最高裁が初判断、事業実態が無かった場合の「信用保証」について

はじめに

銀行による融資後に融資先中小企業の事業実態が存在していないことが判明した場合、信用保証協会による保証は有効であるかが争われていた訴訟の上告審で19日、最高裁は保証が有効であり協会が債務を負担すべきとの判決を言い渡しました。今回は事後事業実態が無く債権回収の見込みが無いことが分かった場合の信用保証について見ていきます。

事件の概要

北国銀行(金沢市)は2009年1月、地元の牛乳小売会社に約5000万円を融資しました。その際いわゆるセーフティネット保証制度を利用して保証限度額を増額した上で石川県信用保証協会による保証契約を締結しました。しかし融資先の牛乳小売会社はその時点ですでに小売事業を他に譲渡してしまっており、経営の実態は無く翌年7月に破産手続開始の申立をしました。それを受け北国銀行の請求により信用保証協会は本件保証契約に基いて貸付債務の5000万円を代位弁済しました。信用保証協会はその後、経営実態の無い会社への融資に対する保証契約には錯誤があり無効であるとして、北国銀行を相手取り代位弁済した5000万円の返還を求め提訴しました。

信用保証協会とは

信用保証協会とは信用保証協会法に基づき設置されたいわゆる公益法人で中小企業が金融機関から融資を受ける際に保証をすることによって中小企業の資金繰りの支援を図ることを目的としています。一般的に中小企業は大企業と比べて経営リスクが高く、金融機関からの融資を受けにくいとされております。そこで中小企業の債務を保証することによって金融機関からの融資を受けやすくし、中小企業からは保証料を受け取って運営します。中小企業の債務不履行の際には金融機関に代位弁済を行い、中小企業や他の連帯保証人等から求償することになります。また代位弁済額の7~8割に相当する額については日本政策金融公庫から保険として補填されます。

セーフティネット補償制度とは

セーフティネット補償制度とは、中小企業信用保険法に基いて自然災害、経済環境の変化、取引先の倒産等の一定の事由によって経営に支障が生じている中小企業を「特定中小企業」と認定し、一般の保証枠とは別枠の保証額を設定する制度です(2条5項)。これらの事由に該当する中小企業は事業所の所在地を管轄する市町村長に認定を受け、公的機関からの補償額を増額することができます。

錯誤無効について

昨今、本件のような事後融資先の事業不存在が発覚した事案が増加しております。このような場合に信用保証協会側は錯誤無効を理由に弁済金の返還を求める例が多く見られます。錯誤とは意思表示の過程で意思と表示に齟齬が生じ、当該意思表示が無効となることを言います(民法95条)。言い間違いや書き間違いで間違った契約等がなされた場合に表示者を保護する規定です。錯誤無効の要件は①法律行為の要素に錯誤があることと②表意者に重大な過失がないことが挙げられます。上記のとおり錯誤とは効果意思や表示意思と表示との不一致を言います。たとえば1万円を10万円と書き間違えたり、1ドルと1ポンドが同価値と誤信して表示した場合です。その意思形成にいたるまでの動機に齟齬がある場合は原則、錯誤は成立しません。判例では動機が明示または黙示で表示され、それが要素にあたれば例外的に錯誤無効となるとしています。「要素」とは意思表示の重要部分でありそこに錯誤がなければ通常一般人も意思表示をしなかったと言える場合が該当します。

コメント

同種の事案での裁判例では①企業実態の有無は被保証資格に関する事柄であること②被保証資格に関する錯誤は動機の錯誤であること③動機の錯誤は合意の内容に取り込まれなければ民法95条の適用は受けないこと④合意の内容は当事者間の約定書のみで判断することとしています(東京地判平成25年8月8日)。これによりますと本件は動機の錯誤の事案となり牛乳小売会社の経営実態は合意内容に取り込まれていなければなりません。牛乳小売会社はもう経営実態が無いことを銀行に伝えず、銀行もそれを見抜けず、契約時にその旨伝えることができなかったことからすれば、約定書には経営の実態があるので保証する旨が読み取れると考えられ錯誤は認められると言えます。一審二審はそのように判断し錯誤無効としました。一転最高裁は本件保証契約は有効であり、債務は信用保証協会が負担すべきとしました。金融機関が相当な調査をしても事後的に経営実態が無いことが判明することはあり得るとし、このような場合に一律無効としていては金融機関が融資をためらい、信用保証の制度趣旨に反するとしました。この判決により融資金詐欺といった融資事故の場合でも保証による弁済を受けられることから金融機関の融資はしやすくなると言えるでしょう。他方信用保証協会は保証の要件を厳格にし、保証料を増額するといったことも考えられます。いずれにせよ融資の際には慎重な実態調査がより重要となると言えるでしょう。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約2年7ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
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01年東京大学法学部卒業
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12年米国Vanderbilt University卒業(LL.M.)
13年ニューヨーク州弁護士登録、英国University College London卒業(LL.M.)
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著作に『仕事でよく使う・すぐに応用できるビジネス契約書作成ガイド』(共著)(清文社、2017)、『実務Q&Aシリーズ 懲戒処分・解雇』(共著)(労務行政、2017)等がある。

■荻野聡之
アンダーソン・毛利・友常法律事務所/アソシエイト弁護士

03年東京大学法学部卒業
06年東京大学法科大学院卒業(法務博士(専門職))
08年弁護士登録
労働法、危機管理、事業再生等の法分野に関する業務を中心に取り扱っている。
著作に『企業のための労働実務ガイド1 Q&Aと書式 解雇・退職』(共著)(商事法務、2013)、『労使双方の視点で考える 27のケースから学ぶ労働事件解決の実務』(共著)(日本法令、2015)、『M&Aにおける労働法務DDのポイント』(共著)(商事法務、2017年)等がある。

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1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。

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