裁判例にみるLGBT(性的少数者)への企業対応の基準

記事「裁判例にみるLGBT(性的少数者)への企業対応の基準」のイメージ

1 概要

 渋谷区のパートナーシップ条例で話題となったLGBT(性的少数者)への社会的配慮が拡大しつつある。企業の先進的対応としては、日本IBMが、結婚や出産などの特別有給休暇や介護休職などについて、男女間の結婚とかなり近い水準としている例がある。また、与党はLGBTへの差別を解消するため、党内に新たな対策組織を設けるという。とはいえ、法的には議論途上にあり、多くの企業にとっては悩ましい状況だ。そこで、顧客対応と従業員への対応が問題となった裁判例から、最低限のルールを見てみたい。

2 裁判所の基本スタンス

 この点について最高裁判所の判決はないが、後述するゴルフ場事件で東京高等裁判所は「(性同一性)障害が単なる趣味・嗜好の問題ではなく、本人の意思とは関わりなく罹患する疾患であることが相当程度社会においても認識され」ており、「性同一性障害及びその治療を理由とする不合理な取扱いをすることが許されないことは、その他の疾病を理由とする不合理な取扱いが許されないのと同様」とし、性同一性障害への差別は許されないことを明言している。
 

3 実際の事例

(1) 顧客対応:老舗ゴルフ場での入会拒否事件
男性から女性に戸籍上も変更し、性別適合手術を受けた原告が、老舗ゴルフ場から入会を拒否され、不法行為による損害賠償を請求した。一審の静岡地方裁判所、控訴審の東京高等裁判所ともに、原告の請求を一部認めて、慰謝料としては高額の100万円の賠償支払いを命じた(静岡地判平成26年9月8日、東京高判平成27年7月1日第17民事部判決)。
 注目すべきは、ゴルフ場では入浴施設や更衣室などセンシティブな施設がある点だ。裁判所は、原告が身体的・外見的に女性型になっており、実際にビジターとして過去3回、入浴施設や更衣室を利用した際に混乱がなかった事実を指摘して、ゴルフ場が被る不利益は「抽象的な危惧に過ぎない」としている。
 では、ゴルフ場の他の会員たちの意向は影響するだろうか?この点、被告であるゴルフ場は会員へのアンケートを実施し、回答総数の約6割が入会拒否に賛成していた。しかし、裁判所はアンケートの時期や内容を厳しく審査して、提訴後に行われた点や原告の入会拒否に賛成するように誘導する点があったとして、「アンケート結果はこれを重視すべきではなく、」違法性の判断に影響しないとした。また、仮にアンケートが会員の意向を正確に反映していても、「公序に反し違法な決定に当たるのであれば、団体の構成員の相当数が賛同するという理由によって肯認されるべきものではない」とし、顧客の意向であっても差別は許されないとしている。
(2) 従業員への対応:女性服装での出勤禁止事件
この事件の従業員は、性別適合手術や性別の戸籍変更はしていないものの、性同一性障害と診断されて精神療法等の治療を受け、戸籍上の名前も女性名に変更していた。そして、女性の容姿をして出勤したところ、会社は服務命令に違反するなどを理由に懲戒解雇した。従業員が地位保全および賃金・賞与の仮払いを求め、裁判所は解雇を無効として従業員の求めを認めた(東京地決平成14年6月20日)。
 裁判所は、従業員が性同一性障害により女性の容姿でないと多大な精神的苦痛を被る状態にあった場合には、女性の容姿による出勤を服務命令で禁止したり、また配置転換できないのが原則であるとする。また、取引先や顧客の違和感及び嫌悪感が生じる場合もあるが、会社の業務遂行上著しい支障を来すおそれがあるレベルに達しない限り、やはり服務命令で禁止したりできないとする。

4 まとめ

 裁判所としては、LGBTの当事者が真剣に対応を求めた場合には、企業はこれに応じるのが原則であるというのが基本的な流れだ。国際的には、同性婚を認める方向にある。日本企業は今まで以上に海外展開し、その顧客はLGBTへの配慮について関心が高くなってきている。日本企業にも真剣な対応が求められそうだ。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約1年5ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
 
[著者情報] penpen

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

法務コラム
【国際法務入門】組織再編 会社分割
2017年06月21日(水)
19:00 ~ 22:00
25,000円(税込) ※平成29年2月15日開催のLBS体験講座に参加された方は10,000円減算した金額とさせていただきます。 なお、単回申込みを複数回される場合は、上記減算は初回分のみ適用となりますのでご了承ください。
東京都新宿区
講師情報
登島 和弘
インヴェンティヴ・ヘルス・ジャパン合同会社 アジア太平洋地域法務責任者
1961年神戸市生まれ
中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、
日本AT&T㈱(米系)契約課長、松下冷機株式会社法務室主事、
セジデム株式会社(仏系)コーポレートサービス部統括部長・法務部長兼任等、
を歴任し、現職。
*企業名は当時のまま。
※日本企業・外資系企業両方での国際法務経験が有り、両者の観点から国際法務
について指導を行います。
国際法務入門者向けの契約法務習得セミナーになります。
当日は、下記の流れで、こちらで用意したビジネスシチュエーションを題材に、
国際法務経験豊富な講師との双方向でのコミュニケーションを行い、
ときに、少人数のグループでのディスカッションを織り交ぜながら、
参加者が思考しアウトプットするプログラムとなっております。

売買契約・共同開発契約の審査や作成に必要な「知識」を習得するのはもちろんのこと、
一方的に話を聞くセミナーとは異なり、各契約を検討する上での「思考法・仕事術」などの
実践的な能力を習得出来るのが特徴です。

【講師からケースの説明】→【グループディスカッション】→【各グループの発表】→【講師レビュー】

★「体験講座」(2月15日開催)の参加者の声★
・書籍等では実務に近い情報が無い為、講座で具体的なケースを想定し仕事の進め方を理解出来てる内容がとてもよかったです。
・少人数で法務業務を担当している為、自分自身の経験、知識、感覚で仕事をしてしまう事が多く、
法務業務をする上で大事な思考のフレームワークを学べて良かったです。
・講義内容はもちろんですが、他社の法務担当の意見を聞く事が出来て、とても参考になりました。

★今回のテーマ★
「組織再編 会社分割」
・債務超過の状態にある、米国の職業紹介会社の日本法人が、事業許可の更新のために充足すべき資産要件について、いかなる方法でこれを充たすかを、組織再編の手法を用いて検討します。
・上記事案をベースに、組織再編を進めるための、法務部門の関連ファンクション(社長室・経理財務部・人事部・広報部等)との協力体制の築き方・動き方について検討します。
※ こちらで事前課題を用意し、受講前にケース理解を深めていただきます。
※ 本講座は「リーガルビジネススクール 国際法務担当者育成コース(全六回)」の第四回講座を兼ねております。そのため、そちらの申込者と一緒に本講座を受講いただく形となります。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務コラム
第84回MSサロン(名古屋会場)
2017年07月06日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
夏目久樹
愛知県豊橋市出身
名古屋大学法学部卒業・グロービス経営大学院修了(MBA)
平成18年の弁護士登録以来、上場企業から個人事業主まで事業規模にかかわらず、労使間の団体交渉及び個別労働問題(残業代、懲戒処分、労働災害、セクハラ・パワハラ等)に携わり、その解決に尽力している。
また、企業間取引や事業承継・内部紛争(支配権争い等)に絡む案件にも注力している。
MBAを取得し、法律のみならず経営の視点も加味した解決方法をアドバイスすることを日々意識している。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「残業代請求に対する実務対応」です。
申込・詳細はコチラ
法務コラム
第85回MSサロン(東京会場)
2017年07月26日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
大東泰雄
のぞみ総合法律事務所 弁護士

平成13年慶應義塾大学法学部卒業,平成24年一橋大学大学院国際企業戦略研究科修士課程修了。
平成14年弁護士登録。
平成21年4月から平成24年3月まで,公取委審査局審査専門官(主査)として,独占禁止法違反被疑事件の審査・審判実務に従事。

公取委勤務経験を活かし,独禁法違反事件対応(リニエンシー申請,社内調査,公取委対応,審判等),企業結合審査対応,独禁法関係民事訴訟,下請法,景品表示法等に関する業務を主軸とし,その他企業法務全般を扱っている。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「下請法運用強化と対応のポイント」です。
申込・詳細はコチラ
法務コラム
第83回MSサロン(大阪会場)
2017年06月15日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
浜田雄久弁護士 河端直弁護士
弁護士 浜田雄久
1995(平成7)年4月 大阪弁護士会に弁護士登録、なにわ共同法律事務所入所
2004(平成16)年8月 アメリカ合衆国Duke University School of Lawに留学(翌年法学修士号取得)
2005(平成17)年8月 シンガポール共和国 Rajah & Tann 法律事務所において研修開始
2006(平成18)年3月 ニューヨーク州弁護士登録
2006(平成18)年8月 なにわ共同法律事務所復帰

弁護士 河端直
2014(平成26)年12月
大阪弁護士会に弁護士登録 
なにわ共同法律事務所入所
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「契約書チェックポイント(業務委託系契約)」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)

あわせて抑えておきたい関連記事

「物言う株主」たちの戦い -2012年夏の株主総会を読み解く-... 27日から28日にかけて全国的に3月期決算会社の株主総会が数多く開催されたが、相次ぐ企業の不祥事を反映して、各所で大荒れの展開となった。 自治体VS企業 まず脚光を浴びたのは、地方自治体による電力会社の糾弾である。東京電力の筆頭株主である東京都の猪瀬直樹副知事は、27日開催の株主総会において舌鋒...
独占禁止法に新ガイドライン、選択的流通とは!... 選択的流通の導入  平成27年2月5日、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下「流通・取引ガイドライン」)の一部改正(案)(以下「改正案」)が公表された。流通・取引慣行ガイドラインとは、事業者が独占禁止法に違反せず安心して適法に事業活動を行えるようにすることを目的として、公正取引委員...
歌舞伎町から客引き、客待ちがなくなる?-新宿区、条例案を区議会に提出-... 新宿区が条例案を区議会に提出  これまで新宿区の商店街組合には、客引きや客待ちに対する苦情が、特に女性や家族連れから跡を絶たなかった。そこで、今月10日、新宿区が「客引きの防止に関する条例案」(以下、本条例という)を区議会に提出した。区としては、9月施行を目指す模様である。本条例は風俗店のみな...