ソニーによる電池事業の譲渡

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はじめに

7月28日、ソニーが、子会社で郡山市に拠点を置くソニーエナジーデバイス社を、村田製作所に対して譲渡する旨の、電池事業の譲渡を公表しました。具体的な手続きがこれから進められる段階ですが、ソニーにとっては海外メーカーとの価格競争により赤字が続いていた事業を譲渡することにより経営を合理化できるメリットがある一方で、村田製作所にとっては、ソニーの先端技術やノウハウを自社の製品開発に役立てられるというメリットが考えられます。今回は、事業譲渡に焦点をあて、手続きを確認していきます。

事業譲渡とは

事業譲渡とは、会社の事業の全部又は重要な一部を他の会社に受け継がせることをいいます。ここでいう「事業」には、一定の事業目的を有する有機的一体的に機能する財産が含まれ、人員、不動産などの資産、取引先、経営上のノウハウなど事業譲渡契約の上で様々な事項を取り決めることになります。

事業譲渡と会社分割の使い分け

事業譲渡の方が、会社分割に比べて手続きがシンプル(債権者保護手続きがないなど)であり、使いやすいというメリットがあります。
しかし、法的効果が特定承継であるため、債務を承継する際に、個々の債権者の同意が必要となるため、この点では煩雑さがあります。
これに対して、会社分割は包括承継であるため、個々の契約当事者の同意を得ることなく、包括的に契約関係を移転することが可能です。
他のメリット・デメリットにつき、弊社サイトの過去の記事が参考になります。
特許切れ薬売却にみる事業譲渡と会社分割のメリット・デメリット

事業譲渡を行う場合の法的な手続き

○原則
事業譲渡は個々の財産を相手方に受け継がせる取引行為ですが、株主の利害に重大な影響を与えることから、原則として株主総会の特別決議(会社法、以下、単に「会」467条1項各号参照)が必要となります。
他方、譲受会社では原則として不要となります。
○例外
注意すべき点は、例外的に株主総会の決議が不要(譲渡会社)ないし必要(譲受会社)となる場合がある点です。
①譲渡会社側で株主総会の決議が不要となる場合
a) 簡易事業譲渡(会467条1項2号)
事業の譲渡会社側で譲渡する資産の帳簿価額の合計額が総資産の20パーセント以下の場合
この場合、株主の利害に重大な影響が生じないことが理由で株主総会が不要となります。
b)略式事業譲渡(会468条1項)
事業譲渡の相手方が当該事業譲渡等をする株式会社の特別支配会社である場合
特別支配会社とは、例えば、譲受会社が譲渡会社X社の親会社Y社であり、そのY社がX社の総株主の議決権の90%以上を単独で又はY社とその完全子会社Z社とが共同でもっている場合などが例となります。
この場合、事業譲渡契約が株主総会決議によって覆されることがないため、株主総会が不要となります。
②譲受会社側で株主総会の決議が必要となる場合
a)事業の全部の譲受の場合(会467条1項3号)
※ただし、事業の全部の譲受であっても、対価の額が総資産の5分の1以下の場合は不要(会468条2項)
c)略式事業譲渡(会468条1項)
譲渡会社の側で、譲受会社の総株主の議決権の90%以上を有する場合も、譲受側での株主総会決議は不要です。

公正取引委員会への届け出

譲渡会社が一定の売り上げ規模を有する場合には、公正取引委員会に届け出る必要が出る場合があります(独禁法16条2項)。
http://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/kigyoketsugo/todokede/jigyo2.html

他の注意点

・事業譲渡の当事者が上場企業である場合、適時開示への対応
・事業譲渡の実行を制限する約定がないか確認(コベナンツ条項・労働組合の事前承認等の確認)
・機密保持契約
・譲渡側で競業禁止にするかどうかの確認

反対株主の株式買取請求権

事業譲渡にあたって、株主総会に先立って当該事業譲渡等に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該事業譲渡等に反対した株主は、自己の有する株式を会社に対して買い取ることを請求することができます(会469条)。会社としては、株式買取請求権が行使できる旨を株主に対して通知する必要があります。

事業譲渡のトラブル事例

・譲渡対象の物件を明確にしなかったために、業務継続に必要な機器が引き渡しされなかった。
・譲渡対価の支払期日や物件の引渡し期日があいまいで、事業譲渡がスムーズに行えない。
・譲渡前の債務や各種トラブルがあれば、その扱いを定めておかないと事業継続が困難となる程の問題に発展してしまう。
・譲渡する営業に関して、その機密の扱いを定めないと想定外の競合の出現を許すことになる。
・譲渡する営業について、譲渡者に競業禁止とするかどうかを定めないと、深刻な競合が発生するリスクを残してしまう。
遠山行政書士事務所

コメント

事業譲渡や組織再編行為は、従業員や株主に多大な影響が生じます。そして、事業譲渡については、手続きの瑕疵が取引の無効を導くとした判例もあります(最判昭和61年9月11日)。
それだけに法務担当者としては、リスクを最小化し、事業譲渡によって生じる双方のメリットを最大化するため、慎重に手続きを進めていく必要があります。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約3年6ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
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[著者情報] fukuyama

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2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。
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