役員賠償責任保険の保険料を会社が負担してよいか?

はじめに

 経済産業省は2月24日、会社が会社役員損害賠償責任保険の保険料負担に関する見解を公表しました。会社役員が会社その他第三者に損賠賠償の責任を負った場合に備える会社役員損害賠償責任保険について見ていきたいと思います。

会社役員の責任

 会社の取締役、監査役等は職務を執行するにあたり、会社や第三損害を生じさせた場合には損害を賠償する責任を負う場合があります(会社法423条、429条等)。会社が役員に対して賠償請求することもありますが、会社に代って株主が当該役員に賠償請求することもできます(株主代表訴訟・847条)。株主代表訴訟は近年訴状に添付する印紙税額が低廉になったことからも増加の一途をたどっております。そこで会社役員は責任の負担を軽減するために会社役員損害賠償責任保険に加入することが増えてまいりました。さらに役員の負担を軽減し役員就任へのインセンティブを増加させるために保険料を会社が負担することも考えられるようになりました。しかしそこにはいくつかの問題も生じております。

保険料会社負担の問題点

(1)会社法上の問題
 会社が役員のために保険料を負担するということは、会社が役員に対して一定の財産上の利益を与えるという側面もあります。つまり会社法上禁止されている利益供与(120条)や、一定の手続きを経ることが求められる利益相反取引(356条1項2号、3号)に該当しうるということです。また会社に損害を生じさせても会社の負担で損害が補填されることになるのであるから、役員は安心して任務懈怠や違法行為を行えるようになってしまうのではないかという指摘もあります。

(2)税務上の問題
 従来、会社役員損害賠償責任保険は第三者に対する責任の補償を目的とする普通保険約款と、株主代表訴訟による責任の補償を目的とする株主代表訴訟補償特約に分けて契約されてきました。会社に対する責任の補填には上記のような会社法上の問題もあることから、後者の特約に関しては保険料を会社が負担する場合、それは役員に対する給与とみなして給与課税がなされてきました。しかし通常会社に対して悪意のある行為等の場合には保険は適用しない旨の免責規定が置かれています。そのことからも給与課税するべきではないとの指摘があります。

経産省の公表骨子

 以上のような指摘がなされてきた保険料の会社負担ですが、昨年の経産省コーポレートガバナンスシステムのあり方に関する研究会の報告書を受けて以下の通り公表がなされました。まず会社法上の問題について、会社法の利益相反取引に関する手続きに配慮して①取締役会の承認②社外取締役が過半数の構成員である任意の委員会の同意又は社外取締役全員の同意、を得ることにより会社法上の問題は生じない旨を明確化しました。そして税務上の問題に関しては、国税庁への照会を経て、上記①②の手続きを経た場合は株主代表訴訟補償特約に関しても給与課税はしない旨を公表しました。

コメント

 会社役員は業務執行に際して会社、第三者に損害を与えた場合、相当高額の賠償責任を負う場合があり会社役員に大きな負担となってきました。会社法上、負担を軽減する手続きはいくつか用意されておりますが、それでも全額免除されるためには全株主の同意を要するなどハードルは極めて高いものでした。そこで考えられてきたのが賠償責任保険の保険料を会社が負担するという手法です。これによって会社役員に就任しやすくすることが狙いでした。しかしこれには上記のような問題点が指摘されており、会社法上、税務上不透明なものでした。今回の経産省の公表によってこれらの問題は解消されたと言えるのではないでしょうか。これにより役員就任は以前よりやりやすくなりますが、同時に保険料を会社が負担することについては株主の一定の賛同を得る等の配慮も必要ではないでしょうか。

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安西法律事務所所属。第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長。慶応義塾大学経済学部卒。使用者側の労働紛争を専門とする。

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