廣川書店に賠償命令、「配点命令権の限界」について

はじめに

「廣川書店」の従業員2人が労働組合に加入していることを理由に遠方の倉庫勤務に配置転換したのは不当であるとして地位確認や慰謝料の支払を求めていた訴訟で21日、東京地裁は会社側に配置転換を無効とした上で30万円の慰謝料支払を命じました。今回は会社の配置転換権とその限界について見ていきます。

事件の概要

判決文などによりますと、原告らは薬学系出版社「廣川書店」(東京都)の営業職として勤務しておりました。原告らはいずれも労働組合に加入していたところ、昨年の2月に本社から片道1時間かかる埼玉県戸田市内の梱包会社の倉庫に配置転換がなされました。倉庫内では簡単なパーティションで区切っただけで近くをフォークリフトが走っているような区画で作業を行っており、扉もなく冬はコート着用を余儀なくされる劣悪な環境であったとのことです。出勤時は本社ビルで出勤記録を付け、夕方再び本社ビルに戻って退勤記録を付けることとなっておりました。原告らは労働組合員を排除する目的で行った配置転換であるとして、遠方で勤務する義務が無いことの確認と慰謝料の支払を求め東京地裁に提訴しておりました。

配転命令権とは

配置転換とは同一会社内で、勤務内容、勤務場所等について変更する人事異動のことを言います。この配置転換を行う権利、すなわち配転命令権は法的には労働契約上の労働指揮権の一種と言えます。つまり配転命令権の範囲内であれば使用者は業務命令の一環として勤務内容や勤務場所を一方的に変更することができることになります。そしてその配転命令権の範囲はやはり個々の労働契約に基づくことになります。それぞれの労働契約で予定されていると解される範囲に限定され、例えば契約の際に明示的または黙示的に職種や勤務地を限定する合意がなされていると判断された場合はその範囲に限定されることになります。一般的に就業規則で業務上必要がある場合には会社が配転を命じることができる旨の規定が置かれますが、判例ではそれも合理的な範囲に限定されております(最判平成11年6月11日)。

権利濫用による制限

では配転命令権の範囲内であれば無制限に配転を行うことができるのでしょうか。労働契約法では「労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当っては、それを濫用することがあってはならない」としています(3条5号)。またこのような規定がなくとも、本来権利というものは濫用が許されないとされております。この点について判例は会社と従業員の利益を比較衡量して濫用であるか否かを判断しております。具体的には①当該人員配置の変更を行う業務上の必要性の有無、②人員選択の合理性、③配転命令が不当な動機・目的によるものではないか、④当該配転により労働者に通常甘受すべき程度を著しく超えた不利益を負わせていないか、⑤その他特段の事情はないかを総合的に勘案して判断すべきとしています(最判昭和61年7月14日東亜ペイント事件)。

コメント

本件で廣川書店側は倉庫勤務には合理性があったなどと反論しておりました。東京地裁湯川裁判長は、原告は午前9時に本社で出勤記録を付け、片道1時間かけて倉庫に行き、夕方再び本社で退勤記録をつけるという勤務形態で不合理な上、倉庫で業務をしなければならない合理性は無く、労働環境も劣悪であり、組合員排除のための不当な目的があったとし無効を認めました。営業職の原告2人を埼玉県の倉庫に出向かせて勤務させる必要性と合理性が無く、組合に加入していることへの嫌がらせまたは排除が目的であったと認定されたものと言えます。同様の裁判例でも異動の必要性・合理性を見た上で、その主たる目的が嫌がらせや退職に追い込むことであるか否かを重視して判断しているようです。配転命令権の範囲については基本的に就業規則の記載があれば広く認めている傾向にありますが、やはり主たる目的に不当なものがあれば濫用であると認定しているものが多いと言えます。従業員を遠方や内容が異なる勤務に異動させる場合には上記要件に該当しないかを吟味し、配転権の濫用とならないように注意することが重要と言えるでしょう。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約1年4ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
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1992年 京都大学法学部卒業
1994年 大阪弁護士会 登録 梅ケ枝中央法律事務所 
2000年 ハーバードロースクール 修士課程(LL.M)卒業
Masuda Funai Eifert & Mitchell 法律事務所(シカゴ)
2002年 第一東京弁護士会 登録替 長島大野常松法律事務所
2004年 外立総合法律事務所
2012年 株式会社カービュー コーポレートリーガルアドバイザー    
2016年 法務室長
2018年 AYM法律事務所開設

弁護士会活動(2018年2月現在)
日本弁護士連合会 ひまわりキャリアサポート 委員
第一東京弁護士会 業務改革委員会 委員 

企業法務を中心とした法律事務所に長年勤務した後、2012年からインターネット系企業の法務責任者としてプラットフォームを利用したメディア・コマースビジネスについてのさまざまな法律問題をサポート。
2018年にAYM法律事務所開設 代表弁護士

主な著書
「アメリカのP&A取引と連邦預金保険公社の保護 債権管理 No.96」金融財政事情研究会
「米国インターネット法 最新の判例と法律に見る論点」ジェトロ 共著
「Q&A 災害をめぐる法律と税務」新日本法規 共著
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