レーシックで賠償命令、「説明義務違反」について

はじめに

近視を矯正するレーシック手術で網膜剥離になったとして長野県の女性が損害賠償を求めていた訴訟で9日、東京地裁は過失を一部認め、約100万円の賠償を命じていたことがわかりました。事前説明が不十分だったとのことです。今回は説明義務違反について見ていきます。

事案の概要

報道などによりますと、原告の女性は2013年9月に医療法人社団「翔友会」(東京)が運営していたクリニックで近視矯正のためのレーシック手術を受けたとのことです。術前の検査で左目の網膜に傷があることが判明しましたが、医師は手術は可能であると説明し手術を受けたとされます。その後別のクリニックで網膜剥離を発症していることが判明し、説明義務違反を理由に損害賠償を求め提訴していたとのことです。

説明義務違反とは

売買契約や医療行為、投資の勧誘などの際には相手方に詳細な説明を行うことが求められます。契約の相手方はその説明に基づいて契約を締結するか否かを判断することになり、また説明する側も相手方に不測の損害を与えないようにする必要があるからです。この説明が不足していたがゆえに損害を被り訴訟に発展することは少なくありません。一般に説明義務は民法1条2項の信義則を根拠としています。それではこの説明義務違反はどのように構成すべきでしょうか。不法行為と考えた場合、その時効は3年となります(民法723条)。債務不履行の場合は10年で時効となります(167条1項)。この点に関する判例を以下で見てみます。

説明義務違反に関する判例

(1)債務不履行に関して
ある信用共同組合が投資の勧誘を行う際に、監督官庁から自己資本比率の低下と債務超過に陥っていることを指摘されていた点を事前に説明せずに投資を受け、その後破綻した事例で最高裁は契約に先立つ説明は契約を締結する前になされるものであるから、事前の説明義務は契約に基づく付随義務であることを否定しました(最判平成23年4月22日)。

(2)不法行為に関して
コンタクトレンズの販売・処方に際してタンパク質除去処理や消毒などについての事前説明を行わなかったことにより視力低下と角膜混濁になったとされる事例で大阪地裁は医師側の告知、説明義務違反を認め、医師側に過失があるとして不法行為責任を認めました(大阪地裁堺支部平成14年7月10日)。

(3)自己決定権に関して
宗教上の理由により輸血を受けられない患者に対し、緊急の場合には輸血せざるを得ない場合があることを十分に説明せずに手術を行った事例で最高裁は、宗教上輸血を伴う医療を拒否するといった意思決定は「人格権」(憲法13条)の一内容として尊重され、説明義務違反は人格権を侵害し不法行為となるとしました(最判平成12年2月29日)。

コメント

本件で東京地裁は医師が網膜の傷を指摘しておきながら、その傷から網膜剥離を発症するリスクや手術の影響を指摘しなかった点は説明義務違反に当たるとし、説明があれば手術を受けていなかったとして医師の過失を認め約100万円の賠償を命じました。これは事前説明の不足を不法行為と認定したものと考えられます。以上のように契約締結前の事前説明義務違反は契約に基づく付随義務であるとは認められにくいものと思われます。しかし契約締結後の商品に関する説明等についてはやはり債務不履行と扱われるものと考えられます。このように説明義務違反は基本的には不法行為を構成し、債務不履行となる例は少ないと言えます。改正民法が施行される2020年までは不法行為損害賠償の時効は3年(改正後生命・身体に関しては5年)であり債務不履行の10年よりも短いという点を留意しておくことが重要と言えるでしょう。

関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース 訴訟・行政 民法・商法
《東京会場》ベンチャー企業・中小企業とのM&A・資本提携 ~ミニマムデューディリジェンスの勧め~
2019年05月30日(木)
09:30 ~ 11:30
16,000円(税別)
東京都港区
講師情報
淵邊 善彦
ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士

1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。

主催・協力
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
近年ベンチャー企業を対象にしたM&Aや、中小企業の事業承継の一手段としてのM&Aが増えています。
いずれも大企業同士のM&Aと違って、人的、予算的、時間的な制約が強かったり、大企業とは違った法的問題が見つかることがよくあります。

本セミナーでは、これらのM&Aを進めるうえでの具体的な注意点や紛争事例をご紹介します。
また、本格的なデューディリジェンスを行う予算がない場合に、必要最低限押さえておくべきポイントとその調査手法をご提案します。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 民法・商法
《東京会場:土曜日開催》今さら聞けない英文契約書(講師著書付き)
2019年06月15日(土)
09:30 ~ 15:15
(午前)か(午後)のいずれか1つに参加の方:各回13,000円+税(書籍代を含む)※書籍ご持参の方:各回11,000円+税 (午前)と(午後)の両方に参加される方:22,000円+税(書籍代を含む)※書籍ご持参の方:20,000円+税
東京都中央区京橋
講師情報
吉川 達夫
ニューヨーク州弁護士/外資系企業 VP, General Counsel

外資系法務本部長、駒澤大学法科大学院、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師
元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒

編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

主催・協力
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
ニューヨーク州弁護士、外資系会社VP, General Counselの吉川達夫氏を講師にお招きし、過去数年間にわたり毎年多くの方からご参加を頂いております「今さら聞けない英文契約書セミナー」を、初心者向けの午前の部(基礎編)と、中級者向け午後の部(英文契約書交渉とドラフティング編)として開催いたします。

(基礎編)は、英文契約書を読んでみたい方、国際法務にこれから携わる方や弁護士の方、携わっているが改めて基礎を確認されたい方など、この機会に是非ご参加ください(英文契約書の読み方を中心に解説)。

(交渉編)は、国際法務の実務を担当されている方、多少の基礎知識はあるが自己流で勉強された方や弁護士の方、発展的な学習をされたい方は奮ってご参加ください。

※当日は国際ビジネス法務(第2版)(第一法規株式会社/2018年3月発売 /2,800円+税)を教科書として使用します。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 民法・商法
《東京会場》施行間近の「限定提供データ」(平成30年改正不正競争防止法)の実務対応と営業秘密・限定提供データの漏えい防止の実務対応
2019年05月30日(木)
13:30 ~ 16:30
18,000円(税別)
東京都港区
講師情報
石川 智也、濱野 敏彦
■石川 智也(西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士)
2005年東京大学法学部第一類卒業
2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)
2015年バージニア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2016年Max Planck Institute for Innovation and Competitionにあるミュンヘン知的財産法センター修了(LL.M.)
同年Noerr法律事務所ミュンヘンオフィス勤務
2017年米国ニューヨーク州弁護士登録

日本における知的財産法、営業秘密保護、個人情報保護法のほか、EUにおける知的財産制度・競争法、EUデータ保護規則をはじめとするグローバルベースでのデータ規制について詳しい。

■濱野 敏彦(西村あさひ法律事務所 弁護士)
2002年東京大学工学部卒業 同年弁理士試験合格
2004年東京大学大学院新領域創成科学研究科修了
2007年早稲田大学法科大学院法務研究科修了
2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)
2009年弁理士登録
2011-2013年新日鐵住金株式会社知的財産部知的財産法務室出向

知的財産法、営業秘密保護、ITのほか、大学・大学院の3年間、AIの基礎技術であるニューラルネットワークの研究室に所属していたため、AIについても詳しい。

主催・協力
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
平成30年改正不正競争防止法により限定提供データが創設され、2019年7月1日から施行されます。
本セミナーでは、営業秘密・限定提供データの漏えい防止策について説明した上で、いくつかのよく問題となるシナリオ別の留意点・対応について解説いたします。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 民法・商法
《名古屋会場》第113回MSサロン 企業法務研究会「契約書レビューの手法」
2019年05月23日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
セミナー部分では法務担当者のための意見交換会を行いたく考えています。
今回のテーマは「契約書レビューの手法」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務ニュース 訴訟・行政 民法・商法
《名古屋会場》国際取引・海外展開の即戦力になるセミナー第1回 国際企業法務の基礎(全7回)
2019年05月30日(木)
14:00 ~ 17:00
12,000円(税込)※7回連続受講でのお申込みの場合は計72,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
大久保 裕史
弁護士・NY州弁護士

グローバルに展開する大規模法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所において、国際的な企業法務を取り扱い、国内外の企業に法的助言を行う。その間に、国内大手商社法務部への出向やワシントンD.C.での勤務も経験。現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして、主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。

略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
2018年5月~ オリンピア法律事務所 パートナー
英文契約をこれから担当・現在担当している法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第1回目のセミナー内容は国際企業法務の基礎(国際的な契約一般及び国際的な事業展開の形態に応じた注意点)です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 民法・商法
《東京会場》第114回MSサロン
2019年06月14日(金)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
熊木 明
弁護士・カリフォルニア州弁護士
スキャデン・アープス法律事務所 パートナー弁護士
2000年 東京大学経済学部卒業
2007年 コロンビア大学ロースクール修了

M&A、会社法、金融商品取引法を専門とし、
国内外の多くの顧客を代理しており、特に英文契約の実務に精通。
また、M&A及び英文契約に関する数多くのセミナーを行っている。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「法務担当者の為のM&A最新トレンド~最近のM&A実務の現場でのホットトピックを実例を踏まえながら解説します~」です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 民法・商法
《東京開催》少人数法務の為の企業法務研究会
2019年05月24日(金)
19:30 ~ 21:00
無料
東京都渋谷区
講師情報
舩山 達
株式会社フルスピード(東証二部上場)
法務・総務部 部長
慶応義塾大学法学部法律学科卒
大阪市立大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了
従業員5人のベンチャー企業に就職。2回の転職を経て現職。
少人数やノウハウの蓄積のないために業務の進め方に不安を持っている法務担当者のための意見交換会です。
今回のテーマは「法務部門の創り方」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

ベンチャー企業に朗報? 政府が新たな資金調達の仕組みを検討。... 事案の概要 政府は、ベンチャー企業がインターネットを経由して、広く資金を調達することが出来るように、新たな制度の導入を検討する。 政府の規制改革会議に4月11日、金融庁が提出した資料によると、クラウドファンディングという手法を活用して、ベンチャー企業の資金調達を促進する方針だ。 クラウドファ...
【中国】日本自動車部品メーカー、独禁法違反で過去最大の制裁金... 事案の概要 中国では、日米独の自動車メーカーが部品価格をつり上げているのではないかとして、独占禁止法の規制当局が調査を進めていた。そして20日、中国の規制当局は、デンソーや三菱電機、矢崎総業、日本精工、住友電気工業など日本の自動車部品メーカー12社に独禁法違反があったと認定し、10社に合計12億3...