IT企業のデータ収集に「優越的地位の濫用」適用へ

はじめに

 公正取引委員会は21日、巨大IT企業による個人データ収集行為に対しても独禁法の優越的地位の濫用を適用し得るとの考え方を示しました。独禁法の運用のIT化への対応の一環と言えます。今回は優越的地位の濫用を公取委の審決例から見直していきます。

事案の概要

 杉本委員長は21日、公取委は今後IT企業に個人データを提供している消費者への調査を通じてIT企業によるデータ収集の実態を把握し、独禁法の優越的地位の濫用の規定が適用できないかを検討していくと発表しました。デジタル化が急速に進む中、個人情報がより大きな価値を持つようになってきており、これまでの事業者と事業者の関係だけでなく、事業者と個人消費者との関係でも独禁法の適用を考える必要が出てきたということです。公取委はかねてよりプラットフォーマーと呼ばれるIT大手企業によるデータの囲い込みを問題視してきており、これらの分野へも積極的に独禁法の適用を検討していく姿勢を示しております。

優越的地位の濫用とは

 優越的地位の濫用についてはこれまでも何度か取り上げましたが、ここでも簡単に触れておきます。独禁法2条9項5号によりますと、自己の取引上の地位が相手に優越していることを利用して正常な商慣習に照らして不当に、①購入の強制、②金銭・役務その他の利益の提供強制、③受領拒否、引取強制、支払い遅延、減額、不利益条件の強制などを行うことが禁止されます。違反した場合には排除措置命令(20条)、課徴金の対象となります(20条の6)。

優越的地位の濫用に関する審決例

(1)三越事件
 昭和50年頃から三越百貨店は商品の納入業者に対し、自社の商品の購入や映画の前売り券、花火大会の入場券、海外旅行などの購入を要請し、また売場改装や大売り出しなどの催し物の費用の一部を負担させていたとされる事例で公取委は優越的地位の濫用に当たるとして排除措置命令を出しました(審決昭和57年6月17日)。優越的地位の濫用に当たるとされた最初の事例となります。

(2)ローソン事件
 大手コンビニチェーンのローソンは平成9年頃から商品の納入業者に対し特段の算出根拠のない金銭提供の要請を行い、また商品を1円で納入させ、在庫処分費用として約13億円を負担させたとされる事例で公取委は優越的地位の濫用に当たるとし、排除措置命令をだしました(審決平成10年7月30日)。これはコンビニ業界に適用された初めての事例とされております。

(3)三井住友銀行事件
 三井住友銀行は平成13年頃から融資先事業者に対して新規の融資申し込みや融資の更新の申し込みを受けた場合に同行が販売している金融派生商品である金利スワップの購入を要請しておりました。その際、金利スワップの購入が融資の条件である旨や購入しなければ融資条件が不利になる旨を示していたとされます。公取委は優越的地位の濫用に当たるとし排除措置命令を出しました(勧告審決平成17年12月26日)。

(4)ドン・キホーテ事件
 ディスカウント最大手のドン・キホーテは平成15年頃から商品の納入業者に対し自社の店舗の新規オープンに際し商品陳列作業を行わせるため従業員の派遣を要請し、延べ約5200人の従業員を派遣させたとされます。また納入業者に納入金額の1%に相当する金額の提供を要請し、総額約3億円を受け取っていたとされます。公取委は優越的地位の濫用に当たるとして排除措置命令をたしております(審決平成19年6月22日)。

コメント

 以上のように優越的地位の濫用は大型小売店や金融機関、フランチャイザーなど取引上優位な立場にある事業者が不利な立場の相手事業者に従業員の派遣や金銭の要求、商品の購入などを強いるといった事例に適用されてきました。商慣習に照らして合理的な理由がないにもかかわらず従わざるを得ない立場を利用した不当な行為の典型例でありイメージしやすい例と言えます。それ故に大手事業者と中小事業者といった関係の場合に適用するという運用が長年なされており、消費者を相手とする事例には適用されてきませんでした。しかし解釈上は「取引の相手方」に限定がないことから消費者も含まれるとされてきました。昨今公取委はIT化・グローバル化が急速に進む日本の産業界に独禁法の運用を合わせていく方針を取っております。巨大IT事業者を利用せざるを得ない消費者から個人情報の提供を余儀なくさせる場合には適用も可能ではないかということです。現在独禁法の改正案も固まっており、今後公取委の運用も変化していくことが予想されます。このような動きを注視しつつ自社の取引状況を今一度確認することが重要と言えるでしょう。

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