山陽自動車道トンネル事故で会社役員を起訴、「過労運転下命」とは

法務担当者が“法務”を語る新しいWEBメディアはコチラ

はじめに

今年3月、東広島市の山陽自動車道トンネルで起きたトラック追突による死亡事故で運転手に過労運転をさせていたとして運送会社「ツカサ運輸」(埼玉県川口市)の役員及び法人としての会社の初公判が5日、広島地裁で開かれました。運転手だけでなく運行管理している会社や役員等も罰せられる過労運転について見ていきます。

事件の概要

今年3月、東広島市にある山陽自動車道八本松トンネルの下り線で渋滞中の車の列にトラックが突っ込み、乗用車等11が巻き込まれ、そのうち5台が炎上しました。この事故で2人が死亡し、トラックを運転していた「ゴーイチマルエキスライン」の社員皆見成導被告(33)が自動車運転処罰法違反で逮捕・起訴されました。皆見被告は慢性的な睡眠不足状態で事故を起こす危険性を認識していたにもかかわらず運転を続けていたとして懲役4年の実刑判決が確定しております。同判決で裁判所は「責任は勤務会社にもある」と指摘し、広島地検は同社及び運行管理を行っていた役員の後藤隆司被告(42)を過労運転を指示していたとして道路交通法違反の容疑で逮捕・起訴しました。起訴状によりますと、別の社員に対しても労使協定に反して1日8時間を超える時間外労働を行わせ、2週間に1日の休日も与えていなかったとしています。なお「ゴーイチマルエキスライン」はその後社名を「ツカサ運輸」と変更しております。

過労運転とは

道路交通法66条によりますと、「過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転が出来ないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。」としています。飲酒・酒気帯び運転が許されないことは常識ですが(65条)それ以外にも正常な運転ができない体調での運転が禁止されております。違反した場合は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金となり、違反点数は25点で一発免停となります。ではどのような場合に「過労」となるのでしょうか。厚労省告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」によりますと以下ような基準が設けられております。

①運転手の拘束時間が1ヶ月293時間(労使協定で320時間まで延長可)まで
②1日の拘束時間が13時間(労使協定で16時間まで延長可)まで
③勤務終了後8時間以上の継続した休息を与えなければならない
④運転時間が2日平均で1日あたり9時間、2週間平均で1週間あたり44時間を超えない

これに違反している場合には過労運転であると認定される可能性が高いと言えます。この基準はあくまでも過労運転該当性の認定の基準の一つに過ぎませんが、裁判所は原則としてこの基準を重視しているように思われます。

過労運転下命とは

75条1項によりますと「使用者は・・・自動車の運転者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることを命じ、又は・・・容認してはならない。」としています。そして同4号では上記過労運転が挙げられております。これに違反した場合は過労運転と同様に3年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっております。過労運転を行った運転者だけでなく、過労状態にあるにもかかわらず運転を命じ、または運転しているのを容認した使用者にも同様の責任を負わせる規定となっております。

コメント

本件で検察側は運行管理を行っていた後藤被告に1年6月の懲役、法人としての同社に50万円の罰金を求刑しております。1日の時間外労働が8時間を超え、ほとんど休暇が与えられていなかった皆見被告は当時「正常な運転が出来ないおそれがある状態」であったと言えます。そしてそのような過労状態であったことを知りつつ運行指示を行っていた両被告には危険運転下命に該当することなると言えるでしょう。本件は上記基準に明らかに違反しており要件該当性がわかりやすい事例と言えますが、過労状態の認定が微妙な事例では、運転者や家族の供述、現場や家庭での様子、産業医の診断等様々の要素を加味して「正常な運転が出来ないおそれがある状態」であったかを判断していると言えます。そして運行管理者は運転手のそういった状態を知るべき立場にあると判断されているようです。本罪はあくまで過労運転を行った場合であって、それにより事故を起こした場合は別途自動車運転処罰法等の罰則が加わります。また使用していた会社側にも別途、労働基準法違反による罰則や行政処分、民事上の賠償責任、そして信用失墜という社会的制裁が生じることになります。旅客運送、貨物運送業者はコスト面から運転者に無理な業務をさせてしまう傾向にありますが、過労運転による損失は相当重いものと言えます。自動車を運転する従業員の労務管理については、この点も注意して見直すことが重要と言えるでしょう。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約3年4ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

労務法務 労働法
《東京会場》2020年の注目すべき法改正と法務トピック
2020年02月25日(火)
13:30 ~ 16:30
22,000円(税込)
東京都港区
講師情報
淵邊 善彦
ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士

1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。
2020年は改正民法、改正独禁法、働き方改革関連法など重要な法改正が施行され、個人情報保護法などの改正も予定されています。

本セミナーは、これらの法改正の概要とそれがビジネスにどのような影響を与えるかを具体的に解説します。

重要な法改正の動きを俯瞰的に把握するとともに、各法改正が実務に与えるインパクトを理解することにより、社内においてメリハリがついた対応策を検討したり、社内研修を行ったりするための参考にしていただきたいと思います。

また、今年特に話題になりそうな法務トピックを取り上げ、その最新の状況をご紹介し、自社の法務部門の今後を考えるきっかけとしてもご活用いただける内容になっています。
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

「ビッグデータ活用へ -個人情報保護法改正案」... Suica事例  ビッグデータについては、「総務省 情報通信技術の進展により、生成・収拾・蓄積等が可能・容易になる多種多量のデータ」として平成24年政策白書でも取り上げられている。このビッグデータの活用例として有名になったのは、Suica(スイカ)に記録されたデータの利用である。  JR東日本は、...
中小企業にとって大打撃?の改正労基法の「割増賃金率の適用猶予廃止」... 【審議の状況】 大幅延長している今国会は、最大の焦点の安全保障関連法案が16日に衆院を通過し、参院審議の行方が注目される。一方、安倍内閣が労働改革の柱に掲げる労働基準法改正案などの重要法案は審議入りのめども立っていない状況となっている。 労働基準法の改正案は、平成27年4月に国会に提出されている。...
自転車のマナー悪化を見逃すな 概要 相次ぐ自転車事故を受け、警視庁は自転車について、原則、車道の左側を走行することを周知徹底させる方針を盛り込んだ「自転車安全対策」を今月中にも作成することがわかった。今年8月までに東京都内で起きた自転車が絡む事故は交通事故全体のおよそ4割と過去最悪に迫っており、警視庁は全国で初めての措置を取る...