京大吉田寮に京都地裁が決定、占有移転禁止の仮処分とは

はじめに

 京都大学が老朽化した学生寮「吉田寮」に住む寮生に立ち退きを求めている問題で、京都地裁は占有移転禁止の仮処分決定を出していたことがわかりました。17日午前に執行官により保全執行がなされたとのことです。今回は民事保全法の仮処分について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、京都大学の学生寮である吉田寮は吉田キャンパス内に存在する築105年の日本最古の学生寮とされております。現在吉田寮は老朽化と耐震性基準を満たさないことなどから、京都大学では昨年2018年9月末をもって全寮生の退去を求めておりました。大学側は同年10月1日、居住を続ける寮生に対し退去通告書を寮に掲示し、また電話を使えなくする措置を行ったとのことです。そして今後別の人が寮で居住しないようにするため占有移転禁止の仮処分決定が京都地裁により出され、執行官によって公示書が掲示されました。

占有移転禁止の仮処分とは

 建物の明渡しを求め訴訟を起こしても、いつのまにか別人が住んでいたりすると勝訴してもその判決書では強制執行できないということになってしまいます。その別人は被告ではないからです。これでは訴訟をする意味がなくなってしまいます。そこで民事保全法に基づき占有移転禁止の仮処分を申し立てることになります。これをしておくことによって、その後明渡しの執行を行う際に別人が住んでいたとしても、その人を相手に執行することができるようになります。

仮処分手続の流れ

 仮処分の申立はまず明渡しを求める訴訟を提起する裁判所か、または目的の不動産の管轄裁判所に①申立の趣旨、②保全すべき権利、③仮処分の必要性を書面で明示して申し立てることになります(民事保全法13条1項)。ここではその場で取り調べられる書面などの証拠によって簡易な手続で審理され決定が出されます。占有移転禁止の仮処分決定が出されると、執行官により、現在当該建物は執行官が保管していること、他人に占有を移転することは禁止されていることが公示書に示され貼り付けられます。この公示書を勝手に剥がしたりすると1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される場合があり(66条)また執行官によって貼り直されます。

占有移転禁止の仮処分の効果

 民事保全法62条によりますと、占有移転禁止の仮処分がなされた場合は、①仮処分を知って当該係争物を占有した者、②係争物について債務者の占有を承継した者に対して強制執行ができるとしています。また仮処分執行後に占有した者は「執行がされたことを知って占有したもの」と推定されております(同2項)。これは仮処分の執行を知らずに占有したと自ら証明しない限り知っていたことになるということです。しかし通常、公示書が目立つところに貼り付けられていることから証明は困難と言えます。このようにして訴訟が終わるまでに占有者が転々してもそのまま執行できるということです。

コメント

 本件で、京都地裁の執行官は17日午前に吉田寮に占有移転禁止の仮処分決定が出された旨の公示書を貼り付けました。これにより以後新たに吉田寮に入寮することが禁止され、現在の入寮者を当事者として明渡し訴訟が提起されていくことが予想されます。今後新たに入寮者が出ても、その確定判決でその者に対しても強制執行が可能となります。以上のように民事保全法の仮処分は訴訟の判決が確定し、執行に入るまでに当事者が転々入れ替わることによって執行できなくなるという事態を防止することができます。土地や建物の明渡し以外にも、売買などによる所有権の移転登記を保全するための「処分禁止の仮処分」というものも存在します。二重譲渡で第三者に登記され所有権を取られてしまうことを防止できます。不動産取引などで紛争が生じた場合には訴訟と平行して、迅速な保全手続も検討することが重要と言えるでしょう。

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■上田潤一
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01年東京大学法学部卒業
04年弁護士登録
12年米国Vanderbilt University卒業(LL.M.)
13年ニューヨーク州弁護士登録、英国University College London卒業(LL.M.)
労働法、社会保険・労働保険・年金に関連する法律、会社法、個人情報保護法等の法分野に関する業務を中心に、労働案件、一般企業法務の案件、紛争案件等を取り扱っている。
著作に『仕事でよく使う・すぐに応用できるビジネス契約書作成ガイド』(共著)(清文社、2017)、『実務Q&Aシリーズ 懲戒処分・解雇』(共著)(労務行政、2017)等がある。

■荻野聡之
アンダーソン・毛利・友常法律事務所/アソシエイト弁護士

03年東京大学法学部卒業
06年東京大学法科大学院卒業(法務博士(専門職))
08年弁護士登録
労働法、危機管理、事業再生等の法分野に関する業務を中心に取り扱っている。
著作に『企業のための労働実務ガイド1 Q&Aと書式 解雇・退職』(共著)(商事法務、2013)、『労使双方の視点で考える 27のケースから学ぶ労働事件解決の実務』(共著)(日本法令、2015)、『M&Aにおける労働法務DDのポイント』(共著)(商事法務、2017年)等がある。

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1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。

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