新聞電子版等によりますと、2012年12月16日未明、都内の中古ブランド品店に覆面をした二人組の犯人がバールを使って侵入しました。一人はショーケースを壊し、もう一人が高級時計などを盗んでいくという方法で、犯行時間は約1分程度のものでした。同店舗はセコムと契約しており、泥棒などが侵入した際にはセコム社員が監視カメラで確認し、遠隔操作で大きな音と白煙を生じさせ撃退する手筈となっておりました。しかし実際にセキュリティが作動し白煙が噴射されたのは犯人が逃走してから40秒後のことでした。セコムの基地局職員が別の事案への対応で画像確認が遅れたとのことです。同店経営者はセコムと保険会社に対し債務不履行による損害賠償を求め、東京地裁に提訴していました。

債務不履行責任とは

債務者が「債務の本旨に従った履行」をしないときは、債権者はそれによって生じた損害の賠償を求めることができます(民法415条)。また一定の要件のもとで契約を解除することもできます(541条)。損害賠償を請求する場合の要件としては①債務の本旨に従った履行がないこと、②債務者の帰責性、③履行しないことが違法であることが挙げられます。帰責性とは債務者の故意・過失および信義則上これと同視できるものを言います。違法であることとは、同時履行の抗弁権(533条)や留置権の存在(295条)などの履行しないことを正当化する理由が存在しない場合を言います。契約を解除する場合はこれらに加えて、「相当な期間」を定めた履行の催告と解除の意思表示が必要となってきます。

不法行為責任との違い

債務者の債務不履行があった場合、一般的には不法行為にも該当する場合あります。この場合にはどちらに基づいて損害賠償請求することもできますが、要件等に一定の違いが存在します。不法行為の場合の要件としては、①権利・利益の侵害、②故意・過失、③損害の発生と因果関係、④責任能力等となっております。債務不履行との違いとしてまず債務者の過失の存在を立証する責任を原告側が負っているということです。債務不履行の場合はその時点で原則的に債務者に過失があるからです。そして時効期間にも違いがあり、債務不履行は10年(167条1項)、不法行為は損害と加害者を知ってから3年、発生から20年となっております(724条)。

債務の本旨に従った履行とは

それでは「債務の本旨に従った履行」とはどのようなものでしょうか。この文言は493条にも出てきますが、要するに債務の本来の趣旨や目的に沿った弁済行為ということになります。それは契約の内容や関連法令、取引慣習等から決まることになります。売買契約に基づく商品の引き渡しなどであれば「債務の本旨」は明確と言えますが、契約の内容によっては当事者間で争いが生じることがあります。この点が問題となった判例としては、島から島への豪華クルーザーによる往復を含んだ海外旅行において参加人数と予算の関係で小型水上機に変更となった事例で裁判所はクルーザーによるクルージングは当初から旅行会社が強調し、他の旅行と比較しても重要なポイントであり旅行者もそれに着目して契約したとして債務不履行を認めました(東京地裁平成9年4月8日)。また看板による広告契約で、更新の際に再び設置料を支払うという内容が争われた事例で広告主側は看板がまだ使用できることから支払を拒否していましたが、裁判所は契約書や証拠から更新の際に取り替えることの合意が読み取れるとして債務不履行を認めています(東京地裁平成26年2月27日)。

コメント

本件でセコムの担当者は同店舗からの異常信号を受信した時には他の店舗からの信号を4件受信し対応に追われていました。そして現場の画像を確認したのは画像が送信されてきてから1分後のことであり、白煙を噴射したのは犯人が逃走して40秒後となりました。東京地裁は違法行為を確認したら対応を取ることがセコム側の義務であり、画像送信から約1分後に確認をするのは対応が遅滞していたとしました。このように債務不履行の発生は契約内容や慣習等によって決まってきます。セキュリティ会社の義務としては侵入後ただちに犯人に噴射すること自体が債務の本旨となっていたと言えます。また契約時の説明不足や契約書の文言からも当事者間で争いが生じる場合が多く存在します。契約の際には、どのような場合にどのような支払義務が生じるか、どのような対応が必要となるかを的確に説明した上で、正確で詳細な文言を使った契約書の作成が求められます。債務不履行が生じた場合には、上記要件を踏まえて、債務の内容と、賠償と解除のいずれを請求するかを吟味することが重要と言えるでしょう。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約2年8ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

契約法務 民法・商法
《東京会場》少人数でも課題克服!総合的法務機能 アップ講座 第8回(全8回)民法改正対応
2020年01月29日(水)
15:00 ~ 18:00
22,000円(税込)※消費税10%
東京都港区
講師情報
滝 琢磨
TMI総合法律事務所 パートナー弁護士

2002年 中央大学法学部法律学科卒業
2006年 最高裁判所司法研修所入所
2007年 第二東京弁護士会登録 TMI総合法律事務所勤務
2010年 金融庁総務企画局市場課勤務 (インサイダー取引・金商業規制・課徴金事案等を担当)
2013年 TMI総合法律事務所復帰
2016年 パートナー就任

主催・協力
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
技術革新やグローバル化が進み、ビジネスを取り巻く環境や法規制が大きく変わってきています。
部員が1人ないし数人というような中小規模の法務部では、この流れを常にフォローアップするには人的に限界があるため、各法分野の専門家とのネットワークを作り、タイムリーに外部に依頼できる体制を構築することが不可欠です。
本講座は、そのような法務部の方を対象に、最新の法律実務を解説するとともに、どのように法務機能を充実していったらよいかを一緒に議論していく講座です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
契約法務 民法・商法
《東京会場》2020年の注目すべき法改正と法務トピック
2020年02月25日(火)
13:30 ~ 16:30
22,000円(税込)
東京都港区
講師情報
淵邊 善彦
ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士

1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。
2020年は改正民法、改正独禁法、働き方改革関連法など重要な法改正が施行され、個人情報保護法などの改正も予定されています。

本セミナーは、これらの法改正の概要とそれがビジネスにどのような影響を与えるかを具体的に解説します。

重要な法改正の動きを俯瞰的に把握するとともに、各法改正が実務に与えるインパクトを理解することにより、社内においてメリハリがついた対応策を検討したり、社内研修を行ったりするための参考にしていただきたいと思います。

また、今年特に話題になりそうな法務トピックを取り上げ、その最新の状況をご紹介し、自社の法務部門の今後を考えるきっかけとしてもご活用いただける内容になっています。
申込・詳細はコチラ
契約法務 民法・商法
《東京会場》AI技術を踏まえたAI・データ戦略と、AI・データ関連契約の実務
2020年02月18日(火)
13:30 ~ 16:30
22,000円(税込)
東京都港区
講師情報
濱野 敏彦
西村あさひ法律事務所 弁護士・弁理士

2002年 東京大学工学部卒業
同年弁理士試験合格
2004年 東京大学大学院新領域創成科学研究科修了
2007年 早稲田大学法科大学院法務研究科修了
2008年 弁護士登録
2011-2013年 新日鐵住金株式会社知的財産部知的財産法務室出向

理系の大学・大学院の3年間、ニューラルネットワーク(今のディープラーニング)の研究室に所属し、プログラミング等を行っていたため、AI技術に詳しい。
知的財産・IT関連訴訟、及び、知的財産全般、IT、個人情報、危機管理、コーポレートガバナンス等の分野の法的助言を専門とする。
近時、AI技術の利用が進んでおります。
そして、本年春からの5G(第五世代移動通信システム)のサービス開始により、高速・大量のデータ通信が可能となり、AI技術の利用が加速することが予想されます。

また、AI技術に利用できるデータや、AI技術等を用いた分析結果のデータの価値が高まっております。
そのため、AI技術の理解に基づくAI・データ戦略が、競争力の維持・向上、働き方改革が進む中での業務効率化のためには不可欠です。

そこで、本セミナーでは、はじめに、AI技術に知見を有する講師が、AI技術を整理した上で、各技術の強みと弱み等について、具体例を用いてわかりやすく解説いたします。
次に、データを知的財産として保護するために創設された限定提供データ(2019年7月1日施行)を踏まえたデータの保護・管理方法について解説いたします。

そして、AI技術を踏まえたAIビジネスの動向と、価値が高まっているデータ類型を踏まえたデータビジネスの動向について解説をいたします。
さらに、AI・データ関連契約のポイントと、各立場における契約交渉戦略について解説いたします。
最後に、AI・データビジネスにおける個人情報保護に関する留意点と実務上の工夫について解説いたします。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
契約法務 民法・商法
《東京会場》第124回MSサロン「AI開発委託契約の留意点 ~委託者の視点から考える~」
2020年02月20日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
永島 太郎
内田・鮫島法律事務所 弁護士

2006年03月 北海道大学獣医学部卒業/獣医師国家試験合格
2006年04月 農林水産省 入省(2008年3月まで)~動物・畜産物の輸出入に係る許認可業務に従事
2008年04月 京都大学大学院法学研究科法曹養成専攻 入学(未修者枠)
2011年03月 京都大学大学院法学研究科法曹養成専攻 修了
2011年09月 司法試験合格/11月 司法研修所 入所
2012年12月 第一東京弁護士会登録(新65期)
2013年01月 大塚製薬株式会社 入社(2017年1月まで)~医薬品に係る国内外の契約業務、会社設立等の資本・事業提携業務等に従事
2017年02月 弁護士法人内田・鮫島法律事務所入所 この著者の記事一覧へ
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「AI開発委託契約の留意点 ~委託者の視点から考える~」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
契約法務 民法・商法
《名古屋会場》第126回MSサロン「施行直前、民法改正対応最終チェック」
2020年03月03日(火)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「施行直前、民法改正対応最終チェック」です。
申込・詳細はコチラ
民法・商法
《大阪会場》第125回MSサロン(企業法務研究会)「弁護士との付き合い方:顧問弁護士編」
2020年02月25日(火)
19:00 ~ 21:00
2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
溝上 絢子
大阪教育大学附属高等学校池田校舎卒業
大阪大学法学部卒業
大阪大学大学院法学研究科修士課程修了

2003(平成15)年04月
司法研修所入所(57期)
2004(平成16)年10月
大阪弁護士会に弁護士登録 当事務所入所
2008(平成20)年04月 - 2010(平成22)年9月
大阪大学高等司法研究科(ロースクール)非常勤講師
2011(平成23)年04月 - 2012(平成24)年03月
大阪弁護士会 常議員
2017(平成29)年07月 - 現在
吹田市立男女共同参画センター運営審議会委員
大阪弁護士会 高齢者・障害者総合支援センター運営委員会委員
大阪弁護士会 男女共同参画推進本部委員
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
セミナー部分では法務担当者のための意見交換会を行いたく考えています。
今回のテーマは「弁護士との付き合い方:顧問弁護士編」です。
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ